懐かしの自宅
雑談を挟みながらも俺はヘレンさんの横を並走し続け、俺の予想通り、昼前にはホノル村の目の前まで到着することが出来た。
「ふぅ……、意外と早めに着くのね……」
ヘレンさんは地面に着地すると、翼を消した。
「はぁ……、はぁ……」
疲れていない様子のヘレンさんとは反対に、俺は膝に手を置き、肩で息していた。
結局、休憩を挟むことがなかったので、ずっと走り続けていた俺は、限界まで疲弊していた。
いや、本当は休憩を取りたかったのだが、俺と違い、ヘレンさんは疲れないので、休憩の必要があるのは俺だけということになる。だがら、元々ヘレンさんの用事でホノル村に行くというのに、俺のために休憩して時間を無駄にするのは申し訳ないと思ったので、休憩を提案しなかった。
その結果がこの有り様。正直、脚がかなり重く感じる。
「アル君、大丈夫……? 少し休憩する?」
ヘレンさんが心配して声をかけてくれたが、折角村の目の前まで来たというのに、休憩するというのは申し訳ないので、俺は膝から手を離して真っ直ぐ立ちながら。
「いえ……、大丈、夫、です」
「そ、そう……。無理そうだったら言ってね?」
少し心配そうな表情をしていたが、ヘレンさんは俺に声をかけたあと、村の方に視線を移し、そちらの方へ歩き始めたので、俺もヘレンさんのあとに続いて歩を進めた。
「……懐かしいなぁ……」
村を見渡しながらそう呟く彼女は、珍しく子供らしい一面を見せた。が、倒壊している家々に目を向けると、悲しげな表情に変わった。
「……やっぱり……ここはあの時から何も変わらないのね……」
そう言うと、ヘレンさんが近くの民家に向けて歩き出したので、俺もその後を追うと、ヘレンさんは民家の前で立ち止まり、黙祷を始めた。
「……ヘレンさん……」
数十秒経つと、ヘレンさんは黙祷をやめ、俺の方を向いた。
「思えば、この村を出るときはショックでろくにお祈りを捧げてなかったの。だから、今日はそういう意味でもここに来たの」
「そうなんですか……」
「うん。それにね、ちゃんと邪龍が居なくなったことを報告して、皆には安らかに眠ってほしいの」
そう言って少し寂しげに笑うと、ヘレンさんは次の民家へと向かい出した。
「……俺も黙祷しておくか」
俺とヘレンさんは、全ての民家を黙祷して回った。そこまで規模の大きい村ではなかったので、予想していたほど時間はかからなかった。
そして、最後に到着したのは、ヘレンさんの家だった。
別にヘレンさんの家が一番奥にあるわけではないが、ヘレンさんの希望で、一番最後に来ることになった。
「……すっかりボロボロになっちゃったのね……」
何か思うところがあったのか、ヘレンさんの目尻に涙が浮かんだが、それを指で拭き取ると、改めて家を見据え。
「……ただいま」
そう言って、ヘレンさんは玄関を開けた。
ボロボロとは言っても、別に倒壊しているわけではない。この村にある民家は、ほとんどが半壊、及び全壊しているが、少数だけ、古くなっただけで壊れていない家があった。ヘレンさんの家もそのうちのひとつだった。
「良ければアル君も入る?」
「あ、はい」
ヘレンさんから許可を貰ったので、俺も家にはいると、やはりかなり放っておかれていたからか、埃や、蜘蛛の巣が目立っていた。
ヘレンさんは家の中を見渡したあと、俺の方にくるりと振り向き。
「……私の部屋に行くから、アル君も着いてきてくれる?」
「えっ? ここはもう良いんですか?」
「ええ。埃が多いし、長居したら体に毒だもの」
そう言うと、彼女は階段を上り始めたので、俺もそれに着いていった。
上の階に上がると、ヘレンさんは部屋の扉を開き、部屋へと入っていったので、俺も後に続いて部屋へと入った。
「ほんと……なんにも変わってない……」
一人感情深そうな表情で言うと、ヘレンさんは棚の方に向かった。
「確かここに……、あ、あった」
「? 何か探し物ですか?」
「ええ」
ヘレンさんの手には、錆びたペンダントが握られていた。
「お母さんとお父さん、あとライ君が、私の誕生日に三人でくれたものなの」
ヘレンさんはそれを胸の前で、抱き締めるようにぎゅっと握り。
「これが欲しかったの……。私の大切な……大切な思い出だから」
「……見つかって、良かったですね」
「ええ」
ヘレンさんは、ペンダントを握りながら目をつむり、ペンダントに向かって語り始めた。
「お母さん、お父さん。久しぶり。私ね、今は王都で楽しく暮らしてるよ。この前突然邪龍が攻めてきてちょっと危なくなったけど、ちゃんと守ってくれた人が居たから大丈夫だったの。もう、邪龍も復活することも無くなったから大丈夫。だから、安心して。それと、ライ君。そっちでお母さんとお父さんに迷惑かけてない? またやんちゃしてるようなら私、怒っちゃうからね? それから――」
ヘレンさんはその後も、しばらく話し続けていたが、俺がじっと見ていることに気付いて恥ずかしくなったのか、顔を少し赤く染めて、その行為をやめた。
そして、くるりと扉の方を向くと。
「じゃ、そろそろ出ましょうか。王都に帰らなきゃ」
「えっ? もういいんですか?」
「いいのいいの、だって――」
ヘレンさんはこちらを振り向くと。
「――もう、充分報告したから!」
そのときのヘレンさんの顔は、今までで一番可愛らしく見えた。
今回はギャグがありませんでしたが、その分、次回で補充します。
次回、ユリアに会いに行く予定ですので、ペドさんに荒ぶって頂きます。




