17
2日目。
ルカが去ってからまる一日が過ぎた。
タツキがなぜルカを知っていたのかを聞いた。そして、タツキが着ていた黒い鎧の出所もだ。
圧倒的な強さ、圧倒的な存在感。
向こうにいた時は、あんな風に強い存在感を発揮することはなかった。いい意味でも悪い意味でも平凡な男だった。
それが、あれだ。
俺にとってのルカという存在が変わっていくような気もする。でも、話した感じ根底は変わっていない。そう思う。
じゃなければ、あのグリムをここに置いていったりはしないだろう。
「ツルギ、お弁当持ってきたよ。」
今日からはセシリアとマルガが共同で弁当を作ってくれる事になった。
弁当と言っても、おかずとおにぎりなのだが、俺にとっては十分な食事と言える。
「今日のおにぎり私が作ってみたの。どう?」
セシリアがおれに顔を近付けて覗き込むように言った。
「セシリアのおにぎりも、マルガのおにぎりもどっちも美味しいよ」
二人とも喜んでくれた。
お世辞ではない。本当に美味しいのだ。
マルガはもう先生という感じではない。どちらかというと、マルガの友達くらいだろうか。可愛らしかったので俺は、二人の頭を撫でてみた。
幸せな時間は、甲高い咆哮で引き裂かれる。この声は間違いない。ワイバーンだ。
「マルガ、セシリア。隠れろ。」
普通ならセシリアにも加勢を貰うところだ。しかし、今回はそれが危険と判断した。なぜか。それはあまりにも、ワイバーンの数が多すぎるからだ。
空に黒い雨雲の如く密集している。その一つ一つがワイバーンなのだ。
「【血盟召喚】ジェルド、ニーガ。共に闘え」
俺が手のひらを切って流した血から二つの影が浮かび上がる。
「「心得た」」
ニーガが空へ飛び立ち、ワイバーンの群れへと火の玉を吐き飛ばす。
ジェルドは生きて落下してきたワイバーンに止めを刺していく。
俺はというと、ワイバーンにばかり気をとられていたが地面が揺れているのに気付いて、魔力を練る。
門に向かって駆けてくる影。
グリーンウルフ、ガウブル、バルロ、レッドウルフに、レグリードウルフまでいる。
土埃が舞い上がるほどの疾走。
俺は、魔法で氷と土を混ぜた壁を作ってから、前方に炎の槍を突き立てて柵の代わりにする。
そして、もうひとつ。
土と炎、そして、風を使って俺の頭上に隕石のようなものを作り出す。
「食らえ」
俺は、腕を降り下ろして炎に包まれた隕石を投下する。
風による加速もあって周囲の木々も巻き込み燃やしながら落下してモンスターの集団を飲み込む。
ニーガも、ジェルドも粗方倒し終えたようだ。こちらの戦力は高い。しかし、数が多すぎるのだ。
「伝令、全方向の門にもモンスター多数、南門の彼方に一際大きな羽のないドラゴンのようなモノがいるとの報告がありました。」
恐らくそれが、元凶なのかもしれない。
俺は、この場所にジェルドとニーガを置いて南門へと向かった。
セシリアとマルガはもしもの場合に備えて村の人々をギルドハウスに避難させるように頼む。
俺は、村の道を駆け出した。
南門は、怪我をした冒険者が次々に運ばれて来るところだった。
まさに阿鼻叫喚の図だ。
俺は、その中を抜け出して門の上へと昇る。眼下では、剣を手にグリーンウルフなどと闘う冒険者達がいた。タツキの部下の3人の姿もある。
門から飛び降りて、その中に加勢する。
やはりこちらも、モンスターの数が多い。
オリハルコンの剣でモンスターを切り伏せて前に出る。
前に出てから魔法を使わなければ周りを巻き込んでしまうからだ。
俺が最優先でやらなければならないのは、元凶だと思われる、遠くに見える羽のないドラゴンのような奴だ。
右手の剣で斬りながら魔力を練っていく。
放つのは風。
前方に向けて突風を発生させる。
モンスターが吹き飛ばされているうちに、氷の槍を周囲に放つ。
よろけた集団を踏み台にして、羽のないドラゴンへと駆ける。
足元から幾重にも牙や角がつき出される。それを避けながらまっすぐに進む。
そして、勢いに任せて飛び上がり羽のないドラゴンの上空へと上がる。
俺を見失ったそいつは、キョロキョロと辺りを見渡していきなり口を大きく開いて咆哮をかました。
ビリビリと肌が波打ち初動が遅くなってしまう。
それに気付いたそいつは、振り返って尻尾を俺へと打ち込む。
回避は間に合わない。俺は、体勢を整える暇もない。
剣で尻尾に当てに行く。
尻尾に傷をつけることは出来たが、俺は、衝撃を逃がしきれず弾き飛ばされる。骨が折れたのは分かったが、どうにか修復してくれる。能力様様だ。
「せっ」
俺めがけてモンスターが殺到してくる。周りに竜巻を発生させてから、水で弾丸を作って発射する。弾丸は無差別にモンスターを光にしていく。
その隙に風を刃にして羽なしに放つ。
羽なしは、再び咆哮をしてそれをかきけすが、そのお陰で大きなチャンスを得ることが出来た。
喉元まで、滑り込んで腹に剣を突き刺す。
絶叫して暴れだすが、腹を切り開いて大量出血させる。
ボスの異常に気付いたモンスター達が蜘蛛の子を散らすように散り散りになり始める。
あと一息だ。
暴れ散らす羽なしの動きが鈍った所を見計らって、喉元から切り上げてようやく光になった。
ボスの死を察したモンスター達はもうなすすべなく狩られていって辺りにモンスターはいなくなった。
「ツルギさん!!」
一番最初に俺のもとへ来たのはセシリアだった。ほんのり涙を浮かべている。流石に心配させてしまった。
「ツルギ、あんまりセシリアを心配させないでね?」
そう言ったのはマルガだ。俺に泣きつくセシリアの頭を優しく撫でてくれていた。
自分も一番ちかしい人を亡くしたのにだ。
俺は、立ち上がりマルガとセシリアの二人ともの頭を撫でる。
「大丈夫。俺は、平気だよ。」
俺たちは、こうしてやっとの平和を手にした。
しかし、そこにグリムの姿があったのを見落としていたようだ。
「やはりこれがありましたか。」
グリムは、透明な玉を手にもって睨んでいた。
「それは?」
「これは【狂気の宝珠】と我が主は言っておりました。」
「【狂気の宝珠】?」
「はい。このような他のモンスターを集めて村や人を襲うモンスターの中には必ずといって良いほどこの宝珠がありました。」
「それは俺も聞いたことがあるよ。」
タツキも、一仕事終えたような顔で歩いてきていた。
「タツキも聞いたことがあるのか?」
「ああ。教団が今やっきになってる神器ってものに使えないかとか色々だな。だが、こうやって産み出されるものだとは知らなかったよ。」
タツキは、両手をあげて首をすくめた。グリムは、未だにタツキに対して警戒を解いてはいないようだ。それに、タツキも気付いてはいるが自分からそれを解こうとはしていない。何しろ、グリムはルカの使い魔なのだ。
「では。」
グリムは、持っていた【狂気の宝珠】に力を込めて潰し粉々にする。
「まあ何にしてもこれで一段落したね。」
タツキは、またいつものちゃらさが戻り3人の部下を引き連れてギルドへと帰っていった。
しかし、俺は、まだ疑問が残っていた。
「その宝珠は自然に発生するものなのか?」
あの水晶体が自然に発生するものだとは考えにくいからだ。
「流石は、我が主の親友様でごさいますね。もちろん、自然発生するものではありません。」
「と………いうと?」
「少し話は逸れますが、オーラ教団の聖堂騎士団をご存知ですか?」
「いや、知らない。」
「彼らは疑似神器と呼ばれる武器防具を使用しているのですが、その疑似神器の核に使われているのがこの【狂気の宝珠】なのです。」
「じゃあまさか………」
「十中八九オーラ教団の関与が考えられます。それに、疑似神器を使ったものの多くが自我を失ったただの戦闘兵器となっていたのも【狂気の宝珠】の危険性を示すのには十分な理由かと」
その危険性をタツキは理解して利用しようとしているのか、どこまでもタツキの事が分からない。
「どうやってこれを作っているのかはまだ調査中な上に分からないことも多いので何とも言えませんが。」
グリムは言葉を結んだ。




