luke's story 7
プーに乗って町から出て地図の通りに海へと向かっていた。
少しずつ、潮風の匂いがしてきていた。
「ルカ、見て!!海だよ!!」
無邪気なモカが俺の心を癒してくれる。俺はモカの手を握っていた。
モカの手に握っているのとは逆の手、あいつに斬られて負傷した左手に違和感というか、以前光剣で光線を放った時と似たような感覚だ。
「ルカ?」
モカが心配そうに俺の方を向いてくれていた。
「なんか魔力がザワザワしてるような!?感じがするんだ」
俺は左手を握ったり開いたりしてみる。そうすると、掌にチカチカと光が明滅している。その明滅には魔力を感じた。
「それ………魔法じゃない?」
モカがその光を見ながらそう言った。確かにそうも思えるのだが………
久しぶりにstatusのスキル欄を覗いてみると、新しい【特殊能力】が出現していた。その【特殊能力】は確かに魔法に関するものだった。
「特殊能力が増えてる」
「どんなの?」
「【特殊能力:光魔法】だって」
モカは少しびっくりした表情になっていた。
「私、光属性と闇属性使えないんだよぉ?凄いじゃん!!」
モカはかなり喜んでくれたのだが、まだ使い方が分からない。練習すれば、モカばかりに魔法を使わせる事もなくなる。
落ち込んでいた気分が上がってきたところでもう目の前に海が広がって見えていた。
「海〜」
モカは浜辺までプーを進ませるとポンポンと頭を撫でる。すると、身体を屈めて降りやすくしてくれた。
「海なんて久しぶりに来たな…というかこの世界じゃ初めての海か…」
海は育ったあの海と大して変わらなかった。近くにありすぎてその有り難さも美しさも考えることなくこちらへ来てしまった。
モカはというと、モカの育った場所には海がないため感動していた。
地図によれば、この海の向こう側にまだ大陸や島があるらしい。いつか行ってみたいものだ。
俺は再び左手を開いて魔力を注ぎ込んでみる。キラキラと明滅していた物がどんどん輝きを増していく。
おあつらえ向きにこちらへ走ってくる、グリーンウルフに向かってそれをモカを見習って放ってみる。
ジジっと音がして剣で放ったような光線が前方に真っ直ぐと放たれた。見事命中したまではよかったのだが、そのあとがいけなかった。着弾と同時光が爆発したのだ。
「しまった………」
「魔力の込めすぎだね」
どうやらモカが最初に魔法を使った時と同じような事態になったようだ。
魔力を込めすぎるとこんな事になるんだなと確認出来てよかったと思いつつ、使えるとわかった時点でプーの上から放たなくて良かったと思った。
プーはというと、モカが魔法を放った時と同様にビクビク此方を見ていた。
それから、浜辺で魔力の込める量の調節をモカと一緒にしてみた。結構な確率でモンスターが襲ってきてくれたために、練習台に困ることはなかった。
他の属性の魔法と同じように色々な形、色々な効果を付属することも可能らしいことも分かった。
まだまだモカほど上手くは使えないかもしれないが、範囲魔法も使えるようになった。
調節が下手なために、俺が使った光の範囲魔法の跡は見るも無惨にクレーター跡が複数出来ることになった。
二つとも太陽が真上に差し掛かった辺りでお腹がぐぅ〜となったのだがあの状況で昼食を作って貰うことは出来なかったのでお弁当はない。
「やっぱりパンや卵とか食材買ってきてて良かった〜」
とモカが魔法の袋からフライパンと食材を取り出していく。いつのまに買ったのかと思ったのだが、そこは内緒と言われた。
向こうでの仕事の関係だからだろうかかなりの手際で魔法の火を使いながら料理が出来ていく。
俺とプーはその様子をほ〜っと驚きながら見ていた。
俺は、取り敢えずモカが出してくれていた皿を並べて作ってくれた料理を分配していく。
あっという間に料理は完成した。
チンジャオロース、卵焼き、とパンである。こんな向こうの世界では当たり前の食材がこちらにもあったのかと疑問に思いはしたが美味しかったので聞かないことにした。
食べている間にもモンスターは、こちらが無警戒だと思って襲ってくるのだが、それは俺の魔法の練習台になってもらった。
おかげで、人差し指一本でも光線を放てるようになった。
モンスターにはそんなつもりもないし、アッサリ光の粒になるのだからご愁傷さまとしか言えないが。
「はぁあ!!旨かったぁ!!」
俺は食べ終わると、モカが水魔法で出した水で皿とフライパンを洗って魔法の袋にしまったのを確認してから横になった。横になった途端にプーがお腹の上に乗ったので「げぶっ!!」と言ってしまったのはしょうがない。モカはそれを見ていてクスクスと笑ってくれていた。
プーとジャレているうちにいつの間にか俺は眠ってしまってしたようだった。モカも、同じように俺の太ももの部分を枕にして眠っていた。しっかりと防御結界を張ってから眠っている辺りが流石だ。俺はというと、モカの寝顔を見ながら微笑んでいた。
地図に視線を落としながらこれからの目的地を決めねばならない。野営も出来なくはないが、出来ればベッドで眠りたい。ここから一番近いところは海沿いを更に30キロほど先にあるルドラムという村らしい。そこから南に50キロほどにベルドランという都市があることも分かった。
取り敢えずはそのルドラムという村へと向かうことにする。
「んぅ…ん…」
目を擦り、伸びをしながらモカが起きた。それに呼応するようにプーも目を覚ました。
「20キロくらい離れた場所にルドラムって村があるらしいからまずそこを目指そうと思うんだけど、いいかな」
「私はルカが行くところにどこでも着いていくよ〜、ね?プーちゃん。」
プーも小さいからだを目一杯使って自己表現してくれる。頼もしい二人だ。
これからも、ずっと支え合っていきたい。
【契約召喚】でプーを元に戻して、背中に乗る。プーも頼もしく思えてくる。この姿だと、他の冒険者は恐怖しか覚えないと思うが。プーの背中に揺られること1時間と少し。この姿のプーに襲いかかるモンスターはそう多くない。
町が見えてきたところでプーを止める。
ルドラムは海に面した漁村のような町なのだが、海の反対側は高い山々が連なっている。
その山からカラスや飛べるモンスターがバタバタと飛び回っていた。
この山の普段の姿を知らないためこれが普通なのかもしれないが、俺はどうもおかしいとしか思えなかった。
「モカ魔法のスタンバイお願い」
「うん」
モカも何かを感じ取っているようだ。真剣な横顔も素敵だ。
山裾の森からビリビリとした緊張感が伝わってくる。簡単に倒せるようなタイプのモンスターではないことは分かる。
プーも臨戦態勢だ。
来た。
森から一斉に鳥や飛べるモンスターが逃げるように飛び出してきた。カッ!!と音がして、反射的に俺は光属性でモカ全魔法属性の防御結界を張る。
前方にいた鳥やモンスターが灰すら残さずに消滅した。
「ありゃなんだ………」
そこにいたのは、ピンク色の羽を持つ鳥と、深紅の羽を持つ鳥がいた。
その嘴からブスブスと黒い煙が漏れだしていた。
2匹の鳥は攻撃対象を俺達に変えて羽ばたいて来ていた。
「モカ、俺の後ろに。」
「うん」
防御結界を解除して、左手に魔力を集める。
「食らえ!!」
左手から光線を放つ。しかし、軽々と避けて口から炎が漏れだす。
「ちっ!!」
俺が光属性の防御結界張ったと同時に炎が結界にぶち当たる。熱の圧力が結界を押してくる。
左手を右手で支えてなんとか持ちこたえる。
「はぁはぁ………はぁはぁ………」
なんとか耐えきってみせた。モカは、膝を着きそうになった俺を支えてくれた。
「ありがとな」
モカの反応は見ていない。それだけの余裕がないのだ。着実に距離は近付いてきている。
「ルカ伏せて」
咄嗟に姿勢を屈めると、頭の上を高圧水圧レーザーが放たれる。しかし、それもアッサリと避ける。
「まだ!!」
水圧レーザーが横に広がって2匹の鳥を包み込む。バランスを崩した鳥は一気に墜落していく。包み込んだ水は粘着性を持っており、羽に絡み付いている。
「食らえ!!」
左手に魔力を集めて光線を放った。見事に命中して、爆散する。
光となった所を見ると倒せたのは間違いない。しかし、完勝ということではない。
今回は敵が強かったのもあるが、もっと鍛練しなければならないだろう。
俺はモカの頭を撫でて感謝の言葉を紡ぐ。モカはニコっとして返してくれた。
この笑顔をもっとちゃんと守りたいと思った。
プーからその場で降りて、ルドラムには歩いて行くことにする。
しかし、明らかにモンスターが多かった。
前の町ではそうは感じなかったのだが、明らかに異様な数だ。
強さ事態は大したことはない、ザコとも言えるが何しろ数が多い。幸い町の近くはいなくなっていたのだか、門番の人数も多かった。
まだ日が傾き始めたばかりのこの時間なのにだ。
「人が多いですね。」
俺が門番の一人に声をかけると、驚いたように3人ほどがこちらへ集まってきた。
「あんたら歩いてここまで来たのか!?」
「ええ、一応は。」
一様に驚いていた。よっぽど今は危険なのだろう。
「そんなにモンスターが多いんですか?確かにここまでも多かったですけど。」
「ああ。陸上の物資の移動はまず不可能なほどにな。」
やはりこのモンスターの多さは異常発生なようだ。それはそうだろう、30分も歩かないうちに倒したモンスターの数は300近くにはなっていたのだから。
俺達は、町の中に入りまず向かったのはギルドだった。移動報告もかねて、冒険者が移動した場合は一応ギルドに報告するようになっている。しかし、それは義務ではないし罰則もないので報告するのは冒険者の中でも10分1ほどだ。
ギルドには、午前中にあったゴットルラムでの事はすでに報告がいっていたようだが、何一つ問題にはならなかった。というのも、この辺りのモンスター発声の原因たる狂ったクラーサとイフリスという2匹の鳥を倒したからでもあった。
なぜあの2匹が原因なのか分かっていたのかは、冒険者が必死で集めた情報だったからだそうだ。
これでこの町の危機は一段落したかのように思えた。
その後俺達は、ギルドで紹介された宿へと入った。お風呂場はあったのだが、モカに連れられてプーを部屋に残したまま町外れまで来ていた。
町の外れには浜辺があった。モカは、流木に座り隣をポンポンと叩いた。俺はモカの叩いたその場所に座る。
「ルカ…」
「ん?」
モカは俺の肩に頭を乗せ、腕を絡めてきてくれた。腕に当たる胸の感触は最高だが、それ以上にモカの顔が近い。
「私………不謹慎かもだけど、こっちに来てよかった。」
モカは上目使いで俺の方を向く。目が潤んで見える。
「俺はモカと一緒にいられるなら何処でもそこが居場所で、存在意義だよ。」
俺はモカの肩に手を回して、抱き寄せ自分の頭をモカの頭に接着させる。
「うん………私も………」
「今の今までちゃんと言えなくてごめん。大好きだよ」
俺はモカの唇に唇を重ねた。
情熱的でもなく、ただ抱き寄せて愛を確かめ合うためだけのキス。飾り気はないかもしれないが、俺とモカにとって最高の一日の一つになった。
そのあと、モカの魔法で土の簡易の部屋を作り出し中で、水と火の魔法で貯めたお風呂に二人で入った。
何度も何度もキスを繰返し、徐々に熱を帯びてきて俺とモカはこの日結ばれた。




