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ツルギと言う名前がしっくり来はじめた頃から少しずつだが確実にツルギとして記憶が甦ってきていた。
ルカの姿を思い出す。どれだけの死線を潜り抜けたらああなるのか、想像も出来ない。
機会があればまた会うこともあるだろう。
今は自分の能力を最大限生かして更に強くなることが重要だ。
昔のようにあいつと肩を並べて、背中を預け合うことが出来るように。
俺とセシリア、ハンブルは、首都周りを徹底的に討伐を繰り返していた。
モンスターが出てこなくなるほど狩り尽くしても、数日すると復活もしくは、発生してくる。
今日は、ようやくセシリア、ハンブルも鎧が出来上がる頃だ。
俺達は首都のいきつけの武器防具屋へと向かっていた。
「いらっしゃ…おおっ!!待ってたよ!!」
店主は、両手をあげて喜んでくれた。オーバーリアクションとも取れるが。
「出来ていますか?」
「勿論だ。技術の粋を集めた最高傑作に仕上がっているよ、待ってなすぐに持ってくる。」
店主は、カウンタの裏へ入っていきカチャカチャと音をさせながら、あの俺と同じ紅い鎧を持ってきてくれた。
セシリアは、お揃いだとはしゃぎ俺の腕に何度もしがみついていた。男としてはその胸が押し当てられるのは幸せ以外に言葉がないのだが、ハンブルは仲間をやられたドラゴンから作られた防具を感慨深そうに見ていた。
「ハンブル……」
俺が声を掛けると、一つ頷いて鎧を受け取り装備していく。
その姿は何かを噛み締めるかのような一つ一つの動きを確認するかのような感じだった。
セシリアは、俺が装備を手伝いこれで3人とも同じ装備にすることが出来たことになる。
俺は店主に深く頭を下げて敬意を表する。
自分のできないことをできる人間は、どんな人物であろうと敬意を表したいと思っている。俺達は、武器も受け取って店を出た。
そこへ、ギルドの職員が走ってきていた。
「はぁはぁ…つっツルギさん指名の緊急依頼です。」
緊急依頼の殆んどがモンスターによる町や村への襲撃を防ぎ撃退するのが主な任務になる。しかし、殆んどの場合住んでいる地域の冒険者に依頼することが殆どで指名でなど聞いたことがなかった。
「依頼人と、場所は?」
「だっダンケル男爵様で、しゅっシュバルツ村です!!」
俺はセシリアとハンブルに目で合図する。ギルド職員に、「その依頼受ける」と言って、3人で外へと走り出す。
すれ違う人々は何事かと振り返る。そんなことを気にしている暇はない。
しかし、その事態の前に鎧を調達していて良かったとも思った。
俺とセシリア、ハンブルが門の外に出たのを確認して【血盟召喚】をかける。
俺とセシリアはニーガドラゴン、ハンブルはヘイアンドラゴンに股がった。
「シュバルツ村か………」
正直あの村ではいい事は特別なかった。しかし、あの場所で救われたのは間違いないのだ。あの少女2人とおじいさんに。
2頭のドラゴンの疾駆速度は特別だ。血盟召喚は、俺の能力を小量だが上乗せされるからだ。首都からシュバルツ村までは今の速度で行けばおよそ4時間もあれば着くだろう。
ここ最近目立っているのは不自然なモンスターの異常発生だ。
村や小さな集落単位が襲われて壊滅した例は、ここ2ヶ月弱で2つ。
今まで3〜4年に1つだった事を考えれば異常さが目立つ。
原因は、その地域のボスたるモンスターが狂気にやられて狂ってしまったことが原因なのは突き止めたのだが、狂気がどこから来たのか、狂気はなぜボスモンスターを飲み込んだのか。
それは分からなかった。
襲撃を受けたと言っても、どの程度なのかは分からない。ギルドにはその報告が来ていたのかもしれないがそのまま走り出したために、詳しい状況は分からなかった。
「ツルギさん?」
セシリアが俺の後ろから声を掛けてきた。思考に一生懸命で、セシリアを気づかってやれていなかったことに今更ながら申し訳なく思った。
「ごめん、考え事していた。」
「それはいいの。でも、最近男爵とかあまりいい噂聞かないから。」
確かにそうなのだ。ギルドの中ではその手の話はあまり聞こえてこないが町中ではこそこそと噂が流れていた。
例えば、お国の乗っ取りだとか扇動だとか裏切りだとかだった。
それもこれも、シュバルツ村の東に面していた魔の森を開拓開墾し始めたのが主な原因だ。力を持とうとすればそれなりの噂がたつ。それも、男爵領は辺境。隣国ロブレイスとの接しているのもある。
男爵という貴族階級からすれば破格の領土なのだ。
しかし、今までは魔の森が領土の多くを占めていたためにまったくとは言わないが警戒はされずにいた。
最近になって急速に開拓が進んだために妬みやら嫉みやらが渦巻いているとも思える。
足の引っ張りあいを平気でするのが貴族とも言えるようだ。
「大丈夫だろ。俺達は依頼で行くんだ。それもシュバルツ村に。」
「それならいいけど………タツキさんもおかしい気がして」
セシリアの心配もそうだう。
タツキがArankに上がったのは聞いていたのだが、どうもそれ以降の行動がキナ臭い。
元々裏がありそうな奴だったし、信用出来ない部分も多かったためにいよいよ本性が現れたか?くらいにしか思っていなかった。それはまだいいのだが、タツキが異常に強くなっている感は否めない。
「今は何を憶測しても仕方ないな。」
「うん………」
俺は心配そうなセシリアの手を握って安心させようとする。セシリアは、身体を更に密着させて俺の背中はホクホクになっていた。
そういえば、俺の能力値はもう上がらなくなっていた。セシリアによれば能力は一人一人限界値が存在するらしい。俺の場合はかなり限界値が高かったが、普通は限界値に達する人は少ないそうだ。
それでも、十分すぎるほどの能力なのだが。
ハンブルはと言うと、乗り馴れたはずのヘイアンドラゴンの上で複雑な顔をしながら、剣や防具をチェックし直していた。
毎回そうなのであまり気にはしていないが、仲間を殺したそのドラゴンに乗るのはいい気分ではないだろう。
しかし、ニーガドラゴンには2人乗れるがヘイアンドラゴンは1人分くらいしか乗れなかったのだ。
こればかりはしかたない。
大分時間がたったなと思った頃、森の奥街道沿いから黒煙がもくもくと立ち上っている箇所がある。おそらくそこは、シュバルツ村だろう。
「黒煙か………」
黒煙が立ち上っている時点であまりいい状況出はないことを想像する。見えてきたのは、俺が最初に訪れた頃と比べると見違えるほどに発展したシュバルツ村だったが、築かれた囲いの壁が何ヵ所か崩れているのが分かる。
モンスターは今は襲って来てはいないようだが俺達の前少しのところに旋回する3頭のワイバーンがいた。
「セシリア」
「うん」
セシリアは座ったまま弓を構えると、弓に3本の矢をつがえた。
今までの経験から、3本までの同時射撃なら100%近い命中率を誇る。信頼できる援護射撃だ。
「はっ!!」
矢は、旋回するワイバーンを追尾するように追いすがり命中した。
矢にはセシリアが、魔力を注いで追尾するように設定してある。
俺には出来ない繊細に設定だ。他の冒険者にも聞いてみたが、なかなかセシリアほどの追尾はいないそうだ。
セシリアも、俺やハンブルに置いていかれないように必死で付いてきてくれていた。
その姿だけでも十分すぎるのだが、実力も伴っているから凄い。
ワイバーンが光となって消えたのを確認してからシュバルツ村へ降下していく。
ニーガドラゴンやヘイアンドラゴンは上級のモンスターに位置付けられる。そのため、降下した際には絶望のなまざしで見られたのは言うまでもない。
俺たちが降りてきたのを見て、やっと安堵したようだった。
「冒険者のツルギです。依頼により防衛に加勢します。」
村人が集まってきたためそう宣言する。その輪の外側に、悲しそうな目をしたマルガがいた。マルガに近くにはいつもくっついていた少女もおじいさんもいなかった。
家の中にいるのかと思ったが、よく見ると俺たちが降り立った場所のすぐ側に崩れ去ったマルガの家があった。
「ツルギとセシリア、ハンブルじゃないか。」
目の下に隈の出来たタツキが人だかりを掻き分けて現れた。やはり。纏う空気感が変わっている。気持ちいい空気感ではない。まとわりつくような粘着性の高い嫌な感覚だ。
「依頼で来た。状況はあまり良くないみたいだな。」
「まあね…いきなりだったみたいでね。俺もさっき来たところなんだ。」
タツキの後ろには、タツキとよく似た雰囲気と女性が3人いた。
一人は背が低く、後の二人は同じくらいの身長だった。顔は姉妹なのか似たり寄ったりだ。
「俺の部下さ。俺ともどもよろしくねぇ〜」
タツキはそれだけ挨拶がわりにすると、ギルドへと向かった。どうやら、ギルドが対策本部らしい。
俺達も、習ってギルドへと向かったが、マルガが気になってしまっていた。




