狂信者との攻防
昨日投稿するつもりでしたが寝落ちたので
この時間になってしまいました。
申し訳ありません。
ネメシスはルリの目前まで迫ってくると、そのまま目にも止まらぬ早さで拳や蹴りを放ってきた。
それをルリは、避けたり、剣で防いだりしていた。
(動きは速いけど……見切れないほどじゃない。落ち着いて対処すれば……!)
「そろそろ決めさせていただきますよ!」
ネメシスが先程よりもより速く、力強い蹴りを放ったが、ルリはそれを少し体を横にズラすことで避けた後、剣を構え
(有効打を決めるチャンスが生まれる!!)
ルリはネメシスに対して剣を振り下ろした。
「おおっ!?」
だが、それに当たるほどネメシスも甘くないらしく、少し驚いた様子ではあったものの、簡単に回避されてしまった。
「やっぱり……簡単には当たってくれないんだね」
「ええ、こちらとしては邪神様の目的が叶うまでは死ぬわけにはいきませんので」
肩をすくめてそう言うネメシスに、ルリは警戒心をさらに強くした。
ネメシスは平然を装っているが、内心は多少驚いている。ルリはそう思ったからこそ、ネメシスがさっきより力を出してくると予想して警戒心を高めたのだ。
「それでは、少し力を――」
「今度はこっちから行くよ!」
ネメシスに先手を取られる前に、ルリはネメシスへと迫り、ネメシスに休む暇を与えずに剣を振ってネメシスを斬り付け続けた。
ネメシスは回避に徹していたが、ずっと攻撃を続けられていると、流石に体勢が辛くなったのか、少し体が傾いた。
(今だ!!)
ルリはその一瞬を逃さず、そのままネメシスに剣を振った。が、そこで、ネメシスが口元で笑みを浮かべたことに気がついた。
「ルリ様!『そこで止まるべき』です!」
ネメシスの発動したスキルにより、ルリは動きを止められる。
――はずだった。
「……おや?」
一瞬、ネメシスは何が起こったのかわからない様子だった。
何故なら、動きを止められたはずのルリが、そのままの勢いでネメシスの体を斬り裂いたからだ。
「ぐぅっ!?」
初めて、ネメシスは苦痛の表情を浮かべた。が、それも束の間、ネメシスはすぐに冷静になると、後方に退いてルリから距離を取った。
「……後学のために、わたくしのスキルが通用なさらない理由を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
「君のスキルは相手の名前を指名して『○○するべき』だと命令することで効果を発揮するものだよね? だから、僕は本来の名前で自分を認識しただけだよ」
ネメシスはそれを聞くと『ほうほう』と頷いた。
「なるほど……つまり偽名ですか……、これはこれは……わたくしとしたことが情報収集を疎かにしてしまったようですな」
「偽名ってわけでもないよ? この愛称は僕の母さんから受け取った大事な名前だからね。自分の事をこの名前で数年間ずっと自分を認識してたからちょっと君のスキルを受けちゃったけど……、仕組みさえわかっちゃえば僕は本名で自分を認識するだけでスキルを回避出来るんだね。予想が当たってよかったよ」
ネメシスはそれを聞くと、突然態度を改めて、恭しく頭を下げた。
「その本名。宜しければ教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「教えないよ。絶対に」
ルリがそう言って再び剣を構えるが、ネメシスは頭を下げたまま、俯いていた。
「そうですか……わたくしが、こんな、丁寧に、教えを、こいている、と、言うのに」
急にネメシスの言葉がどこか途切れ途切れになった、そのときだった。
「ならばスキルなどに頼らず殺すまでございます!!!!!」
突然ネメシスが黒いオーラを纏って顔を上げたかと思うと、先程とは比べ物にならない速度でルリへと迫った。
(速っ!?)
ルリは弾丸の如くのスピードで繰り出されるネメシスの攻撃をなんとか対処しようとしているが、どんどんと体に傷が増えていった。
「申し訳ありません邪神様!! わたくしは依代の素質がある彼女をボロボロの雑巾のようにしか成り果てさせることしか出来ないのです!! せめてそのかわり必ずや彼女をあなた様の下僕にぃぃぃぃぃ!!」
贖罪のつもりなのか、ネメシスの攻撃はどんどんと激しさを増していき、ルリは徐々に追い詰められていった。
(こうなったら……あの力を……)
あの日、ロキとの戦いで目覚めたあの力、まだまだ不完全ではあるが、ルリが持ちうる手段の中で、今のネメシスに対応できると思ったのはそれしかなかった。
「はぁっ!!」
ルリが力を解放すると、彼女は白い光に包まれ、ネメシスの攻撃に徐々に対応出来るようになっていく。
「おお!? おおっ!? なんと忌々しい力ですか!! それが邪知暴虐の限りを尽くしたあの善神の力の片鱗なのですか!!」
「邪知暴虐なのはそっちの邪神でしょ!!」
そう言いながらもネメシスとルリは攻防を続けていた。元々、スキル無しの場合に上手だったのがルリなだけあって、今度はルリが押していっていた。
(お願い……もう少しだけ……もう少しだけでいいから保って!!)
ルリはネメシスの突きだした拳を避けると、トドメのつもりで剣を振った。
「……あれ?」
が、ルリはガクンと力が抜けた気がした。ルリが気がついたときには、白いオーラが消滅していた。
それはつまり、力が保たなかったことを意味する。
(やば――)
急に速度が落ちたルリに生まれた隙を逃すほどネメシスは甘くなかった。ネメシスは瞬時に膝を曲げると、ルリにその足を突きだした。
「がっ!?」
ただでさえ力関係が逆転しているというのに、不意を突かれた形になったルリに、攻撃への備えなど出来ているわけがなく、無防備のまま蹴りを食らう形になったルリは、そのまま後方に飛ばされ、床をゴロゴロと転がった。
「……やはり邪神様はわたくしをお見捨てにならなかった!! この世は全て邪神様が正しいのですよ!!」
そう言って高笑いするネメシスを声を、ルリは蹴られた腹部を手で押さえながら、苦痛に満ちた顔で聞くことしか出来なかった。