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異世界浪漫飛行  作者: 音無音次郎
光ある旅立ち
36/53

16

ギルドの中に入ると燃えるような赤い髪の2メートルはありそうな身長の男がいた。

深紅と鎧に身を包んでいるのだが、無駄のない身体の筋肉はパッと見でも分かる。

背中には、本人の身の丈よりも長そうな大剣があった。無骨だが、相当なものだと想像出来る。

その男は、俺を見ると一礼した。知り合いだっただろうかと思ったりもしたが、こんな男なら忘れるわけがない。それほどのイケメンでもあった。


「あれぇ〜君どこかで会ったことあったっけ?」


タツキは、その青年に気安げに話しかけた。


「会うというか、見たことはあるな。」


渋い声でタツキの質問に答えた。見たことはあるという微妙なものだったが。


「う〜ん………なんか違うような気がするんだけど」


タツキは腕組みしながら、うんうん唸っていた。


「あなたが我が主の友ツルギ様でしょうか。」


その男が急に、俺の名前を呼んでびっくりした。まさか俺に来るとは思ってもみなかった。それに、我が主ってまさか。


「ルカの知り合い………なのか?」


赤い髪の男は、微笑んでいた。


「申し遅れました。私はルカ様の使い魔をさせてもらっている。クリムゾンのグリムと申します。」


グリムと言う男がルカの使い魔というのにはさすがに驚いた。


「ははは………」


苦笑いしか出てこなかったのは言うまでもない。俺の【血盟召喚】には出来ない芸当だ。

どれだけあいつは強くなっているのか想像を絶するということだけはわかっていたつもりだが、それよりも上を行っていそうな気がする。


「我が主から、伝言を預かっております。」


グリムは、そういって俺の耳元でこそりと話す。


「夜に門の前に。だそうです。」


グリムは、それだけ言ってから元の位置へと戻った。

それからあとは、作戦会議となった。

今現在の被害状況、門の場所とここにいる冒険者の能力と担当門などの設定だ。幸いセシリアとハンブルはグリムと同じ北門の警備に当たることになった。

ルカの使い魔なら安心できると思う。

タツキは、東門、俺が西門、タツキの部下の3人と他の冒険者が主に南門を守ることになった。

タツキや俺は一人なのだが、周りに人がいると逆に問題だということになりそうなった。

確かにその方が安心して戦えるのには間違いないと思った。

それに、言伝ても含めてだ。


持ち場に着こうと、ギルドを出るとすぐそこにマルガが立っていた。


「マルガ………」


「ルカさん………いえ、今はツルギさんでしたね………」


マルガが俯いたまま、立ち尽くしていた。セシリアは、何かと此方を気にしていたがハンブルに連れられて北門へと歩いていった。


「あれからギルドでツルギさんの話を聞くたびに………また会いたいと思っていました………」


「なんで俺なんかに?」


「私も昔の記憶だけはあるんです。断片的ではありますけど」


マルガがじっと此方を見つめた。


「ツルギ………って名前を聞いた時に、やっぱりそうだっておもったの」


確かにその目は、どこかで会ったような気がする。でも、思い出せない。


「私の名前はみゆき。………ツルギ君」


そう言われて心臓が飛び上がるかと思った。確かに知っている。間違いなく知っている。


「先生………?」


「うん………たぶんそうだったと思う。」


中学の時の先生。そうだった。

白血病を患い、回復の見込みもなく、電車に飛び込んで亡くなった先生。


「ツルギ君………?」


俺はマルガを………先生を抱き締めていた。

考えるとか、どうとかいうことではなく、頭よりも身体が動いたのだ。


「先生………」


俺の初恋の人。亡くなってから何年も何年も喪失感から抜け出せないほど好きだった人だったのだ。


「ごめんなさい………あなたの気持ち知っていたのに………思い出せなくてごめんなさい………」


俺はただただ抱き締めた。















今マルガは、ギルドの手伝いをしていて、寝食はそこでしているそうだった。

ギルドなら安心だと、俺は持ち場へと向かった。そこには、セシリアが待っていた。


「セシリア………」


その顔には色々な複雑な感情が映っていた。


「あのマルガさんって………人。ツルギ好きなの?」


恐る恐るだったが、しっかりと聞き取りやすい声で俺に言った。


「ああ。」


「そっか………」


セシリアは、そう言うと、北門への道を歩き始めた。俺は、セシリアの腕をつかんで抱き締める。


「今はセシリアを一番に思ってる。」


「うん………でも、マルガさんどうするの?」


「………」


俺は答えられなかった。というか答えが言えなかった。不義な男かもしれない。そう言われることが少し怖かった。


「私はいいよ?」


抱き締められたまま、セシリアは顔を上げる。


「二人ともちゃんと守りたい」


「うん」


「セシリアには寂しい思いはさせない。」


「うん」


「だから………」


「私が一番じゃなきゃダメだぞ?」


セシリアは、そういって人差し指で俺の額をつついた。


「わかった。」


セシリアは、少し安心したように北門へと歩いていった。

















昼間の間は、モンスター一匹現れることはなかった。人さえも同じだ。

北と南はそれなりに人の出入りがあったそうだが、西と東はさっぱりだった。

闘わなくて済むのならその方がいいのだ。

昼飯は、みゆき先生…いや、マルガが持ってきてくれた。

距離はかなり縮まったが、やはりセシリアの事も気になる。

そう思って、マルガにセシリアを読んできてもらうようにお願いして、3人で食べることにした。最初は気まずい雰囲気だったのだが、どうやら俺がトイレに行っている間に共通の話題で意気投合したようだった。

仲がよくなるのなら万々歳だ。

そして、予定の夜が来る。

モンスターなら討伐すれば済むが、親友とはいえ大分久しぶりに会うとどうも緊張する。

俺は門の上に乗って、足を投げ出し空を見上げながら待っていた。


「久しぶりだな。」


声がした方を見る、あの闘技場での見たままの姿のルカがいた。となりには、あのときは見えなかったが、白いコートにはサクラの花弁がピンク色で刺繍されていた。ルカと隣の女性はふわりと門の上に立った。


「こっちがモカ。俺の恋人だ。」


「初めまして、モカです。」


「キュルルル」


俺も紹介しろと言わんばかりにプーが鳴いた。


「んで、こいつが使い魔のプーだ。」


ルカが紹介すると、「俺がプーだ」みたいに胸を張ったような気がした。可愛い。

パタパタと羽を羽ばたかせてジタバタしたその姿もだ。


「本当にお前なんだな?」


俺はルカを真っ直ぐ見てそう言った。そう言わずにはいられなかったとも言える。


「ああ。」


ルカは、あの姿のまま。ただ、あの日あのときよりも少し痩せたような気がした。


「俺も紹介してくれるといいな〜なんてね」


タツキの声がして、ルカが目を細めた。殺気すら感じる。


「誰だ。」


ルカは、俺が聞いたこともない声で言った。まるで、辺り一面が凍りつくような声だ。


「やっぱりあなたでしたか。」


タツキは、ルカに頭を下げた。

タツキが頭を下げる姿は初めて見た。


「どこかで見た顔だと思ったら」


言葉は気安く感じられるが、殺気と警戒は解いていない。

今にも戦闘が始まりそうな雰囲気さえ感じる。


「タツキと言います。あの時はお世話になりました。」


「俺は今、あの時はお前を殺しておくべきだったと後悔しているがね。それと、糸など俺には効かないからしまっておくといい。」


ルカがそういうと、辺り一面が一気に発光した。強烈な光方だ。何かを焼くようなそんな匂いがする。


「やはり無理ですか。」


「今ここでお前を殺してもいいが。」


いつの間にか、タツキの部下3人がタツキの背後についていた。


「これでも無理ですね」


タツキは、戦闘体勢を解いて両手を上げる。


「使徒だというのに、その判断はどういうことだ?」


ルカの言葉が分からなかった。使徒?


「ルカ。使徒ってのは何なんだ?」


「ツルギ君。俺はこの間オーラ教団の使徒になったのさ。ただね、後ろ楯は大きい方がいいと思っただけさ。」


タツキは、両手を上げたまま地面に座った。本当に戦う意思はないのだろうか。


「オーラ教団は、起こしてはいけないものを起こそうとしている。」


ルカの話についていけない。頭が追い付かない。


「ツルギ。お前にはおいおい分かることさ。」


タツキの部下3人も武装を解いて、座っている。


「俺は嘘は言ってない。俺は名前を利用しただけだ。」


タツキのちゃらさが抜けている。本当なのだろう。


「俺がお前を信用する根拠がない。だかといってすぐには殺さないでおこう。その言葉に責任くらいは持ちそうだからな。」


ルカは、殺気を緩める。

モカはというとずっとさっきからプーという使い魔と遊んでいた。警戒するまでもないということか。


「ありがとう。裏切らないようにやるよ」


「裏切っても構わないさ。その時は始末するだけ。」


恐ろしい言葉を当たり前のように言う。ルカはルカで死線を潜り抜けた証拠でもあるのだろう。


タツキは、3人の部下と持ち場へと帰っていった。


「ツルギ。オーラ教団には気を付けろ。やつらは敵だ。もう時間だ。また会おう。」


ルカは、モカとプーと一緒に門から飛び降りた。が、直後強烈な咆哮が聞こえて、ルカとモカは虹色のドラゴンの背に乗って飛んでいった。

まるで嵐のようだった。







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