鎧邂醒翹我異聞
タイトルは「ガイアサーガいぶん」と読みます。
変身ヒーローものを書こうととりあえず何も考えずに思いつくまま書いたら主人公の出番が無いということに。
とりあえずお蔵入りなので尻切れトンボです。
港町の暁都町にある海青高校はその土地柄もありほとんどの者が小学校からの変わらない顔ぶればかりになる。
そのため新入生や高校生活というものに誰もが今さらドキドキもワクワクもしないのが常である。
山に囲まれた狭い港町である隣近所どころか町中が知り合いのようなものだ。
それでもたまに山を越えて通ってくる生徒もおり問題が起こると大概はそういった生徒が関わっている。
「キャっ!」
突然、頭の上から水が降りかかりアリスが悲鳴をあげる。
「アリス!大丈夫」
ショウコが駆け寄り校舎の上を見ると3階の窓から同じクラスのハルナがこちらを見ている。
そのまま何も言わずにハルナは窓から立ち去っていく。
ショウコはズブ濡れのアリスを連れてひとまず更衣室に向かうことにする。
その途中で生徒会長であるマコト先輩と鉢合わせをする。
「どうしたのアリス、ズブ濡れじゃない」
「実はさっ・・・」
「ショウコ・・・」
ショウコが何かを言いかけるのをアリスが止めるのを見て、
「もしかしてまた錦乃さんが何かしたのかしら」
何も言わないアリスとショウコにマコト先輩は諭すように言う。
「別にチクリとかにはならないわよ、今さらなんだから。
困ったものね錦乃さんにも別にアリスがアキトと付き合っている訳じゃないのに。
とにかく、そのままじゃ風邪をひくわね。
剣道場まできなさいタオルと私のジャージを貸してあげるからその間に乾かしましょう」
半ばマコト先輩に強引に連れて行かれると有無を言わさずに濡れた服と下着を取りあげられる。
「安心していいわよ、女子剣道部を覗きにくる命知らずは全部私とルリが成敗して今じゃ誰も来なくなっているから。
乾燥機を使うから昼休みが終わるまでには乾くから待っててね」
そう言ってアリスとショウコを残してマコト先輩は更衣室から出ていく。
授業も終わり部活の無い者は帰り支度を終えると直ぐに教室から出て行く者とそのままダラダラとしばらく過ごす者に別れる。
部活のある者は1年生ということもありほとんどの者が急いで教室をでて各々の部活の準備をすることになる。
戎導アキトが幼馴染の御宮良アリスを迎えに来ると錦乃ハルナが話しかけてくる。
「戎導君、今度秋祭りがあるんでしょう。
よかったら私と行かないかな」
「ああ無理々々、アキトは実家の神社の手伝いで毎年秋祭りは忙しいから」
そう口を挟んできたのは同じクラスの斎稀ナナである。
「そうだな、そもそも秋祭り自体うちの神社が執り行うから遊んでいる訳には行かないんだよ。
誰か他の人を誘ってくれよ錦乃さん」
そう言うとアキトはアリスと連れ立って教室を出て行く。
「そういや、今年って誰が祭りの巫女をするんだっけ」
そう尋ねる壬憧サナエにナナが答える。
「今年ならアリスでしょう。
御鏡神社の傍にアリスの喫茶店があってしかもあの2人が同じ日に生まれた縁もあってずっと前から決まっていることよ」
自分を睨むハルナに言い聞かせるようにナナは話す。
「祭りの巫女って何よ」
ナナはハルナに顔を向けるが呆れた顔をするだけで変わりにサナエが答える。
「毎年、祭りの日に海の社への道が潮の満ち干きであらわれるの。
巫女は祭りの最後に神社から社へ赴いて1年の感謝と新しい1年の安全を祈願するの」
「それってどうやって選ばれるの」
「余所者には無理よ。
昔からこの町に住んでいる家系で15~16才の娘が選ばれるの」
その言葉にハルナは再び睨むように目を向けるがナナは無視して話し続ける。
「あんたもいい加減さアキトに付きまとうのをやめたら。
どのみち神社の1人息子で本人も後を継ぐ気でいるんだし。
本気でこの町に馴染むつもりがないんなら余計な事はしないでほしいのよね」
その言葉にハルナは何かを言いたげに口を開きかけるが何も言わずに教室を飛び出す。
「ナナちゃん、言いすぎじゃないかな」
「はっきり言わないと分かんないのよあの子は。
アキトがアリスに気があるのは皆知ってることなんだからさ今さらでしょう」
「まあ、そうなんだけれどね」
「気付いてないのはこの町でアリスだけなんだし」
「兄妹みたいな感覚なんだろうね、きっと」
「なのかな私達っていうか皆、小学校から同じ顔だけど。
その辺は線引きっていうか兄妹みたいな感覚にはならないと思うんだけどな」
「う~ん、そうだよね」
「では今年の文化祭の内容はこれで全て決定で、あとは各部や各クラスの予算ですがこれはまた後日にあらためて話し合うということでよろしいですね」
副会長の戯獰レイジが生徒会長観耶宜マコトに確認を求めて了承されることでその日の生徒会は閉会となる。
アリスが教室に戻るとショウコが待っており一緒に学校をでる。
「アキト君は一緒じゃないの」
「今日はこのあとケンゴとマキトの家に寄るって言ってたわね」
堂斉ケンゴと迂戒マキトの2人も小学校からの付き合いになる。
「そうなんだ」
「どうかしたの、ショウコ」
「ううん、何でもないよ。
だったら、アリスはもう少しのんびり生徒会室に残って戯獰先輩とお話したかったんじゃないかなと思って」
「っな、もう」
顔を赤らめるアリスからショウコは目を逸らして学校を振り返る。
「今年ももうすぐ秋祭りになるわね」
不意のショウコの言葉にアリスは振り返るがショウコは少しアリスを追い越す。
「今年の巫女はアリスで決まりだよね」
「そんなことはないわよ、巫女は毎年御鏡神社で神事にのとって決まることだから」
少し早足なのか追いつけないショウコにアリスは駆け寄るように並ぶ。
「そうかそうだよね、まだ分からないよね。
そういえばアリスは大学はどうするの戯獰先輩を追いかけて東京に行くの」
「そんなお金うちにはないわよ。
そもそもこの町から出ることさえ思い浮かばないわよ」
「そうだよね、私達はこの町から出ても行くところなんて無いもんね」
いつもと少し違うショウコをいぶかしみながらもアリスも少し早足で歩く。
海青高校の文化祭は毎年暁都町の秋祭りの時期に合わせて行われている。
このため家が秋祭りに関わっている場合は文化祭での義務が免除されることになっている。
事件が起こったのは祭りの10日前であった。
アリスが階段から突き落とされ入院することになりハルカがナナに問い詰められることになる。
騒動を聞きつけたマコト先輩が止めに入ったことでその場は治まるが結局アリスが誰に階段から突き落とされたか分からずギスギスとした雰囲気のまま準備が行われることになる。
祭の1週間前に御鏡神社から季笠ショウコに今年の巫女に選ばれたことが知らされると学校の方から休みを取るようにといわれる。
アリスがようやく学校に顔をだしたのは祭の2日前であった。
まだ松葉杖でギブスも取れていないが積極的にクラスの手伝いをする中でこれくらいなら大丈夫だとゴミ袋を片手にアリスは焼却炉に行くと言い。
「無理はしないでよ、誰か手の空いているのは・・・。
仕方ないかハルカ、あんたも行きなさい」
ナナにそう言われるとハルカは何も言わずにアリスの手からゴミ袋を取り上げて焼却炉に向かう。
焼却炉でゴミを捨てるとハルカは教室の方に顔を向けて不意にアリスの手を引っ張ると強引にきた方向とは別の方から戻ろうとする。
それを廊下から見ていたナナは慌てたようにその場から離れ追いかけようとしたところで声をかけられる。
「廊下は走らないでくださいね斎稀さん」
声に振り向くとマコト先輩がそこにいた。
「さすがに階段から落とすのはやり過ぎなので少し調べさせてもらったわ。
他の方々にも話をさせてもらったけれどこの間の水はあなたね。
余所者の錦乃さんなら相談できる相手もいないから擦り付けやすいと考えたのね。
そこまでしてでも諦められないのなら潔く告白しなさい」
顔を上げられずに俯くナナに向かって歩み寄ると、
「階段はあなたじゃないのね」
頷くナナを見て
「そう、このあとどうするかはあなた達で考えなさい」
それだけを言ってナナの横を通り過ぎるとマコト先輩はその場をあとにする。
その夜アキトは夢を見る高熱にうなされ目が覚めると霞がかかったようにそれがどんな夢であったのか思い出せない。
ただその身の熱さと右の掌に浮かぶそれが夢でないことを教えてくれる。
文化祭は滞りなく進められ最終日の15時になると早めに学校の門が閉められる。
片付けは翌日となり全員が神社へと向かう神社を中心に道路は封鎖されて屋台も軒を連ねて祭囃子も聞こえてくる。
問題となったのは今年の巫女の季笠ショウコが前日の打ち合わせから顔をださないことであった。
万が一の代役として何人かの女子が海青高校から集められるが一向にショウコと
連絡が取れずに困惑が広がる。
話し合いの末に選ばれた巫女は錦乃ハルナであり集められた女子からの反対も無く決まる。
慌ただしく準備が進む中であらたな問題が発覚する。
「なにかあったのですか」
「おそらく昨晩から明け方に誰かが海の社にお参りをしたみたいなんだ。
お神酒とお米が備えられていたらしいんだ」
その後港のほうでもあらたな事件が発覚することになる。
首なしの男の死体が見つかったことで騒ぎとなるが祭りは滞りなく行われることになる。
夜に祭の最後に神社から巫女の乗る御輿が担がれて出発する山の上から続く階段を傾けることなく御輿は進む。
階段を降りきるとそこから海に進む。
砂浜から潮の満ち干きで1年に1度だけ現れるその道を進み海の社のある岩辺の前で御輿が下ろされる。
岩辺から先は聖域で巫女しか入ることができない。
夕刻に発見されたお神酒などを取り払ってからあらためて神前にて礼をしてその扉が開かれる。
預けられた鍵を手に教えられたとおりに左右の決められた順にまわす。
鍵が開く音を聞いてから鍵を懐にしまう。
両手を扉に添えて開くと悲鳴をあげてハルカは気絶する。
祭の日から3日目あれから町は少し騒々しくなっている。
社から発見された首は季笠タカオであり季笠ショウコの父親であった。
ショウコの行方は分からず事件の捜査と合わせて行方の捜索が行われている。
失われた鏡の行方も分からず警察では季笠タカオが鏡を奪おうとしたところで仲間割れか誰かに襲われたかで捜索しているようだ。
アキトはショウコの家の前まで尋ねるが警察の調査中で近づくことはできなかった。
夜にアキトがその気配に気付き境内に赴くとショウコがそこにいた。
虚ろな瞳でアキトを見つめながら聞き取れない声で何かを呟いている。
その口中の舌が蒼く光っているのがわずかに見てとれる。
突如、口中の光が溢れてアキトは目を瞑る。
目を開けると前立に「哀」の文字を持つ蒼い鎧をその身にまとったショウコが目の前にいる。
ショウコは虚ろな瞳のまま腰に佩いている太刀を抜きアキトに斬りかかる。
刀の重さに振りまわされるだけでありその手を受け止めたアキトの右手が白く輝く。
輝きがその身を包むと「愛」の前立を持つ白の鎧がアキトの体に装着される。
ショウコを突き放すと腰の大太刀を抜き上段に構えると「哀」の前立が両断され「悲」の文字に変化する。
絶叫するショウコの声がアキトに響く。
幾つもの断片的なイメージが流れ込んでくる。
家から居なくなった母親。
心を病んでいく父親。
酒臭い息で殴りかかってくる影。
楽しそうにアキトの話をするアリス、アリス、アリス。
アリスと嬉しそうに話すアキト、アキト、アキト。
アキトに寄り添うアリス、アリス、アリス。
アリスを見つめるアキト、アキト、アキト。
そしてアリスの背中を押す自分。
御鏡神社から今年の巫女に選ばれたと知ったときから自責の念が攻め立てる。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
病院が見えたところで足がすくんで動けなくなる。
その夜に父が家をでると気になって後をつけると神社に向かっていることに気付く。
海の社に向かうことに気付き慌てて走り寄り止めようとするがもつれ合うように海に落ちる。
そこで意識が闇に沈んでいく。
前立の「悲」の文字が膨れあがると泡立ちながら溢れはじめる。
溢れた「悲」の文字がショウコを飲み込み獣へとその身を変える。
「っこ・・ろし・・・ってえ・・・」
その言葉を最後にショウコの意識が「悲」の文字に飲み込まれる。
甲高い悲鳴をあげると右手に同化した太刀がアキトに叩きつけられる。
避けたその場の地面が土砂を巻き上げて陥没する。
「愛」の前立が輝くと右手の太刀がその光を受けて輝き獣となったショウコに振り下ろされる。
断末魔の悲鳴をあげ体を両断された獣の体が石化し崩れていく。
鳥居の影から一部始終を見ていた戯獰レイジはその左の掌に浮かぶ文字を見つめると静かにその場から去っていく。
前立に「誠」の文字を持つ深緑の武者も一部始終を見届けて静かにその場から去っていく。
「神話の開闢の刻はきたれリ。
果たして生き残るのは如何なる言葉を持つ者になりうるのか」
アリスが呟くと手にした銀鏡の輝きが治まり映していた光景も消える。
アキトは砂となり風に流されていくショウコを見つめるその瞳から涙を流し続ける。
哀の漢字は「衣」が被せて隠す意味を含んで哀は「口+衣」で思いを胸中に抑えて口を隠してむせぶことを表す。
古くは悲しいは激しく心が揺さぶられる状態をいった。
悲しいの語幹「かな」は、「しかねる」の「かね」と同源の語であり力及ばず何もできない状態をいうとする説もある。
かなしいは、心の動揺を自分で抑え切れない状態をいうとも考えられる。
悲しいの「悲」の漢字は「非」が羽が左右反対に開いたさまから両方に割れる意味を含み悲は「非+心」で、心が裂けること胸が裂けるような切ない感じを表す。




