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新魔王の様子見

リアルが多忙につき、更新が遅れて申し訳ございません。

 ヘレンさんとホノル村に行った日の前日に、ペドから『ユリアが会いたがっていた』という旨を聞いたので、その話を聞いた数日後である今日、俺は魔族領に行く準備をしていた。


 準備と言っても、共鳴転移石(シンクロストーン)を持つだけなので、すぐに仕度は完了した。


「さて、そろそろ行くか」


 俺は、共鳴転移石(シンクロストーン)を使うと魔王城へと転移した。


「ごぼへぁ!?」


 転移した瞬間、足元で何か踏みつけたような感触があった。


「ん?」


 足元を見ると、ペドが憤怒の表情で俺を見上げていた。


「貴様……今度は私自身を踏みつけるとは……今度こそ許さんぞ!!」


 俺は騒ぐペドから視線を外して、周囲を見渡した。


 ここは廊下のようで、曲がり角の向こうから少しドタバタという音が聞こえて騒がしいだけで、前回のようにペドが石像を作っている等ということでは無さそうだ。


 ここでペドが何か変なことをしていたら、因果応報ということで謝るつもりはなかったが、流石に今回はそういうわけでもないようだ。


 それなら、ここはしっかり謝っておくべきだろう。


「悪かったペド。いきなり踏みつけてごめんな。悪気は無かったんだ」


 そう言って俺がその場から退くと、ペドが意外そうな表情をしながら立ち上がった。


「お、おお……貴様にしては珍しく素直に謝罪したな……。そういう事なら許してやらんこともない」


 あれ? もしかしてコイツ実はロリコンな部分を除けば案外まともな奴なんじゃ――。


「ここに居たぞ!!」


 見ると、廊下の奥の方の曲がり角から、大勢の魔族達が押し寄せて来ていた。


「クソっ! もう見つかってしまったか!!」


 そう言って反対側に逃げ出そうとするペドの肩を、俺はガシッと掴んだ。


「何をする!? 離せ! アル・ウェイン!」


「いや……お前また何かしただろ?」


 その質問にペドは視線を反らし、一筋の汗を流した。


「いや、それはだな……何と言うか……つい、堪えきれず、ユリア様の部屋に忍び込んでしまったというか……」


 やっぱ因果応報じゃねぇか。謝った俺の誠意を返せ。


 俺の無言の圧力に耐えきれなくなったのか、ペドは無理矢理笑顔を作ると。


「……ハハッ!(甲高い声)」


「黙れ」


「ぬごふっ!!」


 思わずペドを殴り倒してしまった。


「アルさんが捕らえてくれたぞ!! 今のうちにペド様を捕まえろ!!」


 間髪を入れずに魔族達がペドに飛びかかり、ペドは縄で縛られ、拘束が完了したようだ。


「この変態どうします?」


「いつものように牢屋にぶちこんでおこう」


 いつも牢屋にぶちこまれてるのかお前。


 俺がペドに冷ややかな視線を向けていると、魔族の一人に話しかけられた。


「アルさん、ユリア様にご用事ですか? そうであればユリア様が居る部屋へとご案内しますが……」


「あ、じゃあお願いします」


「我々に敬語なんて不要ですよ。アルさんは我々の恩人なのですから」


「え? あ、はい……」


 って言われてもな……。正直、そこまで大したことはしてないと思うんだよなぁ……。


 思考にふけりながらも、魔族の後に付いていくと、一つの部屋に辿り着いた。


「ここにユリア様がいらっしゃいます。それではごゆっくり」


 そう言って魔族の人は去っていった。


 さて、じゃあ久しぶりの対面といきますか。


「ユリア、突然来て悪い、今大丈夫か?」


 ノックしながらそう言うと、中からガタッという音がした。


 あれ……? 部屋の中から何か走るような音が聞こえるような……。


「お兄ちゃん!?」


 バンッと開いた扉から、驚きの表情を浮かべたユリアが出てきた。


「え? なんで? どうしてここに?」


「いや、なんかペドが、ユリアが俺に会いたがってるって言ってたからさ」


「~~~~~っ!!」


 その言葉を聞いた瞬間、ユリアの顔が一気に真っ赤になった。


「……ペド、あとで張り倒さなきゃ……」


 視線を逸らしながら恐ろしいことを言うな。普通に聞こえてんぞ。


 ユリアはまだ少し赤いままの顔を俺に向けると。


「とりあえず、来てくれてありがとう! 入って!」


「おう、お邪魔するよ」


 中に入ると、執務室のような感じで、奥の机には、書類が少し積まれていた。


「へぇ……、もう仕事やってるんだな」


「うん。と言っても、今のところはお母さんが別室で8割くらいの書類を片付けてくれてるんだけどね。慣れるまでは、少ない枚数を一人で片付けていくことを目標にしなさいって言われたの」


「これで……2割なのか……」


 統治者に就くだけあって、仕事はかなり多いようだ。


「こんだけ仕事あったら大変だろ? まだ年頃だし、遊びたいとか思わないのか?」


「それは、まあ、たまにそう思うこともあるけど……、私が頑張って皆が平和に暮らせるんだったらこんなに幸せなことはないよ。それに、たまにお兄ちゃんが遊びに来てくれるだけでも私は満足だよ」


「そっか……立派になったな。どこぞの幼女趣向のある変態にも見習って欲しいもんだ」


「あ、あはは……まあ、うん。確かにペドには手を焼いているけど……、ペドにもかなり助けられてるの」


「え? ペドが?」


 嘘だろ? あのペドが助けになってるのか?


「うん。あんなんだけど、部下としてはかなり優秀なの。それに、私が悩みを抱えてモヤモヤしてるときにはいつも暴れだしてね、私達がペドを止め終わる頃には、私の悩みなんかどうでも良くなってるの。なんというか、ペドは自分からストレスの捌け口になってくれてるのかも……」


「アイツ……もしかして……」


 本当は良い奴じゃ――と続けようとしたそのとき、扉が開かれた。


「びゃああああああああああああ!! ユリア様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


 前言撤回、コイツやっぱただの変態だ。


「ってかお前さっき捕まってただろ!? なんでここに!?」


「ふはははははははは!! ユリア様に会うためならば牢屋の鉄柵など引き裂いてくれるわ!!」


「修復費用弁償しろよ」


「修復費用!? そんなもの、私のユリア様への愛に比べたらどうでも良――」


「……ペド?」


 重く、低い声に、俺は振り向くと、ユリアが黒い笑みを浮かべていた。


 顔は笑ってるけど目が笑っていない。


「な……なんでしょうか?」


「弁償……してね?」


「は……はい……ごめんなさい……」


 ペドは完全に萎縮しきっていて、先程までのテンションが嘘のようにしおらしくなっていた。


「それともうひとつ」


「……なんでしょうか……?」


 ユリアは黒い笑みを止め、満面の笑みを浮かべると。


「最っ高に気持ち悪いよ!」


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 何故か腹を殴られたかのように、ペドは、体をくの字に曲げながら後方へと飛んでいき、開いていた扉から退室していった。


 見えない力にでも押されたのだろうか。


「……結局、何だったんだ?」


「いつものことだよ。けど……」


 ユリアはニッコリと笑うと。


「ペドにはすっごく感謝してるよ。本人には絶対言わないけど」


「そっか。それ、絶対言わない方がいいな。じゃないと調子に乗るかもしれな――」


「ユリア様ぁぁぁぁぁぁぁぁ! もしかして先程の気持ち悪いというのはツンデレというやつでは!?」


 駄目だコイツ、罵倒しても調子に乗りやがる。


 俺がユリアの方を向くと、ユリアは楽しそうに笑い。


「安心して、本心だから」


「ごっぺぇあ!?」


 その言葉に、ペドは顎にアッパーを食らったように吹き飛んだのだった。

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