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異世界浪漫飛行  作者: 音無音次郎
第1章 目的のない旅人
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目が覚めて、着心地がいいのも考え物だなと思っ ていたのは、自分が帰ってから鎧の着たまま寝ていたからだ。

別段何かあったわけでもないのだが、寝るときくらいは鎧ははずそうと思っていたからだ。


オリハルコンの剣だけは机に置いてあった。鞘をまだ手に入れていないため、抜き身なのが気になっているのだが、安い鞘に入れたら即行で斬れて使いものにならない。

まあ抜き身で持ち歩いている人もいるから、まあいいと言えばそうなんだが。


俺は部屋を出て階段を降りる。

まだ時間的には早かったようで昨夜遅くに来たにも関わらず快く泊めてくれた夫婦が準備をしていた。

俺は深く頭を下げて「ありがとう」と告げる。「いえいえ」と言っていたが、申し訳ないので、大銅貨をこそっと渡す。

ニーガドラゴンのお陰で懐は、異様なほどに暖かい。

殆どを預けてはいるが、いくらかは持っている。

主人は驚いていたが、「感謝ですから」と押し付けるようにすると、深く頭を下げられた。




外に出ると、やっと太陽が上ってきたところだった。

チュンチュンと小鳥の囀りがきもちいい。

昨日の事は気になるが、タツキによれば「みんな流刑か縛り首くらいにはなるよ」と言っていたので改めて聞く必要もないだろう。

かといって、それだけではない。

セシリアの事もあるのだ。


心配ではあるが、わざわざ孤児院まで行って具合はどうなのか聞くのもどうだろう。

借金云々を知っている俺を快く迎えてくれるだろうか。

冒険者風情を、子供たちのいる場所へ入れてくれるだろうか。

俺なら否だ。

だったら俺に出来ることはない。


受け付けに戻ってきた時に、声を掛ければ済むだろう。


俺は広場まできて、孤児院の方を見る。

光があれば必ず影が出来る。

完璧に幸せな街などありはしない。

それが、現実なのだろう。


左に曲がりギルドへと向かう。

ギルドの前はもう迷宮へと向かう人々の群れが出来ていた。

時間帯が違うからだろう。この間見た冒険者よりは腕がたちそうなのが散見される。


まあ俺にはあまり関係がない。まだ仲間さえもいない状態で迷宮に入るなど考えられないし、握ってもひしゃげない武器も手に入ったことだし別に無理して入る必要もない。


人の群れの脇から中に入る。

やはりと言っていいのか、セシリアは受け付けにはいなかった。


「いらっしゃいませ、あっ!!ルカさんですよね!?」


セシリアの変わりに受け付けにいた女の子が、俺に話しかけてきた。


「そうですか………」


「昨日セシリアをお姫様だっこで歩いていたって本当ですか!!」


拐われたって事じゃなくてそこかよ…と突っ込みたくなったが、まあ、妙にセシリアに気を遣うよりはいいなのかなと思う。


「まあ…そんなところですね」


「新人期待のルーキーにお姫様だっこされるセシリア!!なんて羨ましいの!!」


おいおい………


「あの依頼を「あっ言い忘れてました!!ルカさんがギルドに来たらギルドマスターに通せと言われていたのでした」


「さっこちらです」とカウンタの中に入れてもらう…というか引っ張りこまれる。

あのさ………俺の意思は………






「大活躍だったみたいっだな」


ギルドマスターはソファに座って、紅茶を啜りながら控えめに笑っていた。

Drank風情がマスターの執務室に通される事は殆んどないはずなのだが。


「やったのはタツキで、俺は運び出しただけですよ」


「街中や、孤児院の中ではっセシリアを救いだしった王子様扱いらしっいぞ?」


おい待て………マジ勘弁して………


ギルドマスターは自分の髭を右手の人差し指と中指で弄りながら優しそうな笑顔をしている。


「それはさっておき、ワシっとしってはルカ殿には早っくrankアップに本部へっと行ってもらいたいっのじゃが………」


そのじゃが…の後がこの間もよくなかったのだが、何かよくないことのような気がしてならない。

俺の前に紅茶のカップが置かれた。


「それで俺に何をしろと?」


ギルドマスターの目がキラリと輝いた気がした。

ニヤニヤしたまま、ソファから立ち上がり窓の方へと歩く。

いよいよ悪いことしか頭の中に浮かばない。


「今回っのように急激にrankアップしった例は少ない。大出世とっも言える。」


だから。何が言いたいんだよ。


「それはよいっのだが。」


いいのかよ!!たぶん表情は変わってない筈だが、心の中では何回つっこんだか分からない。


「首都バドールサイカまっでは転移門もっないからっ徒歩で行くのが殆んどっなんじゃがっ、途中にあるザドバ村との定期連絡がここ数日滞っておるんじゃ。」


「ギルド同士で定期連絡を取り合っているんですね?」


「そうっじゃな。情報共有は大事なこっとなのじゃ。定期連絡は、この端末でもできるのじゃが、このところこれにも返答がなくてな。」


手に携帯電話のような形の金属が握られていた。それが、遠距離でも連絡が取れるものなのだそうだ。


「何かよくないことがあると?」


「なにもなければいいっのじゃ。ただこんなことはなかったのでな。」


ふむとソファに座り直し顎髭を撫でる。


「ボリブ辺境伯にある第二の都市と言ってもいいほど大きな村…町じゃからな。辺境伯領都リドビアにはすでに連絡済で冒険者を派遣予定にっなっておる。」


「じゃあ俺は行かなくてもいいんじゃ。」


「そういうわけにもいかん。ザドバ町とここダビドスの間には村は存在しておらんっのだ。言いたいっことっは分かるな?」


つまり、ザドバ町に何かあった場合次に何かあるとしたら辺境伯の領都かこのダビドスになると言いたいのだろう。


「タツキは」


「タツキ殿は、男爵からの依頼で護衛としてコレントという街に向かう手筈になっておる。普段ならまだ上位のrankのものが行くのが相当なのじゃがっ、今は席を外しておる。ルカ殿に頼むしかないんじゃ。それに、あのニーガドラゴンと単独で討った実力を見込んでのことじゃ。この依頼受けて貰えぬか。」


逃げ場はない。

どうせ首都に向かう道すがらだから、いいのだが。


「受けましょう。でも、また戻ってこなければいけないのでしょう?」


「いやそれはよい。」


「それはどういう…」


ガチャリと扉が開く音がしてそちらを向くと、旅支度を整えたセシリアが立っていた。


「はぁ?」


思わず気の抜けた声を出してしまった。


「昨日の事件の詳細はまだ聞いておられなかったようですな。」


セシリアは俺を一瞥して、ギルドマスターの方を向く。

おい、俺は何もしてないぞ?


「男爵様は孤児院を改めて訪れて、補助を出すことになった。それはギルドからも増額して出すことにしたのだが、15歳未満しか住めないことになったのじゃ。」


「それは…?なぜ?」


「詳しいことは為政者の考えじゃ。分からぬが、15歳以上は働けるから働いて自分の家を持つように促す狙いがあるのではないじゃろうか。今はまだ計画段階じゃが、近々城壁も更に外側にもうひとつ建ててそこに家を建てる算段なのではないか?」


「それはわかったが、なぜセシリアが?」


「セシリアは16歳じゃ。孤児院には住めぬ。ギルドも寮や住むところの斡旋はしておらんし、宿くらいしか今は空いておらん。」


「でも、「私と一所は嫌ですか!!?」


セシリアは下唇を噛んで俺を見ていた。

目は今まで見たことのないほど真剣だ。


「いやそういう問題「私のこと嫌いですか!!?」


また被された………いや嫌いじゃないし、いいんだけど。


「ルカ殿は実力も申し分ないのですが、ギルドの実績事態は殆んどないと言ってもいいので、元ギルド職員のセシリアがいれば信用もおけますし………」


うわ………依頼はついでなんじゃないかと思ってきた。

ついでに、タツキのニヤニヤする顔が浮かんできた。

もしあいつが考えたことなら、次に会ったときには拳骨だ。


「分かりました。セシリアも連れていきます。」


「しゃあ私をパーティーにいれてください。」


はい?セシリア冒険者だったか?


「私はこれでも、Drank冒険者ですよ。」


うわ………そういえば、魔法も結構使えたんだった………


「子供達が心配だったから受け付け業務をさせてもらってただけですから」


ああね………マジで俺何か悪いことしたんだろうか。


「それに………」


俺の耳元に近づき…「借金の件はルカさんと一緒に冒険者として働けばなかったことになるように手筈はしてあるって言われたし、ルカさんありがとう」といい匂いと共に俺の目の前にたわわに……いやいや…あいつもとい、あいつら拳骨してやる。


「処理は分かんないからお願いします…」


俺はセシリアにお願いした。

「はい」と言ってスキップしながら、扉を出ていくセシリアの姿を見送ってからマスターの方を向く。

俺の視線に気付いて苦笑いを浮かべていた。


マスターまで、共犯者の匂いがした。









暖簾をカウンタから出ると、せっせとパーティー処理をしてるセシリアがいた。

背中にはしっかりと、弓があり服装も冒険者そのものだ。

今更ながら、かわいいと思うのはちょっとした贔屓目だろうか。

あの洞窟に行ってセシリアにも武器防具取りに行かせようと内心決めたのだが………


「ルカさんパーティーの名前何にします?」


ちょっとこれと、これとどっちが可愛いと思います?みたいな視線止めてくれ。

惚れるから。


「そうだなぁ………」


浮かばない。状況がまだ納得できないからか。

まったく浮かばない。


「ヘルファイアとか?」


その声に聞き覚えがある。

つまり今一番拳骨をお見舞したい相手。


「地獄の炎は不吉だろが。」


「じゃあバーン」


「なんでバーンだよ」


「んじゃあ「こるぅあぁ!!」


振り向き様にやってやった。

頭の天辺から煙を上げながら涙目になっているタツキ。


「いきなりはあんまりじゃないか!!」


上目使いとか小癪な。もう一発か。


「セシリア気に入ってたじゃないか!!」


それをここで言うか。


「もっと一緒に旅が出来たらなとか、嫁にしたいとか」


おい後者は言ってないぞ。


後ろの方へ、顔面を真っ赤にして湯気でもあげんばかりのセシリアがいる。

こいつ狙ってやってやがる。


「ま………まあいいが。」


振り上げた拳を解いて、頭を掻く。

恥ずかしいだろうが………反論出来ないし。


「ルカのバイルシュタインて名前にしとけばいいじゃない?いつでも変更は出来るわけだし。」


セシリアはささっと記入して、処理を済ませた。

そうかそれでいいのか。


そして、ここにパーティー、バイルシュタインが結成された。


「俺もいつか入れてね〜」


「却下だ!!」


タツキがおちゃらけて言ったのを封殺することも忘れることなく。



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