自らの招いた災難
「ああ……まだジンジンしますよ……」
あのあとリンクさんと一緒に扉を通ったが、未だに鼻が痛むようで、鼻を押さえながら歩いていた。
扉はすでに閉じてしまったが、扉に書いてあることから察するに、裏側からでも同じことをすれば扉はきちんと開くらしい。
とはいえ扉が閉じたことにより完全に光が届かなくなってしまったため、リンクさんが持っていたランプを俺が持ち、その光を頼りに奥へと進んでいた。
「…………ん?」
しばらく歩いていると、俺たちは行き止まりに到着してしまったらしく、また道が途絶えてしまった。
「あれ? また行き止まりですか?」
「そうみたいですね」
リンクさんはキョロキョロと周囲を見渡すと、一点に視線を集中させ、そこを指差した。
「あそこ……くぼんでませんか?」
「え?」
リンクさんが指差すところを見ると、確かに壁が四角い形にくぼんでいた。
「ほんとだ……。いや、でもあれトラップじゃないですか?」
あのようなわかりやすい仕掛けはトラップの可能性が高いと聞くので、俺はその危険性をリンクさんに伝えたのだが、
「え?」
既にリンクさんはくぼみに手を突っ込んでいた。
そして、カチッと何かを押したような音が聞こえた。
「…………あの」
「……………………」
数秒の間リンクさんは沈黙していたが、すぐにハッとした顔になると
「いや! 大丈夫ですよ! この遺跡ではトラップが発見されてませんから! だからこれがまさかトラップなんてことは――」
リンクさんが必死に弁明をしていると、行き止まりの方から、ガコンッ! という音が聞こえた。
どうやら行き止まりは一枚の厚い石板から出来ていたらしく、その石板が段々と上昇していき、やがて道が開いた。
しばらく様子見をしたが、特に何か起こりそうな様子はなかった。
「ほら! やっぱり正解だったんですよ!! ここの遺跡にトラップなんて無かったんです!!」
そう言ってリンクさんが自信に溢れた表情で一歩足を踏み出したそのときだった。
カサカサカサカサカサカサカサッ! と、多くの足音のようなものが聞こえ、開いた道の奥から赤く光る点が大量に近づいてくるのが見えた。
俺は恐る恐るランプを前に出してみると、こちらへ向かっていているものの正体がわかった。
大量の巨大な蜘蛛達だった。
俺はそれを確認したあとに責めるような視線でリンクさんを睨んだが、リンクさんは悪びれる様子もなく頭を掻きながら、
「いやぁ、まさかトラップじゃないと思わせておいてトラップだったとは……これは一本取られましたね」
いや、ただそのまんまトラップだっただろ。
「さて、アルさん。ここでひとつご報告があります」
「なんですか?」
リンクさんは片眼鏡の位置を片手で整えながら胸を張ると、
「――僕、とても蜘蛛が苦手です」
そんな誇らしげに言うことじゃないだろ。
「なので全力の防衛をお願いします。半径5m以内にあの蜘蛛が来たら多分僕はショック死します」
流石にメンタル弱すぎるだろ。けど、そうなるとやれるのは俺だけだし……。
「わかりました。全力でリンクさんを守ります」
「ええ、お願いします。ランプはこちらが預かりますので」
「すみません。お願いします」
リンクさんにランプを渡して、迫り来る蜘蛛達を前に構えたそのときだった。
「えい」
後方から蜘蛛達に向けてランプが投げられていた。
「え……? あのリンクさ――」
思わずリンクさんの方を振り向いた俺の耳に、カシャンッとランプが地に落ちた音が聞こえた瞬間、耳をつんざくような爆音が遺跡内に響き渡った。
「――っ!?」
予期せぬ爆音に驚きながらも、煙が晴れた爆心地を見てみると、蜘蛛達は一匹残らず灰と化していた。
「……リンクさん、これは一体……」
「これ、普段はランプなんですが、窮地に陥ったときには強力な武器になる特別なランプなんです」
「いや、そうではなく」
「ああ、大丈夫ですよ。ランプは一応2~3個持ってきてあるので、まだストックがあります」
「えっと、そうでもなくてですね」
俺が何を言いたいのかわからないのか、リンクさんは首を傾げていた。
「その……こんなとこで破壊力満点な爆発なんて起こしたら、この洞窟が崩れて俺達は生き埋めになってたかもしれないんですが……。もし爆心地周辺だけが崩れたとしても、そのときは道が瓦礫に塞がれて通れなくなってたと思うんですよ」
リンクさんはもしそうなっていたときの光景を想像したのか、顔を青ざめさせながら沈黙したのだった。
同時刻、王都にある果物屋に一人の客が訪れていた。
「ギンさん、お久しぶりです」
ギンは声をかけられた方を向いて、不思議そうな顔をした。
「リンク……? お前とはさっき会ったばっかだろ?」
「え? 僕はさっき王都に到着したばかりですよ? 不幸な目にあって来るのが2~3日くらい遅くなっちゃいましたけどね」
参っちゃいますよ。と頭に手を当てながら陽気に言うリンクを余所に、ギンは冷や汗をかきながら呟いた。
「ならアイツは……誰だったんだ?」
ギンの言葉に、リンクはただ不思議そうに首を傾げたのだった。