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決裂

「イルビア……なのか……?」


「うん。この人、いちいち癖も能力も独特だから、真似出来るようになるまで時間がかかったんだよ? 可能なら他の人にしたかったくらいに」


 そう言って笑みを浮かべたイルビアに、俺は物恐ろしさを感じた。


「そしてここはね? 調停の間って呼ばれていて、神様でも干渉が出来ないらしいの。つまり、あの忌々しい神様も、ここに居れば手が出せないね」


 忌々しい神様……善神のことか……。でも、何でイルビアは俺をこんなところに……?

 

「こんなとこまで連れてきて、何が目的だ……?」


 もし、俺倒しにきたなんて言われたら――。


「何って……お兄ちゃんと話しに来たんだよ? 前にも言ったでしょ? 今度は本体ほんものの私と二人っきりで楽しもうって」


 それを聞いて、俺の抱いた不安が杞憂だったことを知り、小さく安堵の息を吐いた。


 正直、何の準備も出来ていない中、逃げることも出来ないこの場所でイルビアと戦うことになっていたらどうなっていたかわからない。


 とはいえ、警戒は怠らない方が良いだろう。


俺はいつでも応戦出来るように警戒しつつ、イルビアに問いかけた。


「話って……なんだ?」


「簡単な話だよ。お兄ちゃん、邪神こっち側に付かない?」


「またそれか……。悪いが、その話に乗るつもりは――ッ!?」


 俺が言葉を言いきる前に、イルビアはいつの間にか俺の目の前に移動していて、自らの人差し指を俺の口に当て、俺の言葉を中断させていた。


「まだ最後まで話してないの。だから、返事をするのは後でも遅くはないでしょ?」


 そう言って俺の口から指を離したイルビアから、俺は少し距離を取り。


「……別に、話を聞いたとしても俺の意思は変わらないと思うぞ」


「そのときはそのときでいいよ? お兄ちゃんの好きなように答えてくれれば。それじゃ、まずはここの説明から入るね」


 イルビアは振り返り、前方に書かれている壁画を腕を伸ばして指差し。


「あれは遠い昔、神同士が戦っていた様子が描かれたものなの。もちろん、戦っているのは善神と邪神……この世界の支配権をかけて、あの二人の神は戦ったの」


「支配権……?」


「そう。そして3日3晩戦って、見事勝った善神は支配権を手に入れたの、そのとき、調停の場となったのがここと言われているみたい」


 ここが調停の場……か。……あれ?


「なんで、こんな遺跡の奥なんかに調停の場が……」


「それは、この調停の場を元に昔の人が遺跡を作ったから。神聖な場所なんだし、無闇に人が来ないようにしないといけないからね。それで、話を元に戻すけど……」


 イルビアは壁画の方を向くのをやめ、俺の方へと視線を移し。


「単刀直入に言うとね、邪神はあと数ヶ月で死んじゃうんだ」


「………………………………………………え?」


 邪神が…………もうすぐ死ぬ? 


「世界を支配したところで死ぬんだったら、こんなことをする意味は……?」


「本来、支配権を得られなかった神様は強制的に封印されて、支配権を得た神様の邪魔が出来なくなるの。そして、支配権を得た神様が世界を完全を作り終えたそのときには、支配権を得られなかった神様は消滅させられる。世界に2人も神様はいらないってことでね。それが、世界が作られるときに決められるルールなんだって」


 つまり……自分が消えたくないから邪神は抵抗しようとしてるってことか……? 


「ってことは邪神の思惑が成功したときには……」


「そう。邪神のかわりに善神が消えることになっちゃうね」


 善神が消えて、邪神が作る世界か……そんなの、想像しただけで恐ろしい。


「……じゃあ、なおさらそっち側にはいけないな」


 俺がそう言うと、イルビアはわざとらしく口を尖らせると。


「まあこの話を聞いただけじゃそうだよね」


「……まだあるのか?」


「当たり前だよ。今のはただの説明だったし」


 そう言ってイルビアは一歩俺に近づくと。


「お兄ちゃん……スキルが使えなくなってるでしょ?」


「っ!? 何でそれを……!?」


「私はお兄ちゃんの事なら何でもわかるからね」


 その理由に何故か少し寒気を感じた。


 確かに最近、俺は前まで使えていた高速移動やヒールがまったく使えなくなっていたが……。


「どうして今そんなことを……?」


「え? だってそれが使えなくなったのはお兄ちゃんが邪神の力から善神の力に乗り換えたからだよ?」


「……それってどういう――」


「つまりね、お兄ちゃんは神の力に適正があって、なおかつ善神の力よりも、邪神の力の方が圧倒的にお兄ちゃんに合うってこと。多分、お兄ちゃんなら邪神の力を心から受け入れれば何でも出来ちゃうんじゃないかな?」


「いや、でも――」 


「それに」


 イルビアはもう一歩俺に近づき。


「今のお兄ちゃん達じゃ邪神なんて絶対に倒せない。全員殺されちゃうのが末路だと思うよ?」


「……」


 イルビアはさらに俺に近づき、目の前まで来ると。


「邪神がね、もしもこっち側につくならお兄ちゃんの親しい人の身の安全は保証してくれるって言ってるの。だからね、お兄ちゃん。何でも好きなように出来る力を手に入れて、私と一緒にこの世界を――」


 そう言ってイルビアは俺の顔に手を伸ばしてきた。


 だが、それを俺は横に払いのけた。


「悪いが……それでも俺はそっち側にはつけない」


 その言葉に、イルビアは特に驚きもしなかった。


「どうして? お兄ちゃんの周りの人は誰も死なずに済むんだよ?」


「確かにそうだな。でも、そのかわりに不特定多数の人を死なせるなんてことは俺には出来ない。それに――やる前から諦めたくないからな」


 俺の言葉を聞いたイルビアは、不満げな表情を見せずに、むしろ口角を上げたかと思うと、声高らかに笑いだした。


「あはははははははは!! そうだよ! そうでなくちゃ! お兄ちゃんなら(・・・・・・・)そう言うと思ってた!(・・・・・・・・・・)


……そう言うと思ってた……? 


 一人考えていると、イルビアは笑い終えたようで、再び俺に話しかけてきた。


「ふぅ、残念だけど交渉は決裂かな。でも、お兄ちゃんの気持ちが聞けて安心したよ」


「安心?」


「うん。だって、次にお兄ちゃんと会うときは多分、手加減出来ないから。やる気の無い相手と戦うことにほどつまらない事ってないでしょ?」


「そういう事かよ……」


「そういう事。じゃあ私の用事は済んだから帰るね。次に会うときには――遠慮せずに私に向かってきてね」


「ちょ! 待て! ひとつ聞きたいことが――!!」


 そう言って伸ばした俺の手は、イルビアに届くことはなかった。


 イルビアはすでに目の前から消えていて、後ろの扉はいつの間にか開いていた。


 「お前が本当に伝えたかった事は……何だったんだ……?」


 ポツリと呟いた俺の言葉に、答える者は誰も居なかった。

説明回みたいになってしまったことを猛省いたしますと共に、更新が遅れたことを深くお詫び申し上げます。

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