luke's story 9
まず目標はクリムゾンにしようということになった。
モカが飛行可能になったのも大きいし、練習次第では俺もできそうだったからだ。
それに、やっぱりお揃いの鎧なんかはいいと思う。
というのも、今朝すれ違った冒険者の数人のパーティーがみんな同じ鎧を着ていたからだ。大した理由じゃないかもしれないが、俺としては結構な理由になる。
俺達は昨日男が言っていた山へとプーに乗って向かい始めていた。
クレポス・クゥルマと同じ山ではないので、3匹同時になんて事はないはずだ。
さすがに3匹同時となると戦うこと事態が危うい。
どうやら、プーの身体が少し頑強になったように感じるのは俺だけだろうかと思っていたらモカも同じように感じていたようだ。
レックスは基本的に土属性を持つモンスターだ。しかし、それ以外の属性も最近感じるようになってきている。
成長したといえばそうかもしれないが、契約召喚のモンスターが成長したなんて信じられない。なにせ、契約したモンスターは一度死んでいるからだ。
モカや俺の魔法や魔力に当てられてなんて事もなくはないのだろうが、まだまだ成長した場合どうなるのか少し楽しみになってきたのは言うまでもない。
町から20キロ地点まで来ているが、確かにモンスターの出現は殆どない。
昨日のあのワラワラと出てきたのが嘘のようにだ。やはりボス級モンスターの異変のせいで異常発生していたのに間違いないようだ。後であのモンスターを調べてみたが、自分達から人や他のモンスターを積極的に襲うようなモンスターではなかったらしい。
図鑑でなので、本当の所は分からないが。
「ルカ………あれ」
モカが指差した先の山の頂上付近に紅い稲妻が走ったようだ。最初俺は確認出来なかったのだが、ジッと見ていると何度も何度も明滅しているようだった。
それは定期的に繰り返され、距離があるため小さな衝撃音が繰り返し響いてきていた。
直線距離にして恐らく山なので10キロ近くあるだろうか。
近くならもっと大きな音だろうと思う。
「行こう」
「うん」
俺とモカは、プーに乗ったままその山の方に頂を目指した。
山の裾に広がる森にも、モンスターが殆どいなかった、いや、いたにはいたのだが、何かに怯えたようなモンスターが数匹くらいしか姿を見せなかった。
森の中を順調すぎるほど順調に進む。何か嵐の前の静けさのような感じだ。
特別に嫌な予感がするとかはないのだが、どうもしっくりこない感じだ。
そして、森が開けて山の地肌が見えてきた。
人の手が入っていない獣道がそこにはあった。
森を出てすぐに、誰かに見られているような感覚に襲われる。
ねっとりとした視線でまるで値踏みするような感じだ。気持ちいいものではない。
「なんか…な」
「本当………なんか変な感じ………」
頂上まで続いて行きそうな獣道。少し歩くと目を疑うような光景が広がっていた。
道の両側に槍か木かなんかに串刺しにされたモンスター達。そのモンスター達の身体に刻まれていたのは忌まわしきあのアルバベルトが着ていた鎧に刻まれていた紋章だった。
「これは………」
まるで俺達が来ることを見越していたかの様な感じだ。
血が滴り落ちていることを考えるとまだそう時間はたっていないだろう。
もしかしたら、これをやった奴があの気持ち悪い視線の正体かもしれない。
「モカ警戒は怠らないで」
「分かった」
モカは防御結界を張る。
結界が張られた途端に視線から明らかな殺意が向けられる。
そして、……………白い杭が結界にぶち当たった。
「すごい結界の強度」
獣道の上から白い肘くらいまである長い髪を揺らし、アルバベルトが着ていたような白銀の鎧を身に纏った少女が現れた。
「アルバベルトが言った通り。」
少女はアルバベルトと同じ白目のない黒い瞳が殺気を込めて此方を見ている。
「あいつの仲間か!!」
モカを背後に回して前に出る。
「私はオーラ教第12使徒ロヴィーナ。あなたには用はないの。」
ロヴィーナの周りに複数の白い杭が現れる。
「あんただけ死んで」
その白い杭は俺めがけて一斉に降り注ぐ。ビキビキと軋む音がして、モカの防御結界が砕ける。
「ウソ………」
驚いていたのはモカだった。防御結界が砕けた事に驚いたわけじゃない。俺の目の前で白い杭が静止していたからだろう。
相手方はどうやらモカに用があるみたいだが、そう言われて易々と渡すほどアホじゃない。それに、そう言われた途端に急速に頭が新しい魔闇法を作り出してくれていた。
闇魔法『重力』
静止していた複数の杭は浮いた場所のまま落下した。驚いていたのはモカだけじゃなかった。
「それはなに」
俺はその問いに答えずに、ブラックホールに杭を吸い込ませる。
「お返しする。」
俺の右手掌にブラックホールが現れて、さっき吸い込んだ白い杭を同じように複数同時に発射した。それに、重力でロヴィーナを引き寄せながら。
その体感速度は倍になるだろう。引き寄せながらの状態で杭が迫ってくるのだから。
「くっ」
ロヴィーナは、また杭を出現させて杭を迎撃していくが、何本かは間に合わず太ももや腕に杭が突き刺さっていた。
「まだやる?」
俺はブラックホール目掛けて、左手から光線を放つ。当然吸い込まれていく。
これで、両手から光線を放てることになる。
俺は両手を翳して勧告する。
「ふん。」
少女は鼻で笑ってから苦々しい顔のまま、獣道の崖から飛び降りて森の中へと消えた。
まるで嵐のようであった。
「ルカ…」
モカは、俺の背中に抱きついてきていた。獣道に入った段階でプーは小さくなってモカの足元でじゃれていた。
「モカは誰にも渡さない。俺が守るから。」
決意を新たにして、頂上を目指す。
まだなにかがいそうな気配は消えてはいない。しかし、あの稲妻など振動も明滅もなくなっていた。
頂上では目を疑ってしまった。
恐らく、大岩に白い杭で磔になり息も絶え絶えになっているのが、クリムゾンだろう。
憎しみの目で、目の前の人間を見ていた。
「ロヴィーナはやはりダメでしたか。」
頭の髪の半分が白くその半分が黒い、ロヴィーナと同じくらい髪のの長い声からして男が白銀の鎧に身を包んで腕組みしながら立っていた。
「それはお前がしたのか?」
俺はクリムゾンを指差して言った。
「ええ。私はここにこのクリムゾンが守っていたものを取りに来ただけなのですが、かなり抵抗されてしまって。だから、磔になってもらいましたよ。」
腕組みしながら、さも当たり前のように言った。
「しかし、宝珠は手に入れたもののロヴィーナが失敗したというのなら、私の仕事が増えたと言うことですかね!!」
俺に向かって、ロヴィーナと同じように複数の白い杭が殺到する。しかし、杭は手のひらのブラックホールに吸い混んで、男の足元の影から槍を突き出す。
事も無げにジャンプしてそれを避けるが、それが狙いだ。手のひらから吸い込んだ白い杭を発射する。これも、手に持った細い杭で流れるように避けていく。
続けてさっき吸い込んだ光線も両手から放つ。これには、対応できなかったよう細い杭を盾にして受けた。
「強いな。」
俺は率直にそう思った。光線の直撃を受けたのにも関わらず、殺気が消えるどころか増しているのだ。
「モカ。手を出すな?大丈夫だから。」
俺は背中側から魔力を感じて制止する。
「なんでっ」
「モカを連れ去りたいなら、モカの魔法には対策してあるはずだ。もしもがある。だから、安心して見ていてくれ。」
光線を受けたことによる土埃が晴れてきて、白銀の小手が砕け散っていたが、ほぼ無傷で男はそこに立っていた。
「まったく。アルバベルトの報告にはなかったはずじゃないか。すぐに倒せて連れ帰れるって言ったのはどいつだよ。」
男は悪態をついていた。
「残念だったな。」
「敵にするのはおしいくらいだね。君はそこの女を連れて仲間にならないか?厚遇するよ。」
「断るしか選択肢はないが?」
俺は間髪入れずに言った。当たり前だ。考えるまでもない。
「そっ」
男は姿勢を低くして、細い杭を持って駆けてくる。
「もうお前達に勝ち目はないよ」
俺は目の前に敵が迫ってきているのにも関わらず冷静になっていた。
どんどん頭の中で新しい魔法のイメージが浮かんできていた。
とりあえず、ブラックホールを『闇渦』と改名することにしよう。なぜなら、もうこの闇渦は俺の魔法だからだ。
俺の周囲半径2メートル以内であればどこにでも出現させられるようだったので、全開で闇渦を出現させる。
「ぐっ!!」
男は、突きだした細い杭と腕が肘まで闇渦に飲まれる。こうなったら、切り落とすしか逃れる手段はない。
「勝ち目はないと言ったはずだが?」
苦々し気に俺を睨んで、躊躇なく手刀でその腕を切り落とす。懸命な判断だが、見ている此方は気持ちのいいものではない。
「宝珠と言ったか。それは置いていけ。」
男は、もう半径2メートル以内に入っている。男を包み込むように闇渦を展開させる。宝珠とやらを出すまでは逃がすつもりはない。
「ふん。」
男は、鎧の中から紅い宝珠を取りだし足元に置く。
宝珠近くに発生させた闇渦に吸い込まれて、俺の手のひらの闇渦から出てくる。男は、明らかな殺意を向けてきている。
しかし、状況の判断は出来ているようだ。
「もう二度と追いかけてくるな。」
そう言って俺は闇渦を解除する。解除したのを見計らって、男は、再び白い杭を視界を埋め尽くすほど大量に発生させて俺へと殺到させる。
しかし、全て闇渦に飲み込まれて俺にはもう届くことはなかった。
「俺の名前はダビデ!!覚えておけ!!」
白い杭が殺到した後、そこに、男の姿はなかった。声だけ聞こえて殺意共々消えてなくなった。
残されたのは磔にされたクリムゾンと俺達2人と1匹だった。
『殺してくれ………』
それは懇願するような声だった。声の主は、目の前のクリムゾンのようだ。
俺の手の中には宝珠がある。
『宝珠を………取り戻してくれて………感謝している………しかし………我は………最早守ることは敵わん………宝珠を………あやつらに渡して………はならん………あやつらは………呼び出してはいけないものを………呼び出そうとしている………』
ガバッとクリムゾンは口から血を吐き出した。
『殺してくれ………』
「ルカ………魔法効かない………」
もう回復魔法は効かないほど衰弱し、虫の息になっていた。
「分かった。だが、守りたいものは自分で守れ。」
『しかし………我はもう………』
俺はそれだけ言って、【光剣召喚】で光剣を握った。俺が一歩前に出る前に、プーがトコトコとクリムゾンの前に進み出た。近くまで歩いていくと何か話すかのようにゴニョゴニョと言っていた。クリムゾンは、プーの言葉が分かったようで顔を上げる。
『プー殿の言うことが本当なら、我も願ってもよいだろうか………いや………我も………まだ守れるだろうか。』
「そうしてくれ。」
俺はそう言って、クリムゾンの前まで行った。モカはその様子を安心するかのような優しい眼差しで見ていた。
これから俺がすることが分かっているのだろう。
俺は、クリムゾンの喉に光剣を突き刺して宣言する。
「クリムゾン、俺はお前と契約する。これからお前の名前はグリム。」
クリムゾンは一度光の粒となって緑水晶におさまるが再びクリムゾンがいた場所に光が集まってくる。プーと同じ現象だ。
その様子をプーを抱えたままモカは見ていた。
光が収まってくるとそこには、片膝をついた状態て燃えるような紅い短髪。濃い赤色の鎧に身を包んで、背中には無骨な分厚そうな大剣があった。
立ち上がると身長は2メートルはありそうな大男だったが、鼻筋が通り超絶イケメンがそこにいた。その姿に思わず「げっ…」と俺は洩らした。
「我が主{マイロード}。心命を賭してお仕えします。」
あまりにも、その姿が様になりすぎて言葉が次げない。
「おっ…おう…」
俺は持っていた宝珠をグリムに渡そうとしたが、頭を下げて拒否されてしまった。
「この宝珠は主がもっておいてくださらないだろうか。」
「それは構わないが?」
「そうして頂ければ、安心して存分に力を振るえます。」
宝珠についてはまだまだ聞きたいことはあったのだが、そこまではまだ追々聞いていくことにしようと思った。
こうして、クリムゾンを防具の素材にすることには成功したが、教会に邪魔されるという後味のよくないものとなった。
しかし、それで最高の仲間の一人を得ることが出来た。
「ルカ…プーちゃんがなんか変なの」
グリムが使い魔となってから震えていたプーが光に包まれていた。
「さすがは、第1の使い魔でございます。」
グリムがそう言うとすぐに光が収まり、なんとプーに羽が生えていた。
プーは、それを喜んでパタパタとモカの周りを飛び回っていた。
「我が主。なぜプー殿を我のような姿になさらないので?」
グリムは率直に疑問を問いてきた。今プーはモカの胸にダイブしたところだった。
「もしな。プーが人間の姿でモカにあんな風にダイブするところを見たら俺が闇渦に投下してしまいそうだからだよ。」
グリムは意味が分からないような表情になった。
「我には分からぬことでございますね。」
「まあ今はそれでいいさ。」
俺達はこうして、町へと戻って行った。
帰りはもちろん、グリムを【契約召喚】でもとに戻してその背中に乗ってだったが。




