2
俺は冒険者ギルドに入ると、まず加入手続きのために、促されるまま右手を砲丸投げの玉くらいの大きさの水晶に乗せていた。
「犯罪行為オールフリーですね。名前、種族、確認出来ました。カードを作りますので、少々お待ちください。」
受付係の人間族の女性が、受付の裏暖簾を潜って入っていく。
どうも文化がめちゃくちゃな様に感じるのは俺の知識のせいだろうか。
「はい、お待たせしました。これがギルドカードになります。身分証明の変わりにもなりますし、このカードを見せればお金のお預かり引き出しは行えるようになっています。ただし、他人のカードを使ってお金を引き出した場合は窃盗として、犯罪になりますのでご注意ください。さっそく依頼をお受けになりますか?」
捲し立てて話す受付嬢。
確かにここのギルドハウスには人がいないが、依頼が捌けないほどなのか?
「討伐系あれば。」
自分の能力ならば討伐系が一番お金を稼ぎやすいと判断した。
そういえば、目が覚めてから自分のstatusを見ていない。
しかも、今手渡されたギルドカードには種族が人間となっていたのも一つ疑問だった。
【status展開】
【名前:ルカ・F・バイルシュタイン】
【種族:人間】
【レベル:1】
【HP:10000/10000】【MP:9000/90000】
【筋力:3000】
【体力:1600】
【機敏:2800】
【器用:1900】
【初級水魔法:level1】
【初級火魔法:level1】
【中級火魔法:level1】
【初級土魔法:level1】
【初級風魔法:level1】
【初級光魔法:level1】
【初級闇魔法:level1】
予想通りというか、呆れるような数字が出ているようなのは気のせいではないだろう。
ヘルプ機能で参照したところによると、HPの平均値は3000ほどMPの平均値は1500。筋力など他の数値は500を超えたら騎士団長クラスだとか書いてあった。
なのに、俺の数値はそれどころじゃない………それよりも、種族が人間になっていたのにも、驚いた。
この数値で人間ってのが無理がありそうなものだが。
あのときには確かに吸血鬼と書いてあったのに………まあ悩んでもしょうがないので忘れることにする。
ポジティブに考えられるのは、転生者の才能だろう。
まあ俺は、知識だけ奪っただけなのだが。
受付嬢がいくつかの討伐依頼の中に、めぼしいものがないか探すのだが、モンスターその物がどんなものなのか検討がつかない。
というのも、そこは万能親切丁寧なヘルプ君が働いてくれないからだ。
それはいいとして、手頃なモンスターを受付嬢に選んでもらい、受付の近くの本棚からモンスターの本を取ってもらう。
依頼内容は次の通りだ。
山の中に山菜取りに行った子供が、大発生したグリーンウルフを見たとのこと。
何匹狩ってもいいので、1頭辺り3大鉄貨。
【通貨について】
基本的に全世界の通貨を発行しているのは冒険者ギルド。
偽造など出来ないように何重にも魔法と錬成を繰り返している。
通貨単位は、石貨10枚で、大石貨。大石貨10枚で鉄貨、鉄貨10枚で大鉄貨、大鉄貨10枚で銅貨、銅貨10枚で大銅貨、大銅貨10枚で銀貨、銀貨10枚で大銀貨、大銀貨10枚で金貨、金貨10枚で大金貨、大金貨10枚で白金貨。などとなっている。
貨幣についてはその上も存在するにはするが、一般的ではない。
物価平均としてリンゴ一個が石貨5枚である。
ちゃんと働いたヘルプにお礼を思い浮かべながら、依頼書を服にしまいこむ。
「討伐ならこれを持っていくと便利ですよ。これは、無償貸し出し可能です。」
手渡されたのは、緑色の水晶。
【緑水晶】
倒したモンスターを吸い込み保管する事が可能な便利アイテム。
冒険者の殆どが持っている。
おぉ…いいものがあるのだなと思う。
まあ、イチイチ採集、剥ぎ取りするのも醍醐味かもしれないが………
まあそれはいいとして、何匹狩ってもいいって自然発生でもするのだろうか。
これは、ヘルプ君が働いてくれなかった。
気分屋なんだろうか。
取り敢えず、受付嬢に「ありがとう」と頭を下げて、出口へと向かう途中黒髪、黒目、日本人顔の男とすれ違う。「また珍しいのに出会ったな」小声で呟いたのが聞こえた。
振り替えると、受付嬢に緑水晶を渡していた。
疑問には思ったが、そのままギルドを出た。出た所で中から歓喜の声が聞こえた。
俺は、構わずに歩く。
目的地は、ギルドを出て右、村から出て少し歩いた所にある森の中。
村を出ると、すぐに森に囲まれていく。道は其なりに広いためそう問題でもないのだが、初めて歩く道はどうしても、おっかなびっくりになってしまう。
人の通りはチラホラ。
グリーンウルフはもういつでも出てきそうな気もしないではない。被害妄想か。
暫く歩くと一度森が切れる。
切れた道沿いの向こう側に平野が見える。
眼下に見えるため、ここはそうとう高い場所なのだろう。
そして、また再び森に包まれる。
街道沿いにグリーンウルフが出てきたら楽なんだけどなと楽観視してみたりする。
実際特に心配もしていない。いや心配出来るような要素もないのが現実か。
あのstatusの数値を見て、戦闘とかこわ〜いって言ったら呆れられそうだ。
戦うことに奇異感はまったくない。欠如しているのではないかと思えるほど。
確かに血を喜んで飲めるか?と聞かれれば、お願いだから無理と言うだろうが。
不思議ではあったが、そう疑問にも思わなかった。
木の葉が揺れるような擦れるような音がして、目の前に現れたのは、首回りが緑色ので他の体全体は白い毛で覆われた狼。
本で見た通りの姿。
それが、合計で5匹。
唸り声を上げて俺を睨む。
街道に出てきてくれた事に喜びを覚えているのは俺だけだろうか。
いや、俺しかいないから、俺だけだ。
他所から見たら素手、防具も着けていない俺がグリーンウルフに囲まれる様はただ単純に襲われているようにしか見えないだろう。
まあ実際どう攻めようか考えているうちに、飛びかかってきていたし、難なく避けられる速さだったし、危険も感じていなかった。
試しに、飛びかかってきたグリーンウルフを正面から頭を狙って拳を合わせる。
パァンと言う音が響き渡って、グリーンウルフの頭が破裂した。
ボトリと頭の無い身体が地面に落ち、光の粒となってポケットの中に吸い込まれてきた。
どうやら、殺した所有者に得られる仕組みになっているようだ。
残り4匹のグリーンウルフはまだも、威嚇体勢だ。
逃げられても勿体無いと思ってしまうのは異常な事だろうか。
脚に力を込め、右手を手刀の形にして前にステップする。
そこ3メートルほどあった距離はないものと一緒だった、もう目の前にグリーンウルフの顔がある。
手刀をそっと右側のグリーンウルフの首に当てる。抵抗もなく、スルリと切れて頭が飛ぶ、すかさず左側のグリーンウルフの胴体に蹴りを入れる。胴体が破裂した。
左側の後ろにいたグリーンウルフは、逃げ出そうと踵を返す。
足下に転がっていた小さな石ころを投げると、銃弾のように胴体を貫通、衝撃で横倒しになったそのグリーンウルフの頭を踏みつけて潰す。
それぞれが光の粒となってポケットに収納されていく。
戦闘が始まってものの5分もかからなかったかのように感じる。
実際時計もないからハッキリとは言えないが。
その場には血の跡だけが残っていた。
どうやら、血はこういった血溜まりから回収するのか………いや、早く殺しすぎなのかもしれない。オーバーキルだからか。
疑問は残るが、別に血を飲みたいとも思わないから構わないのだが。
ポケットから緑水晶を取り出してみると、中にグリーンウルフという項目に5と数字が打たれていた。
分かりやすくていいのだが、首をなぜか傾げてしまうのは仕様ということにしておこう。
血の匂いに、惹かれたのかもぞもぞとモンスターが現れてくる。
グリーンウルフはもちろん、猪のような外見で口は虎のように裂けて牙がはみ出した奴が2匹、グリーンウルフと似た首回りが赤く、身体が白い狼が5匹、グリーンウルフの5匹と合わせると結構な集団だった。
俺の方を向いて各々が威嚇する。
内心、大漁!!と思ったのは内緒である。
合計12匹は少し時間がかかったが、特別危険なこともなく、怪我もなく、さっきよりも強めに瞬発力を出したら、翻弄出来た。
全力はさすがに怖いので出せないと思うが。それだけでも、十分だった。
緑水晶には、それぞれの名前も出るのでさっきの猪モドキがガウブル、赤い首もとの狼がレッドウルフということが分かる。
グリーンウルフは、10になっていた。
身体的な疲労は感じない。
そういえば、ギルドカードには種族人間になっていたのを思い出して、吸血鬼ならすぐに回復するだろうと、近くの木の枝を折り指を擦り、擦り傷を作ってみた。
ザリッという感覚。
傷は回復しなかった。
う〜んと唸る。
擦り傷だから、大して痛くもないのだがどうも、あの時見た吸血鬼という項目は気のせいのような気がしてきていた。
まあ今のままでも、異常にstatusは高いため特に考える必要も無いのかもしれないが。
改めて森に入ろうと思ったが、ふと依頼の何匹でもというのを思い出して、一度戻って換金しようかなと思い始める。
服のお金はいらないとは言われたが、気になるので払いたいというのもある。
それに、あまり手刀ばかり使っていると服がまた汚れるかもしれないため、武器でも勝っておこうかというのもある。
どうするべきか、うんうん悩んでいると、またグリーンウルフの今度はかなり数の多い集団に囲まれる。
街道にこんなにモンスター出てきたら、流通とかかなり大変なんだろうなと思いつつ、数を数える。
1、2、…………13。
グリーンウルフも、狼と一緒で集団で行動するのだろうか。
思考の海に入りたくなった所で、耳をつんざくような、遠吠えが聞こえる。
目の前の森の方からだ。
地面に振動はない、しかし、強い敵意を持って俺の方を見ているのは分かる。
木がバキバキ折れる音がしてその主は現れた。




