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【第九話】 変態は期待を裏切りませんでした

さて、アタマを切り替えたら仕事だ仕事!

 ゲイジュツとガクゲイの神様、アポロンは今日も忙しいのだ!


さて今日はどうしようか。

 そういえば、ミューズの姉妹にかまってるせいで自分だけの仕事ってしたことないな。

 初日に変な歌を作ったくらいだ。

 仕事って言っても、何か「これ」って決まってるのをするわけじゃない。

 何か今までの感覚だと、自分が目についたものをやればそれが仕事になるって感じらしい。

 他の神様センパイもみんなそうみたいだし。

 楽だけど、まだ違和感あるな。

 今までバイトしか経験ないからアレだけど、労働してるっていう感覚がもうちょっと欲しい。

 とりあえず、うちの中を見まわってみるか。


「うぉっ。ここ、本すげーな!」


 今までちゃんと見たことがなかった1階の奥に行ってみると、本がびっしり並んだ部屋があった。

 足元から天井部まできっちりと並んだ薄い本から厚い本。

 いろんな言語で書かれた蔵書がずらーっとあった。

 その数はもう、何十万とかそんな規模だろう。

 奥の方とか入り口からじゃ全然見えない。

 この建物の中は特殊空間なのか、明らかに建物の大きさからしておかしいくらいの広さだ。


 アポロン神の書庫か。

 さぞかしすごい御本がいっぱいあるのだろう。

 飲み会メンバーからは、アポロンは昔から芸術、文芸、音楽、それから時には太陽神とかの役目もしてたって聞いた。

 一応、「リハビリ」期間ってことだけど、もしかしたらここ100年+1カ月くらいの間にアポロンが仕事やってなくて困ってる人がいるのかもしれない。

 よし、ここの本を読んで勉強するぞ!

 オレはとりあえず目の前にあった本を手に取った。


「お、読める読める」


 本は見た事のない字で書かれていた。

 ラテン語とかギリシャ語とか、そういうかんじの言葉だろう。

 でも、何でか知らないが読んでると内容が勝手に頭に流れ込んできた。

 すげーな神様の身体は。

 自動翻訳機能が搭載されてんだな。


「えーと何々……?」


クレタスは言った。

『義姉さん、オレには分かっているんです。あなたが若い男の身体に飢えていることを』

アリアネはベッドの上で、恐怖に目を見開き、唇を震わせていた。

『クレタス、こんな事はやめて! 私の夫はあなたの兄なのよ!』

『オレの方が兄貴なんかよりもずっとあなたを愛している。今、それを分からせてあげますよ』

『やめて! やめてクレタス!』

 クレタスはアリアネの上に覆い被さった。

 飢えた獣の目がアリアネの熟しきった肉体の上に注がれる。

 そしてその手は、まず豊かな太腿へと伸ばされ、薄いパンティーストッキングをびりびりと引き裂いた。


「って、何だこの本は!」


 オレは本を棚に戻した。

 うっかり読んでしまったが、あれは大人のイケナイ本じゃないか!

 あの変態め!

 いや、待てよ。

 アポロンも大人なんだから、こんだけの蔵書の中で何割かはああいう本があってもおかしくないよな。

 偶然だ、偶然。


「他の本いこう、他の本」


 今度はタイトルを確認してから読むことにした。

 おっと、これは『古代太陽神の偉業と功績』か。

 なんか論文とかそっち系な感じでマトモそうだ。

 今度は大丈夫だろう。

 オレは本を開いた。


「んーと……エジプトの太陽神ホルスは……」


 ホルスは母・イシスの寝室へと赴いた。

 その部屋はかつて、父・オシリスが母と睦みあい、自分を産んだ場所である。

 心臓が高く鳴っていた。

 ああ、母上。

 私は、なんと罪深き息子なのでしょう。

『ホルス、来たのね』

 イシスは寝台に横たわり、甘い響きでホルスを呼び寄せた。

『いらっしゃい、私のそばに……』

 その眼差し。

 視線を釘づけにする魅惑的な肢体。

 ああ、父上お許しください!

 ホルスは母の傍に寄った。

 そして―――――


「うわぁああああああ! なんじゃこりゃぁああああ!」


 オレは本をぶん投げていた。

 危うく、その先まで読んでしまうところだった。

 これはいかん。

 これはいけない世界だ。

 あぶないあぶない。


 気を取り直して次の本へ。

 今度はうーんと離れた棚の本を手に取ってみる。

 多分、一万冊くらい遠くのを取ればもうジャンルが変わるだろう。

 大丈夫だ。

 お、これは内容がインドの神話関連っぽいな。

 読もう。


「と、シヴァ神の最初の妻・サティーが亡くなった時……」


 シヴァは、とても嘆き悲しんでいた。

 私、ヴィシュヌはこの目でシヴァの悲しみを目にした。

 彼はサティーの亡骸を抱え、世界を放浪した。


「うわぁ。病んでるなこの人……」


 シヴァは破壊神である。

 サティーを抱え、放浪した彼の後ろには無残にも廃墟と化した都市が広がっていた。

 響くのは人々の泣き叫び、嘆き悲しむ声。

 シヴァはサティーを抱いたまま、怪獣のごとく暴れ回った。

 美しい街並みが一夜にして炎に包まれ、灰になったのである。


「病みすぎだろ! ってか、ヴィシュヌって奴もこうなる前に止めろよ!」


 私も流石に止めなければと思い立った。

 手元には戦輪チャクラム

 あいつを正気に戻すには他に方法はない。

 私は戦輪をシヴァに向かって投げた。

 戦輪はシヴァの腕の中のサティーに命中した。

 サティーの遺体は戦輪に砕かれ、数百の肉片となった。

 眼球や皮膚、そして手足や内臓もことごとく切り刻まれて飛び散った。

 美しいサティーの肉体は真っ赤な美しい花火のように飛散した。

 それを見たシヴァは正気を取り戻した。


「いや、おかしいだろ! こんなの見たら普通余計おかしくなるだろ! ってか、ヴィシュヌもけっこう危ない人じゃねえか!」


 飛散したサティーの肉塊。

 何という事だろうか。

 それらはもぞもぞと動き出した。

 そして、みるみるうちに人の形になった。

 飛び散った肉片から、それぞれ1人ずつ、美しい女神が現れたのである。


「どこの魔人○ゥだよ!」


 これを見たシヴァは歓喜した。

 現れた数百の女神。

 彼女らは全て、シヴァの妃であった。

 シヴァはすぐさま服を脱ぎ捨て、こう言った。

『お前達、今から全員抱いてやる』

 そしてシヴァは全員を一列に並ばせ――――


「って、結局そういうオチなのかよ!!」


 オレはまたもや裏切られた。

 まさか。

 まさか、なのか。

 もはや、嫌な予感しかしない。


 いや、ここ神様の神殿だよな?

 アポロンっていうすげー神様が仕事してた場所なんだよな?

 念のために、無作為に手に取ったほかの何冊かもぱらぱらとめくってみる。

 が――――やはり。


 これも。

 これもこれも。

 これもこれもこれも!


 それぞれ切り口は違うが「そういう事」に関係しない書籍は一冊たりともなかった。

 学術書を読めばイケナイ行為の手順書だったり、小説を読めばオトナの御本だったり、図録を見ればアッハンな絵ばっかりだったり。

 1時間ほど見回って、オレはついに諦めた。

 間違いない。

 ここは、エ○本図書館だったのだ!!


「マジかよ! 腐り過ぎだろあの変態かみさまはーーーー!!」


 誰もいない部屋の中に、オレの絶叫が木霊した。

 そういえば、ここに来てからみんな妙に優しい。

 慣れ親しんだ「アポロン神」の中にスゲー他人が入ってるってのに、めっちゃ優しい。

 牧神パーンとか、ワインの神バッカスとか、エロースとか、いや、あいつらだけじゃない。

 双子のお姉さんアルテミスさんですら、別れ際に「あなたの事は好きになれそうだわ。期待してるわよ」なんて言ってくれた。

 きっと社交辞令とかで気を遣ってくれてるんだと思ってた。

 でも、多分、違う。


「あいつ……多分、ここを追い出されたんだな」

「あの、アポロン様どうかなさいまして?」

 

 振り返ると、クレイオーが立っていた。

 オレの絶叫を聞いて様子を見に来たらしい。

 栗生にそっくりな顔がオレを心配そうに見ている。

 知的な瞳。

 もしかしたら、クレイオーなら。

 オレは立ち上がり、ばら撒いた本の一冊を開いて見せた。


「ここって、元々こういう本の置き場?」

「い、いえ! アポロン様の『ご趣味』の本だけじゃなくて、お仕事の本もちゃんとあったはずですが!」

「ないよ。見てみ?」


 クレイオーはオレが指差した本棚を、「まさか」という顔で順に見ていった。

 20冊くらい見ていただろうか。

 そのあたりで、ため息が聞こえてきた。


「……1500年くらい前に見た時は、こんな感じじゃなかったのに」

「あいつ、いつからこうだったんだ?」

「あの……アポロン様」

「クレイオー、実は疑問に思ってることがあってさ」

「何でしょう?」

「オレとあいつ……向こうの世界にいるアポロンが入れ替わったのって、アスクレーピオスの医療ミスだけが原因?」


 クレイオーが「え?」という顔をする。

 多分、こんな事を聞かれてもピンと来ないだろうな。

 だけどちょっとこれは確かめてくる必要があるだろう。

 オレはきょとんとしているクレイオーに自分の考えを話した。


「前にアルテミスさんに会ったときに聞いたんだ。ヒュメナイオスっていう神様は、ハーデースっていう冥界の神様に許されなくて、生き返ってこられなかったって」

「え、ええ。確かにそうでしたわ。知っています」

「アポロンもさ、そういう風に、『誰かの意思』が働いてて、ちゃんと復活できなかったって可能性があるんじゃないかな?」

「どういう……ことでしょうか」

「オレもまだあやふやなんだけど、そういう神様の生き死に関係する事って、誰に聞いたらわかる?」


 オレがそう言うと、クレイオーは暫く悩んでいた。

 そして、彼女の口から出たのは「ゼウス」という名だった。

 アポロン、そしてアルテミスの父親だ。


「やはり……そういう大きな事が何かあるとすれば、ゼウス様がご存じのはずです。父上にお聞きするのが一番確実かと」

「父上?」

「あ……申し上げていませんでしたか? 私達ミューズの9姉妹の父はゼウス。つまり……アポロン様と私は母違いの兄妹に当たるのです」


 え。

 知らなかったんですけど。

 じゃあ、君たちオレの妹なの?

 血が繋がってるのに結婚するだのしないだのって言ってるの??

 

 オレはビックリしてしまったが、クレイオーに言わせると問題はないらしい。

 人間社会では法律で禁止だけど、神様にはよくあること。

 母親が違う兄と妹は結婚してもいいらしい。


「ゼウス様は忙しい方ですが、アポロン様がお会いになりたいと申し上げれば時間を作ってくださるでしょう。私が一緒に参ります」


 そう言って、クレイオーはゼウスに連絡を取ってくれることになった。

 向こうの都合に合わせて2人で会いに行く。

 そこでちゃんとあいさつもしがてら話を聞く。

 そういう段取りだ。


 こっちの世界の親父に初対面か。

 何だか緊張してきたな。


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