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約束と出現と暴力

「うー……、なんでこんなに来るのかなぁ……?」


 そう言いながら、ルリはギルドに設置してあるテーブルにぐたりと面を伏していた。


 テーブルには、4通の手紙が開かれており、その手紙の送り主は、ナンシーさんの息子達らしい。


 なんでも、2~3日に必ず手紙が来るらしい。それも、かなりの長文で。


 それでもルリは毎回律儀に返事を返しているみたいなのだが……。


「うぅ……、流石にそろそろ辛くなってきたよぉ……。そもそもなんで僕の住所が漏洩してるのぉ……?」


 俺も父さんや母さんに住所が漏洩してたから、その気持ちがよくわかる。


 まあ、一応勇者の子孫達なんだし、一人の住所を調べるくらい簡単に済ませられるんだろう。


 俺の母さんの場合は……言うまでもない。


「毎回同じような返事をするのも悪いし……、ああもう……どうしよう……」


 ルリは頭を抱えて、先ほどよりも突っ伏してしまった。


「えっと……、まあ、頑張れ……」


「うん……」


 元気なさげに返事したルリは、そのまま動かなくなってしまった。


 おお勇者よ、こんなところで死んでしまうとは情けない。


「ちょっといい?」


 馬鹿な思考をしているところに声をかけられ、振り向くと、ヘレンさんが近くに立っていた。


「あ、はい。大丈夫ですよ」


「ありがとう。ひとつ、お願いがあるんだけど……」


「お願い?」


「ええ、ちょっと付き合ってほしいの」


「付き合う!?」


 突然ガタッと立ち上がったルリがこちらに視線を向けた。


 なんだ、まだ随分元気じゃないか。


「ち、違うのルリちゃん! そういうことじゃなくて――」


「俺は別に構いませんよ」


「アル君!! 話がややこしくなるから今はやめて!!」


 酷い。俺のメンタルが弱ければ泣いていたかもしれない。


 何の誤解があったのかはわからないが、ヘレンさんはルリにしっかりと説明したようで、ルリはそれを聞いて納得すると。


「なーんだ! そういうことだったんだ! ごめんね、早とちりしちゃったよ!」


「そ、そう……。わかってくれてよかった……」


 若干疲れた様子のヘレンさんは、俺の方を向き。


「ごめんね、少しさっきのは言い方が悪かったかな。実はね、明日、着いてきて欲しい場所があるの」


「着いてきてほしい……場所?」


 どこだろうか? もしかして依頼か? いや、それだったらこんなに改まって俺に聞く必要もないだろうし……。


 あれこれ考えているうちに、ヘレンさんの口が開かれた。


「ホノル村……私の故郷だったあの場所に、一緒に来てほしいの」


「……え?」




――――――――――――――



 何故ヘレンさんがホノル村に行きたいと思ったのかはわからないが、とりあえず了承の旨を伝えたあと、俺はギルドを出た。


 ルリが返事をどうするか悩んでいるのをヘレンさんが見かねてサポートを始めたので、俺が残っていると邪魔だと思ったからだ。


 それに、明日は遠くまで行くことだし、今日はゆっくり休んでおこう。


 そう思って家の前まで戻ってくると……。


「あ! 丁度いいところに帰ってきたね!」


 ファルが俺の家の玄関の前に立っていた。


「……何でここに?」


「何でって……遊びに来たからだけど?」


「一国のお姫様が無用心に遊びに来るもんじゃないだろ? ほら、今日は帰るんだ」


「今更すぎない!? というか今日は扱い酷くないかな!?」


「元々こんな感じじゃなかったか?」


「そっか!」  


 納得しちゃうのかよ。それでいいのかお姫様。


「じゃあちょっと上がってくか?」


「うん!」


 俺が玄関の鍵を開けて家に入ると、俺の後に続いてファルも一緒に家に入ってきた。


「お邪魔しまーす! じゃあいつものところで待ってればいいかな?」


「そうしてくれ」


「わかった」


 そう言って、ファルは居間の方へと向かっていった。


 俺はその間にお茶の準備を――


「キャアァァァァァァァァァァァ!!」


 突如、居間に向かったファルの悲鳴が家中に響き渡った。


「ファル!? 何があった!?」


 急いで居間に向かい、中に入ったその瞬間、ファルがガバッと抱きついてきた。


「アル君!!」


「うぉわ!? 何だよ!?」


「し……死体が!! 死体があるよ!!」


「し……死体!?」


 突然抱きつかれたことに少し動揺しながらも、部屋の中を見渡すと……。


 プスプスと丸焦げになって、横たわっている、ピクリとも動かない人間が居た。


 いや、よく見たら人間じゃなくて魔族だ。


 待て、コイツ……見覚えしかないぞ……。


「む……?」


 どうやらその魔族は死んでいなかったようで、ムクリと起き上がると、俺とファルの方を見てこう言い放った。


「……幼女はどこだ?」


「開幕一言がそれかよ、張り倒すぞ」


 横たわっていたのはペド。ユリアの変態部下であった。


「ふむ……どうやら私はここに飛ばされたらしいな……」


「飛ばされた……? 何かあったのか?」


「ああ、由々しき事態だ。下手をしたら私も死ぬところだった……」


「本当か!? 一体魔族領で何が起こってるんだ!?」


 もしも大変なことになっているのならユリアが危な――


「実はユリア様がほんのちょびっとだけバストアップしてだな」


「…………は?」


「それで、これは揉み心地を誰よりも先に試さなければと着替え中に揉みに行ったのが運の尽き、私は周りの魔族達はおろか、自分の部下にまで魔法で爆撃され、命からがらこの共鳴転移石(シンクロストーン)でこの国に転移してきたのだ」


 やっぱ駄目だコイツ、そのまま死ねばよかったのに。


「うわぁ……そのまま死んじゃえば良かったのに……」


 俺の心の中の台詞を、ファルは冷たい目線をペドに向けながら呟いた。


「くっ……、しかし、私は諦めるわけにはいかん! アル・ウェイン! 後生だ! 私に力を貸してくれ!」


「断る」


 何故こいつの性犯罪に手を貸さなければならないんだ。


 そう思っていると、ペドは一瞬呆然としたが、すぐに何かを察したようにニヤリと笑みを浮かべた。


「おお、これは失礼した。私の配慮が足りなかったな。彼女の前で自分の性癖を晒すわけにはいかぬからな」


「は?」


「いや、女を家に連れ込んでおいて、その女とずっと抱き合っているなど、恋仲以外にどんな関係があると言うのだ?」


 そう言われて改めて自分達の状況を確認すると、ファルが未だに俺を抱きしめていることに気がついた。


「え? あっ……」


 ファルもそれに気がついたようで、顔を赤らめて、スッ……と俺から離れた。


「ふん、やはりそのようだな。だから自分に幼女趣向があることを晒せなかったのだな? だが安心しろ! 貴様の幼女趣向を笑う者はここには居ない! きっと貴様の彼女も受け入れてくれることだろう! さあ! 早く本音をぶちまけブッフォッ!?」


 思わず殴ってしまった。


 いや、うん。これは正当な暴力だと思うんだ。


「フフフフフフ! 恥ずかしがることはない! 貴様が幼女趣向を打ち明けるまで私は貴様の背中を押し続けよう! さあ! ドンと来い!!」


 ドンと来いと言われたので、ドンとでかい一撃をぶちこんでやった。


 それでもまだ立ち続けるので、俺はまた張り倒し続けた。


 結局、この日はゆっくり休むことは出来なかった。

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