それぞれの戦い
ルリは一人で洞窟の奥へと向かっていた。
モモガロスが追ってこないということはアルが頑張って食い止めていてくれているということだろう。
正直、この奥にネメシスは居なくて、無駄足の可能性だってあった。
それでも、ルリはこの奥にネメシスが居るということを直感で感じていた。
(この奥にきっとネメシスは居る……、例え親族に助けを拒まれたとしても関係ない! 僕はこの世界のためにネメシスを倒すんだ!)
意気込んだルリは、そのまま洞窟の奥へと向かっていく。奥に入り込んでいくにつれて、段々と外からの光が入り込まなくなり、暗くなっていく。
だがルリはそんなことを気にすることもなくそのままぐんぐんと進んでいく。
(この洞窟……中々深いんだね……)
一体どれほどの深さがあるのだろうか。そうルリが考えていたときだった。
「……あれ?」
今まで暗い道を通ってきたと言うのに、目の前には、薄暗い紫の妖しい光で照らされている部屋があった。
「ここは……?」
キョロキョロと周りを見渡すと、壁に張り付けられながらも驚いた表情でこちらを見ているナンシーと、その息子達が居た。
「どうして貴女が!? 貴女に憐れみを持たれる謂れはないのよ!?」
「僕は別にナンシーさんたちのために来たわけじゃないよ」
「え?」
「僕は――」
「おやおやおや!?」
ルリが言葉を発しようとしたとき、ルリの背後から聞き覚えのある者の声が聞こえた。
ネメシス――ルリは振り返ると、彼の姿を眼中に捉えた。
「やっぱり……ここに居たんだね」
「ほぉ!! わかっていながら来て頂けたとは! こちらから行く手間が省けて助かりましたよ! 貴女の場所もすでに用意してあるのでどうぞあちらへ!」
ネメシスが手を伸ばし誘導した先には、拘束用の用具と、この部屋を妖しく照らしている石が、規則正しく壁や床に並べられていた。
よく見てみれば、ナンシー達のところにも石が規則正しく置いてあった。
「私はオシリスさんのように自分の力だけでは降ろせませんからねぇ……、このように道具を用いて儀式を行わないとならないのですよ」
やれやれと面倒臭そうにしながらネメシスは言ったが、ルリはその様子を見ながらも剣を引き抜いた。
「……おや? 自分から依代に成りに来てくれたのではないのですか?」
「当たり前だよ、僕は自分から死のうと思うほど馬鹿じゃない」
「そうですか、ですが、貴女には是非とも依代になって頂きたいので考えを改めて頂けませんでしょうか?」
「嫌だね、絶対に」
「そうですか……、それでしたら仕方有りませんな……実力行使と行かせてもらいましょう!」
向かってくるネメシスに対して、ルリは剣を構えた。
―――――――――――――
一方そのころ、俺は洞窟の入り口でモモガロス達から逃げ惑っていた。
倒そうとは思ったのだ、立ち向かおうとは思ったのだ、だが、モモガロスの目の前まで迫ったと言うのに、モモガロスを自分から避けてしまった。それからと言うものの、ずっとモモガロス達から逃げていた。
不幸にも……、いや、幸いモモガロス達は洞窟の入り口には目もくれずに俺を追ってきているので、一応洞窟にコイツらを入れないという目標は達してはいるが、それでも俺のメンタルが持つ気がしなかった。
コイツらには触れたくない……でも倒さないと……
「……あ」
そういえばひとつあるじゃないか。遠距離から倒す方法が!
俺はモモガロス達の方に振り返ると、目の前の地面に向けて手を伸ばした。
「出てこい! ツタ!」
しかし、ツタは出てこなかった。
「嘘だろ!? 出てこい!」
何度やっても地面からの応答はない。憐れ、俺はツタに見捨てられたのだ。
「……」
動揺したモモガロス達は一瞬止まってくれていたのだが、単のハッタリだと思ったのか、すぐに追跡を開始してきた。
「ちくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そう、まだ俺の逃走劇は始まったばかりなのだ。俺たちの戦いはこれからだ!
※まだ完結しません。