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六話 私の愛しいお嬢様

「スイバ!!今回の仕事は成功だ!後の書類の契約処理はお前がやれ!」


「!?旦那様…わたしにやらせて良いのですか?」


「お前はまだ12才だが家の次男よりも断然才能が有る。それにその年の割にしっかりしているからな。任せても問題無いだろ」


「有り難うございます!!」









わたしの名はスイバ・アスター。今は平民だが昔はれっきとした貴族の子息で何不自由無く過ごしていた。しかしわたしか6才の頃父が政敵に貶められ家が断絶。母は自分は関係ないと腹を痛めて生んだはずの息子を置いて実家に戻り、父は絶望しながら自らの命を絶った。残された子供のわたしは一人物乞いや盗みを犯しながら日々を生き延びていた…。しかし8才の頃運悪く盗みが失敗し大人達に暴力を受け、動けなくなっていた所を偶々モーナン家の子息と婦人に拾われ屋敷で手厚く看病された。二人はわたしが没落する前に二度ほど会った事を覚えており助けたらしいが既に人間不振になっていた自分はベッドの上で反感的な顔で一言も話さなかった…。しかしその時ぎゅっとわたしの手を握る小さな手が…、


『いちゃぁい?なきゃぃえ?』


そう言いながらその子はベッドへよじよじと上ると今度はわたし頭をなで始めながら、


『いちゃぁない、いちゃぁないお?』


と、真剣にラピスラズリの瞳をわたしに向けつつ一生懸命私わたしの頭をなで続けた。


『あらあら…ネモったら…』


『ネモは君を見て痛くて泣いてると思い慰めてるんだよ』


その手の暖かさにいつの間にか自分は泣いていた…。その後何日か彼女は常にわたしの傍に居て、更に侯爵家族も暇さえ有れば様子を見に来たり色々世話をしてくれた。心の氷か段々溶けていった…。怪我が回復する頃にはモーナン家に何かしたいと思う様になった。特に令嬢で有るネモフィラ様に。


わたし此処ここに置いてもらえませんでしょうか?』

傷がすっかり治った頃侯爵に言った。彼は少し驚いた顔をした後直ぐにニコリと微笑み、


『おやっ?そう云えば言ってなかったね。わたしは君を追い出す積もりは無いから安心しなさい。うん。顔色もすっかり良くなったし、君にはメリスと一緒に勉強をしながらネモの遊び相手をして貰いたいんだが受けてくれるかな?』


嬉しかった。其からメリス様とも友人と云える関係になり勉強をしつつ、ネモ様の相手をした。彼女はまだ小さいのにとても不思議な子だった…。ふと、昔の事に思い耽ったりすると彼女は何時も雰囲気を察して手を握り頭を撫でてくれた…。時々大人びた表情をし、


『むりにがんばなくゅてもいいのょよ?』


労ってくれた。








『其では行って来ます』


『無理はしないのよ?』


『頑張れよ!!』


『休暇の日には帰って来るんだよ?此処ここは既に君の家でも有るのだから』


そして、


『いってらっしゃい。スイバ。あなたならだいじょうぶよ。ぜったいせいこうするわ。わたくしがほしょうする』


10才になった頃私わたし屋敷に出入りしていたノニヤへ商人の勉強をする為に奉公に出る決心をした。理由はネモフィラ様の役に立ちたい為。彼女は幼いながら未知の知識を沢山持っていて其を人々に役立てたいと思っていた。しかし自身は侯爵令嬢。自由に動けない彼女の代わりにわたしが手足となり支えて行きたいと思い始めていた。7才下の彼女に惚れてしまってしまったのだ。彼女はまだ3才。決してわたし幼女趣味では無い。彼女だから惚れたのだ。


わたしは頑張った。たった二年で書類を任される迄に。一時期ノニヤ次男のカルミアと一緒に仕事をしたが能天気な彼とは余り馬が合わなかった。更に今回彼がノニヤを出てネモフィラ様の従者になって更に彼が嫌いになった。納得出来なくネモフィラ様も抗議した。彼女は苦笑しながら、


『貴方にもれからの事を手伝って貰いたいから特別にわたくし達の秘密を教えてあげる。でもこの事は他人無用よ?』


そう言い、ネモフィラ様、カルミア、そして、侍女になったデュランダの三人の秘密を教えてくれた。前世の記憶を持っている事。れから起こる暗い未来を知っていて回避をするべく彼等を傍に置く事になったこと。そして、わたしにも協力してほしいと。彼女の時々大人びた態度に納得した。そして、秘密を打ち明けちてもらって嬉しかった。








「旦那様。書類の手続きが終わりましたが最終の確認をお願い致します」


「おっ?出来たか。どれ、寄越してみろ」


そう言うと、手渡した書類に眼を通す旦那様。暫く書類のめくる音と時々ペンを走らせる音だけが部屋に響く。


「ふむ。初めてにしては上出来だ。家の長男より丁寧だしな。後は此方こちらで詰めるからお前は今日は上がっても良いぞ?」


ほっとしながら、


「其では今日はお言葉に甘えて上がらせて頂きます」


「其からお前明日は確かモーナン家に帰る日だったな?」


「?はい。その予定ですが?」


「ネモフィラ様から仕入れた孤児院で作ったと云うパッチワーク?とやらが好評でな、作った人物を何人か職人として紹介して貰いたいと思うのだが頼んで貰えるか?」


「其ならお嬢様もお喜びになられます。あの者達も収入が出ますし」


「宜しく頼む」


「はい。其ではお疲れ様でした。失礼させて頂きます」


そう、明日は仕事を昼前に終わり次第モーナン家に帰る日。無意識に顔がほころぶ。


「カルに会ったらたまには帰って来いと伝えてくれ」


その一言で直ぐに不機嫌になる。部屋を出た後旦那様が、


「顔に出る辺りは未々だな」


呟いていたのを知らずに。








「只今戻りました」


「お帰りなさい。スイバ。」


「スイバ。お帰り!!」


「戻ったか、スイバ。お帰り」


モーナン家に着くと皆『お帰り』と、当たり前の様に言ってくれる。しかし今日はその中にネモフィラ様が居ない。


「ネモ様は?」


疑問に答えたのはメリス様で、


「ネモなら今厨房でカル達と何か作るとか言っていたよ?」


居場所が分かり直ぐに厨房へ向かうとお嬢様の声が聞こえて来た。


「…を…て…ね…」


「か…け…」


「や…ね…」


「ネモ様。スイバ、只今戻りました」


「「スイバ!」」


「スイバ!『戻りました』ではなく『ただいま」よ?」


その言葉に改めてわたしが、


「ただいま。お嬢様」


と答えると、柔らかく微笑み、


「お帰りなさい」


と言ってくれた。













此処ここわたしの帰る場所。













厨房での会話




「生地にバターを乗せたら折り畳んでこねてねて。空気は入れない様に」


「バター硬ってえ~!しかも結局俺が作るのかい!!」


「やぉ~ねぇ~。あたしもやっているじゃない。林檎を煮たり❤」


「楽な方じゃん!!」


「うるさい!口を動かしている暇があれば手の方を動かしなさい!!出来ても食べさせないわよ!」


「「はい…」」

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