別行動
一先ず、俺たちはモモガロスの森に到着したのだが、
「……そういえば、ネメシスはどこに居るんだ?」
あのときは森の奥に行ったように見えたが、だからといってネメシスが森のどこかに居るとは限らない。
もしかしたら、もうすでにこの森を離れてしまった可能性もある。
「思い当たる場所が一ヶ所だけあるよ」
「マジか!?」
「うん、この森にはね、立ち入り禁止の洞窟が一個あるんだ」
「立ち入り禁止?」
「そう。なんでも色々あってかなり脆くなっちゃったらしくて、いつ崩れるかわからないんだって。だから、潜むには絶好の場所だと思うよ」
なるほど、それなら確かに可能性はありそうだ。そこにかけてみるか。
「でも……ひとつ問題があるんだよね……」
「問題? 何だ?」
「それは……、えっと、その……」
ルリは視線を少し反らして、とても言いづらそうにしていたが、意を決したのか俺の方を向くと口を開いた。
「洞窟は崩れやすくなってるって言ったよね?」
「言ったな」
「それでなんだけど……、洞窟に入るのは一人だけの方が良いと思うんだ」
「……? どうしてだ?」
「その洞窟に着くまでに、きっとモモガロスに遭遇すると思う。そのとき二人で洞窟に入ったら――」
「モモガロスが暴れて洞窟倒壊……ってか」
ルリは俺の言葉に頷いた。
なるほど、確かに一人は外で洞窟の入り口をモモガロスから守った方が良さそうだ。
それなら俺が洞窟の中に――
「だからね、アルには洞窟の入り口を防衛してもらいたいんだ」
「……………………………………え?」
俺が? 防衛? "あの"モモガロスから洞窟を守るの?
「いやいやいやいやいや待ってくれどういうことなんだ」
「モモガロスは女性よりも圧倒的に男性を狙いやすいんだよ。それこそ、目の前の女性を放っておいて遠くの男性を襲うくらいには、だから、アルが洞窟に入ると……ね?」
「ぐっ……!!」
「それに――多分ネメシスにはアルじゃ勝てないよ」
「……」
確かに、俺にはネメシスのスキルについてはさっぱりわからない。また動きを止められたら今後こそやられてしまうだろう。
でも、今の言い方だとまるで――
「ルリなら勝てる……ってことか?」
「うん、勝機はあると思う」
ってことはルリはすでにスキルの正体についてわかっているのだろうか。
だったらそれを教えてもらえば俺にも――いや、きっとそれを教えても、俺には対抗策が無いからこそ敢えて言わないのだろう。
それなら、ここはルリに任せるべきだ。
「ルリ、ネメシスを頼めるか??」
「わかった!」
そう言いながらルリは顔の近くでグッと拳を握りしめた。
「じゃあアルも頑張ってね!」
……頑張る?
「何をだ?」
「モモガロスだよ」
…………。
「なあルリ、やっぱり交――」
「駄目だよ」
だよな、うん。わかってた。
俺はモモガロスと戦う覚悟を決めながら、洞窟へと向かっているであろうルリの後を付いていった。
洞窟に着くまでには心の準備が出来るだろう。そう思っていたが、心の準備が完了する前に洞窟に到着してしまった。
「アル、着いたよ」
「マジか」
ちょっと到着が早すぎやしないか? もう少し時間が欲しかったんだが……。
「ん? あれ?」
そういえば辺りを見回してもモモガロスが居ない。
ってことはこのまま二人で洞窟に入っても――
「アル! モモガロス達が気配を消して木の影とかに隠れてるから何とか食い止めておいてね!それじゃ!お互い頑張ろうね!」
「え? ちょ!? え?」
ルリが洞窟に向かった瞬間、潜んでいたモモガロス達が一斉に飛び出してきた。
「ギャアァァァァァァァァァ!!!」
思わず悲鳴を上げてしまったが、俺はここでコイツらを食い止め続けなければならない。ビビっている暇はない。
「ルリ! 頑張れよ!!」
すでに洞窟に入り、見えなくなったルリ向かって俺は激励の言葉をかけると、俺は震える膝にムチを打って、モモガロス達に向かって走り出した。