忌まわしい災い
ここまでお読みいただいてありがとうございます。
火竜との決着をつけます。
ではでは~
予想外の動きだった。
今まで特定の目標を襲うこともなかった火竜が、タコーに向かって飛びかかる瞬間だった。
タコーは咄嗟に外套で身を隠したが、それを庇うようにフィーが飛び出した。
「フィーーーーーー!!」
「タ、ぎゃーーーーーーー」
胃液を浴びたフィーが、一瞬遅れて火に包まれた。
苦痛に悲鳴をあげ、転がり火を消そうとするが、ほどなく動かなくなった。
フィーが咄嗟に法術で火竜の動きを止めていた。
「お、おい。フィー。どうした?」
タコーは、自分を庇い動かなくなった躯に声をかける。
肉の焼ける匂いが残酷な現実をタコーにつきつける。
言葉は帰ってこなかった。
「あー、こんなことになるとわなーーー! むっかつくなぁー。あー、久々に腹が立つーー。おらーーー、クソトカゲ! 今から・・・ぶっ殺すからな」
タコーは、フィーだった遺骸に外套をかぶせ手を合わせる。
一呼吸すると顔をあげて、ガンを取り出した。
(落ち着け、落ち着け、くっそ、怒りで震えが止まらん)
ガンに弾薬を装填し、今から使う銃の重さを感じ取る。
「すーー、ふーーー。コッカ、あのトカゲの顔に矢を当ててくれ」
深呼吸したタコーの言葉は、静かだった。
徐々に法術が弱くなり、フィーの命の火が消えていくように錯覚する。
「はい、ですが」
「いいんだ。頼む。ココモ、無理しなくていい。アイツが胃液を吐きそうにしたら、少しだけ威嚇してくれ」
「うん。アニキ、大丈夫?」
「それは、お前も同じだろ。今から、トカゲをぶっ殺す」
「ヒッ!」
ココモは、初めて恐怖を感じた、
タコーの笑ったような、悲しむような、殺意に満ちた表情。
法術が解け、火竜が威嚇を始める。
「タコー様、いけます」
「ああ、頼む」
「合図を」
「放て」
コッカが正確に火竜の顔に矢を放つ。
引きよせられるように矢が火竜の顔に向かい、跳ね返される。
火竜が煩わしさから、怒り、吠える。
刹那、タコーのガンが咆哮とともに鋼の矢を放つ。
おそらくは、火山弾以外では、この地上に存在しなかった速度の飛翔体。
火竜の口から、その体内に入っていく。
口を開けたまま、痙攣をおこして倒れる火竜。
口から赤白い泡を吹く。
それを見届けるタコー。
「ココモ、剣を貸してくれ。アイツの頭を潰してくる」
「うん、アニキに任せる」
大剣を受け取るタコー。
タコーは、消火する兵士にも声をかけ、長剣も借りた。
双剣を携え、火竜に近寄るタコー。
命の火が消えかけながらも吠える火竜。
吠えると血を噴き出す。
「うるせえよ」
タコーは、双剣を交差させ、火竜の口にねじ込む。
火竜の咆哮は、明らかに悲鳴に変わる。
「やかましい」
ねじ込んだ剣をかき回す。
喉を刻まれた火竜は、すでに鳴くことさえできなくなる。
生命力が強いため、こと切れていない。
タコーは、消火作業の兵士の中に鉄槌を携えている者を見つけた。
(いいもの見つけた)
「すまないが、それを貸してくれないか」
「あ、は、はい。どうぞお使いください」
「ありがとう」
タコーは、兵士から鉄槌を受け取った。
タコーはそれから何も語らず、ただひたすら、無抵抗になった火竜の頭を鉄槌で叩き続ける。
四肢や尻尾がビクビクと引きつるのを気は止めず、頭を挽き潰した。
しばらくして、路地に頭部のあった場所が挽肉状の火竜の死骸が横たわっていた。
= = = = =
「タコー様、お帰りなさいませ」
「ああ、マリア。・・・すまないが、明日の朝一番で棺と馬車を頼めないか」
出迎えるマリアの前に何かを外套で包んで、抱えるタコーが立っていた。
「棺・・・ですか?」
「ああ、フィーの棺だ」
「!」
「急で済まないな」
「・・・、タコー様、お気を確かに」
「俺は、・・・フィーよりは大丈夫だ」
「かしこまりました。・・・タコー様、お許しをいただけましたら、伽を務めますが」
「ありがとう。それだと、フィーが悲しむかもしれないから。厩で夜を明かすよ」
「かしこまりました」
タコーの後ろに姉妹たちが立ち竦んでいた。
「お姉ちゃん」
「お嬢様」
「マリアー、フィーが、フィーが死んじゃったー」
顔をぐしゃぐしゃにしたココモ。
マリアはココモを優しく抱きしめた。
「うわーーーん」
姉妹たちは姉の冥福を祈るしかなかった。
= = = = =
タコーは、干草の中に蹲り、外套を愛おしく抱えていた。
「フィー、お前が女だってわかったときは、びっくりしたぞ」
「アーエルフル閣下の前で腹でも切らねえと申し訳が立たないよな」
厩でタコーはひとりで話し込んでいた。
「うっ、うっ。フィー。もう、死に別れるなんて、俺の予定になかったんだぞ」
フィーの遺体を抱きしめ、泣き声を押し殺すタコー。
= = = = =
「フィー、アニキ」
「フィー、タコー様」
「フィー、主様」
「フィーさん、色々お話ししたかった」
「お嬢様がた、明日には、フィー様とお別れを」
タコー一行が王都に来て、初めて静かな夜を迎えていた。
= = = = =
「あなた・・・ご懸念が、おありですか」
「マリアから聞いたよ。お姫様がお隠れあそばしたと」
「キャサリアに良い姉ができたと喜んでおりましたのに」
= = = = =
「フィー、明るくなったら化粧してやろうな。遅くなって、すまんな」
いかがでしたか?
・・・
次話をお待ちください。




