面会
「俺に指名依頼……ですか?」
「ええ、そうよ」
ある日、俺はルリからヘレンさんがギルドで俺のことを呼んでいると聞いてギルドに行くと、ヘレンさんから指名依頼書というものを渡された。
指名依頼というのは、ギルドに在籍している特定の人物を指名して依頼を申し込むというもので、有名な冒険家には指名依頼が来ることも珍しくないらしい。
「なんで俺に指名依頼が……?」
だが、俺は別に有名なわけでもないし、強い部分を晒けだしたわけでもないので、指名依頼が来た理由がわからなかった。
「うーん……それはあちらに座ってらっしゃる依頼者の方に聞いてみないことには……」
ヘレンさんが視線を向ける先を追うと、片眼鏡をかけて、茶色いスーツを着た、20代前半くらいの若い男性が居た。
「あの方が依頼者ですか?」
「ええ、なんでも学者さんらしいの」
へぇ、学者さんか。なんで学者さんが俺みたいな人に依頼してきたんだろ?
「ちなみに依頼内容はどんな感じなんですか?」
「それは今渡した指名依頼書の裏に書いてあるから、読んでみて」
ヘレンさんに言われるがままに俺は紙を裏返して、依頼内容を読み始めた。
「『レルゲ古代遺跡内への同行』……?」
レルゲ古代遺跡ってなんだ?
「レルゲ古代遺跡っていうのは最近見つかった古代遺跡らしいんだけど、まだ研究が進んでなくて、学者さんからしたら絶好の研究スポットらしいの」
「……ますます何で俺が選ばれたのかわからないんですが……」
「ま、まぁ……それは本人に聞くしかないんじゃない? 依頼内容に興味があるなら本人から話を聞いてみたら?」
「そうしてみます」
俺が学者さんの方に向かっていくと、学者さんはこちらを見てパァッと嬉しそうな顔をした。
「あっ! もしかして、依頼を受けてくださったんですね!?」
「いや、とりあえず話を聞きに来ただけなんですが……」
「アルさんの事はこのギルドで何度か見かけてましてね、貴方なら大丈夫だと僕の直感が告げてたんですよ!!」
「あの、俺の話を聞いて下さ――」
「安心してください。僕、直感には自信がありますから!」
胸を張ってドヤ顔する前に会話を成立させてくれ。
「えっと……まずは会話のキャッチボールから始めましょうか」
「何はともあれ、依頼を受けていただきありがとうございます!」
誰が会話のドッチボールをやれと言った。
まあ、別に依頼自体は断るつもりないんだけどさ……。
「それでは依頼内容について説明させていただきますので、どうぞおかけください」
そう言って、学者さんは自分が座っている対面の席に座るように促してきたので、俺は言われた通りに椅子に座った。
「さて、それでは説明の方に入らせて頂きますね。すでにご確認済みかと思いますが、今回アルさんに同行してもらいたいのは、レルゲ古代遺跡というところです。まだ発見されたばかりの遺跡で、調べれば調べるほどたくさんの物や情報が出てきます」
なるほど、ヘレンさんに聞いたのと大体同じだな。
「魔物が居るという報告は入ってませんし、トラップも今のところ発見されてません。遺跡までの道中でも強い魔物はまったく出てきませんので、危険性はほぼ無いと思います。ですので、今回必要なのは強さではなく、周囲に注意が向き、新しいものを発見しやすい人だと思いました」
「だから俺を指名した……ってことですか?」
「ええ! 何だかわかりませんが、貴方なら必ず他の学者では発見できなかった物を見つけられると直感が告げてるんです!」
なんで見ただけでそんな信用が生まれるんだよ。
「というわけで明日から探索を始めますのでよろしくお願いします!」
「え? いや……、え?」
明日に探索するのは別に構わないが、まだ俺は承諾の返事してないよね?
「では! また明日、今と同じ時間にここに来てください! それでは!」
「ちょっ! 待っ……!」
俺の言葉を聞くこともなく、学者の男はギルドを出ていってしまった。
いや、さっきも言ったけど別に断るつもりはなかったんだ。だけど、なんかこう……釈然としないな……。
「話し合いは終わったみたいね。どうだったの?」
近づいてきたヘレンさんに声をかけられた俺は、ヘレンさんの方を向き。
「せめて会話がしたかったですね」
ただただ本音を言ったのだった。




