芝居の終演
ここまでお読みいただいてありがとうございます。
キャサリアとマリア、アイハイロードに残りたくありません。
ではでは~
「タコー殿、王国をお見逃しください。この身をご自由になさって結構です。どうか、この通り」
芝居じみて土下座をして見せるキャサリア。
「いやー、その国を想う志、わたくしは感動いたしました。子爵様、ご安心ください。神に誓って王国にあだ為すことはいたしません」
タコーは、土下座をするキャサリアの前に膝をつき、彼女の身を起こすように手を添える。
「で、では。この身を捧げますので、どうか「そのお気遣いは無用でございます。どうか、お国でお過ごしください」・・・タコー様のいじわる!」
『お嬢様、お嬢様。タコー様の手に乗っちゃダメよ』
キャサリアは、隣にしゃがんだマリアに諫められる。
『お姉ちゃん、なんかいい方法ない?』
『陛下も旦那様もわたしたちが連れていって欲しいことを知らないのよね』
『う、うん。まだ、気づいてないと思う』
『思い切って、言っちゃう?』
『えー、そんなことしたら、主様の立場が悪くならない?』
ふたりがヒソヒソと相談する。
『大丈夫。フィーがタコー様を庇うわよ。国外退去くらいになるかも知れないけど』
『それじゃ『お手付きになった責任を取ってもらうのよ』・・・、お姉ちゃん、フィーは戻せるから』
『あ、・・・』
フィーがあちら側にいるため、決め手に欠ける。
次の手に困ってしまった。
「おーい、相談は終わったか?」
「「うー」」
タコーの言葉に唸り声を返すキャサリアとマリア。
「これからの旅は大変だから、お前たちを連れていくのは、憚られるんだよ」
「タコー様、わたしは冒険者をしておりましたので、ご心配には及びません」
「主様、騎兵時代に数ヶ月の遠征で戦場をめぐりました。旅をする点では、コッカに引けは取りません」
むしろ望むところと売り込むふたり。
「ふたりとも地位というものがあるだろう」
「フィーは王女ですし、コッカも身分を隠しているだけです」
「フィーもコッカも家の人が反対していないだろ」
「「ううっ!」」
身内の援護を得られないふたりは、行き詰った。
「主様!いっそ死ねとおっしゃってください」
「タコー様、わたくしもお嬢様にお供いたします。冥府でお待ちするのも厭いません」
「ハッタリは効かないぞ」
「ハッタリかどうか・・・お見届けください」
キャサリアは、護身用の短剣を抜くと躊躇なく喉元に突き立てた。
「いっ! ・・・またこのパターンか」
タコーは激痛に顔を歪め、愚痴る。
キャサリアの喉元には、ナイフが手のひら側から突き刺さったタコーの握り拳があった。
一瞬遅れたマリアが、キャサリアの手からナイフを離し、タコーの拳を慎重に扱う。
ナイフの切っ先が手の甲から突き出し、傷から垂れ流れる血がナイフを伝い滴り、絨毯を赤黒く染めていく。
「フィー、お願い。指が取れかかってる」
「大丈夫、主人の法力は充分」
「タコー様、熱いと感じる痛みがございます」
マリアは、エプロンのポケットからハンカチを取り出し、タコーに差し出す。
「くうう、わかってる」
マリアの言葉に激痛に耐えながら答え、ハンカチを猿轡のように噛みしめるタコー。
「いきます!」
マリアがナイフを引き抜く。
「ぐーーーーっ!」
「あなた」
自分で腕を抑えるタコーにフィーが細胞回復の法術を施す。
= = = = =
「主様、わたし・・・」
左頬が腫れあがり美形の面影が失せたキャサリアが申し訳無さそうに言葉を絞り出した。
「キャサリア、ちょっと来い」
イスに座って、片手をフィーの法術に委ねているタコー。
ポコポコとタコーの許に歩み寄るキャサリア。
左頬が腫れあがっているのは、ココモがぶん殴ったためだった。
「座れ」
「はい」
タコーが自分の真横の床を指さした。
キャサリアは、これから告げられるだろう離縁を覚悟して座る。
ついてくるなと言われたが、離縁ではなかった。
国元にいるように言われたのは、わたしたちのためだった。
その好意をわがままで踏みにじり、あまつさえ重傷と激痛までもたらした愚かな女。
呼吸がうまくできないほど、のしかかってくる後悔は、死ぬより苦しかった。
びしぃ
額に軽い衝撃が走る。
「? 主様?」
「ココモにぶん殴られてるから、俺からは、これで終わりだ」
キャサリアはタコーから手刀を見舞われ、終わりだと告げられた事実を受け止めた。
「はい。・・・終わり・・・ですね」
「なんだ?もっとしてほしいのか?」
「・・・、はい。もっとしてください。していただける間は、・・・終わりではありませんので」
「うーんと、キャサリア、勘違いしてるだろ」
「勘違い?」
「終わりというのは、お仕置きが終わりということだぞ」
「ふぇ?」
「お前はすぐに自害しようするからな。そのお仕置きだよ。ココモに殴られてるしな」
「あの、わたしのせいで大ケガを負われましたが」
「あれは俺が間に合わなかっただけだ。フィーのおかげで元通りになるしな。むしろ、フィーに謝っておけよ」
「はい。 フィー、ごめんなさい」
「いい、わたしも同じ気持ちになると思う」
キャサリアを抱擁し背中を撫でながら、フィーが彼女に掛けた言葉は優しかった。
= = = = =
「わたしもみんなと一緒に居たいの」
「タコー様がお許しにならないとダメ」
「そうだよ。アニキがダメって言ってるんだから」
「フィー、ココモ、・・・でも」
「またココモに殴られるわよ」
コッカが、諭す。
「お嬢様方、どうかわたしたちもご一緒にお願いいたします」
「お姉ちゃん、・・・みんな、お願い」
懇願するふたり。
タコーに妻たちが個々に送ってくる何かを訴える視線が突き刺さる。
「あー、負けたよ。ふたりもついてこい」
タコーの言葉に、妻たちは掛値なしの笑顔で答えた。
いかがでしたか?
タコーは、情に流されてしまいました。
ふたりの粘り勝ち。
次話をお待ちください。




