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不死の魔王と成り損ない勇者  作者: 矢野優斗
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37 舞台裏の存在



「ふむふむ、今のところは順調かな~」


 艶やかな唇に指を当てて、ソレは水やりをした植物の成長を観察するような気軽さで言う。


「生き残りに思った以上に骨のあるヤツがいたのは、まあ要チェックってところかな~」


 背から生える蝙蝠のような翼をぴくぴくと動かす。どうやらソレは機嫌が良いらしく、うきうきと頭を左右に振っている。


「彼が舞台に上がれるかどうか見てみないとね~、うん」


 一つ頷いてソレは虚空に向けて軽く指を振ろうとし、何の前触れもなく現れた存在によって中断を余儀なくされた。


「あれ? 珍しいな~、君がボクに会いにくるなんて。何かあったのかな~?」


 突如現れた存在に対して別段驚くこともなく、ソレは軽薄な調子で尋ねる。

 突如現れた存在は一見すると着物に身を包んだ少女であった。が、その頭頂部には本来人間には存在し得ない二つの獣耳、そして後ろ腰あたりからは柔らかな尻尾が生えていた。

 着物に身を包む獣人の少女。しかしてその認識もまた間違っている。少女から発せられる雰囲気は只人ではない。どことなく翼を生やし一対の角を持つ異形であるソレと似通った空気を、少女は纏っていた。

 獣人の少女らしき存在は軽薄な態度のソレを一瞥し、ついでソレの前に開かれた窓の先の光景を見て僅かに顔を顰める。


「あなたは、またそんなふうに遊んでいるのですか」


「んん~、心外だな~。ちゃんと引き際も見極めてるし、バッドエンドにはしないんだからいいじゃん」


「そういった考え方の時点で間違っているのですよ……!」


 獣人の少女が若干語気を荒げて言う。


「怒ってるのかな? 怒ってるよね。それもそうだね~。君はこういう遊びが嫌いな性質(タチ)だ。よく知ってるよ」


 でも、とソレはすっと目を細め嗜虐的な笑みを浮かべて言った。


「それ以上に君は彼を気にかけているね」


 その一言に獣人の少女の肩が微かに震える。

 その反応にソレは益々笑みを深めるも、唐突に笑みを消し去ると恐ろしい程の無表情になる。


「でも、ダメだよ。彼はボクの玩具(もの)だ。誰にも渡さない。他ならぬ君であってもね」


「――っ!?」


 くふふ、と笑うソレに少女は驚愕の相を浮べて一歩後ずさる。


「……あなたは、どうしてそこまで……」


 言いかけて、しかし少女は処置なしとばかりに首を横に振った。


「いえ、聞くまでもなかったですね。あなたは元々そういう性質(タチ)でした」


「君にだけは言われたくないな~」


 不満げにソレは口を尖らせる。そんな反応に少女は一瞬寂しげな表情を浮かべるも、すぐに消して厳かな表情を取り繕う。


「言っておきますが、私は彼に対してあなたの思うような感情は抱いていないです。ただ――」


 ただ、と僅かに苦悩するように言葉を詰まらせて、獣人の少女は吐露する。


「――これ以上、彼が苦しむ姿を見ていられなかっただけです」


 獣人の少女が項垂れる。まるで己の罪を悔いる罪人のように、獣人の少女は俯いてしまう。

 そんな少女をしばし眺め、ソレは興味な下げに視線を切った。


「君は本当に優しいね。優しくて、でも君は限りなく無力だ」


 そう言って窓に映し出される光景を見やるソレ。つられて獣人の少女も映し出される光景に目を向ける。

 窓に映し出される光景の中では二人の男女が仲睦まじいやり取りを交わしていた。

 二人のやり取りを一瞬複雑な目で見るも、ソレは目を背けるように獣人の少女に向き直る。


「だから、君は彼らの力を当てにする他ない。結局、同じ穴の狢なんだよね~」


 わざとらしく語尾を軽くしてソレは肩を竦める。


「それならね、ボクはボクらしく愉しむだけだよ。ボクがボクである以上、ね」


 可愛らしく桜色の舌をちろりと出しておどけるソレに、獣人の少女は処置なしとばかりに嘆息を洩らす。


「そうですね。何を言ってもあなたが変わる姿なんて、想像もできません」


「何だか辛辣じゃないかな~?」


「自分の胸に聞いてください。それでは――」


 すげなく言い返して獣人の少女は現れた時と同じように、何の前触れもなくその場から消え去った。

 獣人の少女がいた空間をしばし見つめ、ソレは再び窓に映る光景を見る。


『ちょっ、何でアンタがそれを――』


『喧しい、少しは物を考えてだな――』


 ちょっと目を離した隙に口論となっていた二人の男女。それでも険悪といえる空気はなく、遠慮がない故のぶつかり合いという感じであった。

 そんな二人の様子を愛おしげに、そして愉快げに見てソレは口角を吊り上げる。


「ああ、ボクをもっと愉しませてくれよ。君も君も、そしてみんなみ~んな」


 あはははっ! と狂ったかのような笑声を残して、ソレはどこかへと消え去った。






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