誰の為に戦うのか
100話ですね。
わぁい←
これからもよろしくお願いします。
王都に着いたあと、とりあえずその日は休むことにして、また明日ギルドで会う約束をして、俺とルリは別れた。
俺はどこにも寄らずにそのまま家に向かい、一段落ついたあと、今日のことについて考え始めた。
「ルリの親族……、か……」
今思えば、ルリの過去や親族のことなんて考えたことがなかった。
女に生まれたという理由だけであそこまで排斥され、終いには命まで狙われて……。
それだけの目にあって正常な精神で居られるのは、ルリの心が強かったからなのだろう。
それでも、勇者の子孫なのに一人で居たのは、親族からの扱いに耐えきれなくなって旅に出たのかもしれない。
ルリと出会ったときに一人で居たり、髪が短かったり、自分を僕と呼ぶような少し男っぽい一面があることについて、何故今日まで疑問に思わなかったのだろうか。
他にも気付くチャンスはあったかもしれないのに、何も疑問に思わなかった自分が情けなく思えた。
そしてもう1つ。突如目の前に現れてルリの親族を拐っていった、ネメシス・ダンタリオン。
体が縛られたように動かなくなったあのスキルの正体はわからないが、かなり脅威だ。対処法がまったく思い浮かばない。
このままでは、ネメシスに拐われた5人が依代にされるのも時間の問題だろう。
正直、あの親族が拐われたのは因果応報、自業自得だとは思うが、それでも早く助けなければならない。
邪神の部下が一気に5人も降ろされてしまってはたまったものではないからだ。
だが……ルリが助けることを許すだろうか。
ルリにとっては、幼少気からの恨みが募る親族だ。
あの親族が酷い目にあっても当たり前だと、ルリは考えているかもしれない。
相手の強さとスキルは未知数。そんな相手と戦うリスクを負ってでも助けようとは思わないかもしれない。
もし俺が、あの5人を助けたいという旨をルリに伝えたら、ルリは失望するだろうか。
いや、失望されたとしても構わない。明日、ルリに助けたいという旨を伝えよう。
もし拒絶されたのであったとしても、そのときは一人で行けばよいのだから。
俺はそう心に決めると、明日に備えて早目に眠りに着くことにした。
――――――――――――――
翌朝ギルドに行くと、今日もルリは先に来て椅子に座っていた。
だが、その表情は相変わらず憂鬱そうなものだった。
「ルリ、おはよう」
「あ、アル。おはよう」
無理矢理作ったような笑顔で返事をしてくれたが、やはりその表情からは憂いが読み取れた。
こんな顔してるときに言いたくはないが……、でも一刻を争うことだ。早目に放しておかないとならない。
「ルリ、ちょっと話があるんだ」
「何かな?」
「ルリがあの5人をよくないと思っているのはわかってる。だけど、あの5人はこのままだと邪神の部下にされるんだ。だから、俺はあの5人を助けたいと思ってる」
俺がそう言うと、ルリは特に表情を変えずに俯いた。
「……そっか、アルならそういうと思ったよ」
この反応、やっぱりルリは反対なのか……?
俺は失望される覚悟を決めたのだが、
「僕もそうだよ。あの5人のこと、助けたいんだ」
「え?」
ルリの意外な返答に俺は拍子抜けしてしまった。でも、だとしたら何でそんな不安そうな顔をしてるんだ?
「僕、わからないんだ」
「わからない?」
「うん。例えば僕が助けることに成功したとしても、あの人達はきっと僕を卑下する。下手したら貴女に助けられるくらいだったら死んだ方がマシだったなんて言われるかもしれない」
確かに……その可能性はあるな……。
「もし、僕が助けることを望まれてなくて、こんな未来が待っているのなら、僕は何のために戦えばいいのかな?」
「決まってるだろ、皆のためだ」
「……皆?」
「ああ、助けるのは親族のためじゃない。この世界のためだ。あの5人が依代になるのを防げれば、被害未然に防げるだろ? 『勇者』ってのは何のために居るんだ?」
「!!」
ルリは、何かに気づいたかのように目を見開いた。
「そうだよね、そうだった。僕は勇者の子孫だもん。勇者は何のために戦っていたのかを僕としたことが忘れてたよ。ごめん」
ルリの表情から憂いが一切無くなると、ルリはガタッと立ち上がった。
「よし! 今からでも助けに行かなきゃ! アル、着いてきてくれるかな?」
「おう!」
新たに闘志を燃やしはじめたルリと共に俺達はまたあの森へと向かった。