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異世界浪漫飛行  作者: 音無音次郎
第1章 目的のない旅人
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身体中の血が沸き踊るような感覚だ。

この感覚は覚えている。

血を大量に飲んだあの時の感覚だ。しかし、微妙にあのときより違うものも感じる。それが何なのかは表現しづらいのだが。


俺の胸ぐらを掴んでいた男が俺の目を見て、恐怖に顔を歪める。

掴んでいる手も震えている。


「あっ赤目だなんて…!!」


タツキは相も変わらず、チビチビと蜂蜜酒に舌鼓を打っている。


前髪がサラリと見えてあれ?と思った。

髪が黒くなっていたのだ。

心なしか自分の爪も長くなっているような気もする。


「ぁ ああ赤目だぁ!!」


大男は、手を離しその場にめり込むような土下座をかました。

それはもう、現代のサラリーマンも真っ青な綺麗な土下座だった。


「あっ赤目の方とは知らずに無礼を………」


赤目とは俺のことだろうか。

口腔内の血の感覚がなくなるとホッとしたように、大男はため息を着いた。


「赤目ってのはどういうことだ?」


俺は大男の目の前に屈み、目線を合わせる。

まだビクビクしているのは、それだけ赤目というのが怖い証拠なのだろう。


「赤目………は、他人の血を糧に爆発的な能力を持ち振るう方々の呼び名でさぁ…」


俺の赤目が引いているのは分かっているのに、大男はまだ軽く震えていた。


「ルカ。なんだお前知らなかったのか?」


タツキがようやく俺の方を向いて「ほれ」と蜂蜜酒を薦める。

まあいいかと俺は自分のテーブルの席につく。


【赤目】

真紅の赤い目をした一族の総称。

モンスターや強者の血を一滴でも飲めばその人間やモンスターの力を得ることが出来、極めて好戦的な一族と言われている。


ヘルプ君よ、俺は違うと思うのだがと思った。何しろ既に【吸血鬼】と明記されたことがあるのだから。

いや、【吸血鬼】が赤目の一族なのかもしれないが…



「赤目ってのは…」


「いや思い出したからいい。」


「そっ」


「それより、俺なんかがあんな高級な宿に泊まっていいのか?」


タツキから紹介された宿は、一日銅貨一枚と結構な値段ではあったのだが、タツキの紹介もあり、大幅に減額されて大鉄貨5枚だった。


「おばちゃんも、おじさんもいいって言ったから、いいのさ。」


チラリと大男に視線を落とすと、まだチラチラと此方の方を見ていた。

結局俺とタツキが食堂から出るまでその場で正座していたあの大男には感心する。

俺には無理だ。


食堂を出るとタツキは、用事があるからと夜の闇に消えていった。

俺は一人宿へと帰る。

中世ヨーロッパのような景観は、魔法石と呼ばれる魔力を貯めておける石を用いた外灯に照されていた。


宿に着くと、鍵を受け取り階段を上ってすぐの205号室へと入った。

机とベット。クローゼットのある清潔感に溢れた部屋だ。

この部屋にも魔法石を用いた灯りがあった。


俺は胸当てやグリーヴ、ブーツを脱いで壁際へと並べて置く。

剣はもうひしゃげて使い物にならなかったので、鍛冶屋に格安で売り払っていた。


「ふぅ………」


どうもかなり久し振りに柔らかいベットに入った気がする。

疲れもあったのだろう。俺はすぐに眠りへとついた。













ふわふわとした感覚。俺はどこにいるのだろうか。

ベットで久し振りに眠りについた気がしたのだが。

人の気配がして、その方を向く。



「よぉ初めましてだな。」


「お前は誰だ?」


「俺はお前だ。」


もう一人の自分ということか。


「俺の名前は………だ。まあお前にはもう必要ないがな。」


「俺はお前なのか?」


「さっき言ったろ?そうだよ」


「そうか。」


「お前はお前でいいんじゃないか?」


「どういうことだ?」


「あれこれと悩みすぎなんだよ。俺はお前で、お前は俺。俺の知識や経験から全部がお前なんだ。だから、一々うだうだ悩んでないで自由にいきろってんだよ。」


「俺はお前か………」


「分かったな?」


「ああ。」


それだけ言うと困った弟だと言わんばかりの顔をして霞のように消えていった。


俺は転生者であり、俺だ。

やっと心の中がすっきりしたような気がした。













俺はノックの音で、ようやく目が覚めた。

この宿は部屋まで朝食を持ってきてくれるサービスが標準装備だそうだ。

パンが2つに目玉焼き。コンソメスープのようなものを、手早く食べて、お膳を部屋の外に置いて、胸当てなどの装備をつけて、宿を出た。

宿は一応毎日お金を払う形なのだが、部屋は確保しておくと言って貰っていた。

実際そうさてもらうとかなり気が楽になる。


その足で真っ直ぐ向かったのは勿論、冒険者ギルドだった。

ギルドは、昨日見たときはもう暗くなっていたため、しっかりと見ていなかったが、シュバルツ村とは比較にならないほど大きくしっかりした建物だった。

入口にも、若い男がたむろしている。

端から見れば、ヤンキーか、チンピラにしか見えないのだが、胸当てやら武器やらを持っている関係上冒険者なのは分かる。


俺はその中をつっきって、ギルドに入った。

中も結構ごったがえしていている。

話を聞くに迷宮に入るための許可待ちの人達のようだ。

俺はそこもすり抜けて空いているカウンタへ歩み寄る。

空いているカウンタは、トロそうな童顔眼鏡、髪を二つに結んび、ギルドの制服を着た女の子がいた。

カウンタには、迷宮に入るため専用の窓口とそれ以外のモンスター狩りの依頼などを扱うカウンタの2種類があり、迷宮専用は3人がフル回転していた。



「まずギルドカードの提示をお願いします。」


これが規則なのだ。顔見知りになればその限りではないが、はじめての場合提示をするのが通例だ。


「ルカさんですね。Grankで受けられる討伐依頼は此方です。」


冒険者ギルドは何でも屋扱いという訳でもない。メインの仕事はモンスター討伐なのだ。

もちろん、それ以外の仕事がないわけではない。

薬草の採取などがそれであろう。


「グリーンウルフとレッドウルフ。………まあこんなもんか。」


依頼は依頼されたモンスターを持っていく、それで完了となるが、数はげんていされていてもそれ以上狩ってはいけないということはない。

依頼の数は最低限これ以上は狩って欲しいというのが建前だそうだ。


依頼にあるのは、シュバルツ村と大差がない。もちろん、距離が近いのだからそうなのだろうが。


迷宮カウンタで緑水晶が出されて、ワイバーンを狩っていたのを思い出し、緑水晶を提出する。

受付の女の子は緑水晶の中身を見て驚いていたようだが、冷静に処理しようとしているのだろうが、慌てて迷宮カウンタの人に手伝って貰っていた。

手伝いがいるほどのことなのか?と疑問に思っていたら、ギルドrankのアップが言い渡され、GrankからFrankにアップしてもいいと言うことになった。

「規定通りに試験を受けますか?」と言った所で、後ろにある暖簾から禿げ上がったスキンヘッドで白く長い髭を蓄えたおじいさんが俺の方へと歩いてきた。


「おっぬしがタツキが連れてきた新人かっ?」


余計なところで小さなっが入るので妙に聞き取りづらい。


「はい、今日からですが」


「ワイバーンをアッサリとっ倒したとっか。Frankではあんまりじゃがっワシの権限ではDrankまでしか上げてやれんっ」


ワシの権限てもしかして、この人はギルドのマスターかなと思うような発言だし、周りの反応から見ても推測は当たっているのだろう。

急に来ていきなり飛び級はアレなんじゃないかと思ったのだが、周りは大して気にしていないようなので、珍しいことであっても、興味をひくほどではないようだ。

まあその方がいいのだが。


「そこでじゃっ。」


はい、きたDrankまで上げてやるから条件を満たせとかだろうと思った。


「ここ最近ワイバーンを伴って空を飛ぶ黒いドラゴンを見たものがおってっな?その降り立った場所の偵察をお願っいしたいのじゃが。」


そのドラゴン殺したらなんかウマウマだろうなと思ったりする俺は思い上がりだろうか。

いやまず、魔法を少しでも使えるようにならないと飛ばれたら手出しが出来ないのは辛い。


「どうじゃろうか。」


「承けますよ。」


「ありがたい!!では案内役にセシリア。お前が行きなさい。」


眼鏡のお下げっ子が自分に指先を向けて首をブンブン振っている。そうとう行きたくないようだ。まあドラゴン相手の偵察だからしょうがないか。


「で、偵察って何をすればいいのですか?」


「そこに巣があるのかどうか。そして、他にドラゴンがいないかどうかだな。」


それくらいならと二つ返事をした俺を見て眼鏡のお下げっ子は肩を落とし項垂れていた。

その条件内容を聞いていた者は、御愁傷様と可哀想な子扱いするようの視線を俺と受付のセシリアに向けていた。


まずは魔法を教わりたいと言ったらなんとセシリアが教えられると言うことで、即日解決してまたセシリアは悲しそうに項垂れていた。


コロコロと代わるセシリアの表情は面白かったのは言わずにおいた。

今から教えを乞わねばならんのだから、機嫌を損ねるような発言はしなあに限る。

まあ、ギルドマスターの依頼を受けた時点であまりいい印象ではないような気がしていたりするのだが。





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