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告白

あらすじにほとんど書いたのでそちらを読んでいただければ十分なのですが、書き足しとして。

このお話は、たった1日、しかも放課後になってから2人が家に帰るまでの短い時間のお話です。作者はファンタジーものが好きで、今までファンタジーばかり書いていましたが、今回頭の中に浮かんだのは、なんと告白から始まるという普通の学園もの?だったので自分でも驚いております。



「好きです!」


2015年1月、高校2年生の金田光カネダ ヒカルは、1年間ずっと好きだった女の子に告白をした。


告白場所は恋愛漫画にありがちな体育館の裏。


季節のせいもあって、春には色とりどりの花が咲き生徒を感動させ、夏には太陽の光を受けキラキラと輝き、秋にはその落ちていく様が切なさを感じさせる葉が、2人を囲むように立っている木々には1枚もついていない。


光は少し後悔していた。


冬という季節には、クリスマスやヴァレンタインデーといった、告白できるようなイベントがたくさんあるのに、よりにもよってこんな天気の悪い日に、こんな色のない薄暗い場所で告白なんて、雰囲気も何もあったもんじゃない。


しかし、朝からどう告白しようか、一言で言った方がいいのか、それとも彼女と世間話でもしながら流れで言った方がいいのか、そんなことで頭がいっぱいだった光がそのことに気づいたのは、彼女の靴箱に「話があるから、放課後、体育館の裏にきてほしい」と書かれた1枚の紙切れを入れた後だった。


帰りのHRが終わった後、光は足早に教室を飛び出して体育館の裏へ走った。


走っているはずなのに、体育館へと続く廊下が、やけに長く感じられた。


自分の方がはやくつくと思っていたが、そこには彼女が既に待っていた。


真っ黒な長い髪が、時折吹く風に揺られて、まるで闇へと誘う手のように見える。


光は一歩、また一歩と彼女へ近づいて行った。


彼女の後ろに立つと、彼女が光の方に振り向き、そしてまっすぐ光の目を見つめた。


髪と同じで、真っ黒な瞳に、光は吸い込まれそうな気分になった。


足先から、体温計の数値が上がっていくように、体が熱くなっていく。


(何て言えばいいんだっけ。あなたのことが・・・いや、同級生なのにあなたは変かな。my princess・・・何を考えているんだ僕は。引かれるに決まっているだろうが。今日は君に言いたいことが・・・・って、これは手紙に書いたし。どうしよう、どうしよう。もう言ってしまえ!)


そして光は、彼女に告白をしたのである。








「無理ね。」


光が「好きです。」の最後の「す」を言うと同時に、彼女はそう言った。


彼女の名前は白蕗暗シラブキ アン


光と同じ高校2年生で、光のクラスメイト。


暗の席は教室の廊下側の一番後ろで、光は窓側の一番前。


一番教室の外に出やすい場所の席にいる暗は、常に一番最初に教室から出ることができる。


おまけに歩くスピードも、世界でも速いと言われる日本人の中でも更に速い。


走ってきた光よりはやくついたのは、光が、緊張のあまり校内を一周していたことに気づかなかっただけなのだが。


そんな無意味な努力(?)もむなしく、光はたった今、恋に敗れた。


さっきまで熱を帯びていた体が、今度は冷凍倉庫に突然放り出されたかのように冷たくなっていく。


それと同時に、何故こんなにはやく断られたのか、もう少し間を置いてくれてもいいのに、そう思った。


光はこの告白のために、一年間ありとあらゆる少女漫画を読み漁った。


恋愛経験が全くない光は、その影響を強く受け、告白をした後の数秒間が、まるで何時間もたったかのような長い時間に感じられる・・・そんな状況になるのを期待していたのである。


しかし現実は違った。


所詮は漫画だったのであろうか。


彼のそんな期待は実現することなく、1秒もたたないうちに、(言葉が重なっているのでもはや0秒なのかもしれない)光の恋は幕を閉じたのである。


むしろ、断られた後に固まっていた数秒間の方が、何時間にも感じられた。


光が口を開けたまま茫然としていると、暗は光の横を通り、もう用事は済んだと言わんばかりに校門へ向かい始めた。


「ま、待って!」


光はハッと我に返り、暗を呼び止めた。


一年間かけて予習をし(少女漫画で)、必死にアプローチしてきた(少なくとも本人はしたと思っている)。


そんな人生初めての初恋を、このまま終わらせたくはなかった。


「何?もう返事はしたと思うけど。」


焦りや戸惑いといった感情がでている光の表情に対し、暗は顔色一つ変えない。


今に限らず、普段からそう表情が変わることもほとんどないのだが。


光はごくりと唾をのみこんだ。


「その・・もう少し考えてくれないのかなー・・・って。はは・・。」


苦笑いしながら、彼女を引き留めるために、何故こんな事しか言えないのだと、光は頭の中で叫んだ。


暗は少しため息をついた。


「何故考える必要があるの?現時点で、私には恋愛感情を持てる相手がいない。ということは、あなたのことも勿論好きではないわ。そんなくだらないことを考えていたら、あなたが言い終えてから私が返事をするまで、何秒無駄になるかしら。」


光は唖然とした。


自分が一年間恋をしてきた彼女から発せられた言葉は、あまりにも冷たい。


何故この人に恋をしたのか、光は夢なのではないのかと、自分の頬をつねった。


夢なら痛みは感じないだろうが、これは紛れもない現実。


強めに握ったせいで、殴られたかのような痛みが頬に走った。


あまりの痛さに、そのまましゃがみこむ。


暗はそれじゃ、と言うと、再び校門に向かって歩き始めた。


だんだんと、彼女の姿が小さくなっていくのを見つめながら、光は携帯をスクールバックから取り出すと、Twitterを開き、「俺、玉砕」とつぶやいた。


光の一人称は僕だが、Twitterではかっこつけて俺を使っている。


呟いたアカウントは学校の友達には一切知られていない、趣味が同じ人だけをフォローした、いわゆるオタク垢。


光は小さい頃から動物が好きだったが、周りの人間に語れるほどの人がいなかったため、始めたのがTwitterだった。


光がつぶやくと、すぐに「どうした?」「ペットに何かあったの?」「玉砕?」と何人かから返事がきた。


いつもならすぐに返事をする光も、今回は返事をする気にもならない。


ため息をつきながら、携帯の画面を意味もなく触り始めた。


光の指が1つのアイコンにあたり、今までとった写真が画面に映し出される。


自分の飼っている猫や、動物園でとった動物たちの写真で埋め尽くされていた。


(動物見て癒されよう・・・)


光が画面をスクロールしていくと、1枚の写真が目についた。


黒猫を抱えた、黒髪の少女の横顔の写真。


それは去年のちょうど今頃、光の飼っていた黒猫のクロゴマが、散歩にでたきり中々帰ってこないので、光が探しに行った時のことだった。


近くの公園で、彼女、暗がクロゴマを抱えて、ちょうどベンチに向かっているところを、光は見た。


瞬間、光はこの場面を写真に収めなければと思った。


この色のない季節に、黒という色が、何故かとても鮮やかに見えた。


光は携帯をとりだし、写真をとった。


「パシャ。」


そのシャッター音に、暗は気づき、光の方を見た。


光もその音に慌てて、携帯を落としてしまった。


急いで携帯をとり、体制を立て直すと、目の前の真っ黒な瞳が光の目を見つめていた。


闇の様な瞳がー


その後、光は事情を話し、クロゴマを返してもらうと、走って家に帰った。


家についてからも、心臓がバクバクしていた。


走ったせいだと思っていたが、落ち着いた後もその状態が続いたため、そうではないことを知った。


それが光の恋のはじまりだった。


その頃はまだ1年生で、お互いのことを全く知らなかったが、4月になり、新しいクラスで、光は暗と再会したのである。


それから一年間、光はアプローチをしてきた(本人はそう思っている)わけだが・・。


光はその写真を見つめた。


当時彼女に抱いていた気持ちが、だんだんと蘇ってくる。


(まだ、まだ終わりと決まったわけじゃない、もっと話してみよう。もっとお互いのことをしればきっと、チャンスはある!)


光は携帯を鞄にしまうと、校門に向かって走り始めた。


ちょうど暗が校門を通り過ぎようとしているところで、光は暗の腕を掴んだ。


息を切らしながら、光は少し興奮していた。


そう、これはまさしく、少女漫画にありがちなシチュエーションではないか。


帰ろうとする彼女の腕を、相手の男の子が掴み、引き留められた女の子がときめく・・・!


そう期待したのもつかの間、あっさりと光の手は払われてしまった。


「触らないで。」


光に向けられたのは恥ずかしがって赤くなった顔ではなく、氷のような冷たい眼差し・・・でもなく、全く変わらない表情。


少しでも期待した自分にあきれた。


ついさっき、彼女は少女漫画にでてくるような、可愛い性格の女の子ではないと分かったばかりなのに。


しかし、光はあきらめなかった。


「待ってよ。その、これからどこか行くの?」


「本屋によるつもりだけど。」


「じゃあ、ついて行ってもいいかな?」


暗は驚き、そして呆れた。


この男、まだあきらめていないのだろうか。


こういうタイプは、断ってもどうせついてくる。


「いいけど、私は私で勝手に行動するから。」


暗は1人、先に歩き始めた。


光は途端に笑顔になった。


話すチャンスができたと舞い上がり、その場でガッツポーズをした。



続く

作者は暗と似たような性格です。(笑)


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