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異世界浪漫飛行  作者: 音無音次郎
光ある旅立ち
28/53

Another story 4

「おはようございます。タツキ様。」


俺を起こしに来たのは昨日眷族にしたうちの長女マルカだった。昨夜はあの3人のうちの一人ミルカに夜伽をさせた。それこそ【夜伽】なんて古くさい言葉かもしれないが、俺としては面白いから使うことにしている。

どのようにして、いたしたかなんて事は想像すれば分かる事だ。


眷族にしたはいいが、どうやって使ったらいいのか分からないなんて事はない。

俺の能力の100分1とそれぞれの能力にプラスするらしい。

それと、俺に3人の能力の合計値の100分1が上乗せされる。悪いことなど一つもない。眷族は増やせば増やしただけ強くなれそうだ。

だが、身体には限界値が存在する。まあその限界値まで能力を上げるのが当面の俺の仕事とも言える。


エルド村は相変わらず宿屋ばかりで、かの英雄を観光に用いただけの大したこともない村だ。しかし、それでも客が落とすお金はそれなりのものになる。

これも、ダビドスに使えないか応用出来ないかと考えては見るがただの村町にはこれだけの観光客を集めるのは無理だろう。

迷宮がある分、十分な収益は税金として上がってきてはいるようだがそれだけではまだまだ心もとない。

これからなす事を考えればお金はいくらあってもありすぎることはないのだから。


「そろそろ行くか。」


目的地は、首都だ。

なぜ首都かというと俺宛にある団体から手紙が来たからだ。

俺だけにというわけではないが、ギルバートから先見隊として派遣されたというのもある。

まあそれに関しては俺が出発する直前に決まったことだったのだが。俺にとっては今はどうてもいい。今の俺の目的地と同じだったからついでというわけだ。


首都へ向かう本当の理由はギルド本部でArankに上がること、そして、新しい防具を手に入れることが上げられる。

防具に関しては、ダビドスに作られつつある騎士団の鎧を統一するための防具屋を見つけること。目処はついているが、あとは交渉も必要だ。

面倒な事だとは思うが目処の相手は大分前から知っているので問題はないだろう。


討伐してきたモンスターを依頼に当てはめて納入し、残りを換金して金に変える。

首都で俺の持っている素材で防具が作れる人物がいればいいのだが。

交渉をする人物はそんな腕はないと豪語していたから他の人間を探さなければいけない。

闇の方を探すしかないだろうか。


俺は、3人を従えて物思いに耽りながら歩いていた。

3人の連携はすばらしい。マルカが剣で牽制し、ミルカが魔法で攻撃し、ムルカが弓で足留めする。眷族になって能力が上がったから尚更だろう。

たまに出てくるワイバーン、ワイバーン亜種なども苦にすることもない討伐していく。

当然俺のところに攻撃または血が飛んでくることはない。その代わりに戦闘の度に血を皿についで持ってきてくれる。

いい眷族を持ったとも思う。


俺は自分の指に嵌められている指輪を見る。この指輪を得るために多くの仲間を失った。それ以降俺はずっと一人で闘ってきた。

女など必要ないとも思っていた。

しかし、昨夜はやはり俺も男なのだと実感してしまった。

眷族との間に子供を為すことはないらしいので楽しめるわけだが。


首都へ入ってまずギルドで換金するために一人向かっていた。そんな時に、ルカ…いやツルギに出会った。

ギルド本部に行って帰ってきたら突然ツルギと名乗り出した。

あきらかにその強さが分かるほど能力が上がっていた。


ギルドの中に入ると、また俺を驚かせる情報を得ることが出来た。

あの急速な早さでrankアップしていた2人組が名前を名乗ったそうだ。

それも、ルカとモカだそうだ。

あの二人の強さは俺も見たことがある。

今防具にしようと持ってきた素材もあの二人から貰ったものだったからだ。


今でもあの様子ははっきりと覚えている。

当時の仲間と違う大陸にも行ってみようということになり、セントエレーナ大陸を訪れた時の事だ。

大陸の北にある国の首都ギルドから、緊急の村防衛の依頼で訪れた街での事だった。

その街は、俺達が訪れる前に2回のモンスターの大群の襲撃を受けていたのにも関わらず、あの二人が守っていた所はまったくの無傷だった。


他を守っていた冒険者は疲弊していたのにも関わらず、笑いながら談笑し更にはイチャイチャしてもいやがった。

驚いたのはそれだけではない。

使い魔が3匹もいたのだが、そのうちの一匹はセントエレーナ大陸、陸上の王者とも言われるレックスが二人の近くでまるで、飼い犬か何かのようにゴロゴロしていた。


俺達は、違う門を守備することになったのだがあの二人は明らかに異質だった。

門の上に陣取ったまま殆ど動かなかったのだ。何発も大規模魔法を放っているのにも関わらず敵がいなくなるまで続いていた。

それだけならまだしも、ルカは他の門の所まで行って援護したりもしていたのだ。

有り得なかった。

それだけしても全く疲れた様子がなかったのも俺からすれば化け物にしか見えなかった。


数日後にモンスターの大群が終わりを迎えようとしていた所でそれらは現れた。


ヘイアンドラゴン、ニーガドラゴン、クレポスクゥルマ、など有り得ないほどのドラゴンや巨大凶悪モンスターがその町に押し寄せた。

疲弊仕切っていた冒険者達は、絶望し自分達の【死】を覚悟した。それは俺達もそうだった。

勝てるわけがない。生き残れるわけがない。

それだけの恐怖をそれらは放っていた。

しかし、俺はどこか彼ら二人ならなんとかなるのではないかという淡い期待もしていた。


それは現実となった。


てっきりモカの大規模魔法で一気にと思っていたのだが、それを行うよりも先に町全体に強固な防御結界を張ったのだ。そのため、動けなくなってしまったのだ。

最初から防御結界を張ればなんて誰かが言ったが、じゃあ一人にそれを強いるのかという議論にもなった。

だが、今はそれどころではなかった。防御結界を破ろうとモンスターが何度も何度も攻撃してきていたのだ。そんな中で一人。ルカだけが、防御結界から出ていった。

バカなと何人も止めたが、笑いながら大丈夫と言って、モカの所まで行ってキスをしてから外に出ていった。


防御結界の外が何度も何度も明滅しながら時間だけが無情に過ぎていくが、いっこうに光の明滅は止まらなかった。

それどころか、防御結界に対する攻撃の震動が収まり始めていたのだ。

ルカが出ていってから1時間だろうか、2時間だろうかが過ぎた辺りで完全に震動が無くなった。


モカが「タツキお疲れ様」と言った途端に、空からルカがモカのすぐ近くに降ってきたのだ。

それもまたまったくの無傷でた。

凄いというよりは、呆れるしかなかったのを覚えている。


あの二人だけは敵にしちゃいけないと当時は思ったのだが、今ならどうだろうとも思う。

一度闘ってみたいとも思うが勝算があるのかと言われれば全くない。それほどの力の差を感じたのだから。

確かに俺も強くはなかったがだ。





俺は3人を引き連れたまま、会談の予定されている宿屋の会議室へと通されていた。

数分待っただろうか。そこへ現れたのは、見ただけでこちらが脂ぎってしまいそうな太った男だった。その後ろには、白銀の鎧を着込んだイケメンだった。


「お初にお目にかかります。私は、オーラ教でネイル枢機卿と呼ばれているしがない領主

です。こちらはアルバベルト。オーラ教聖堂騎士団の団長をしているものです。」


ネイル枢機卿という男がそういって頭を下げて椅子に座った。椅子はギシッと悲鳴を上げている。


「私はダンケル男爵の名代のタツキと申します。この者達は私の配下で信用出来るもの達です。」


「ほぅ、あなたがタツキ殿ですか。」


ネイル枢機卿はどうも俺の事を知っている風だった。警戒はした方がいいようだ。


「それで、今日は。「まあまあそう急がすともよいでしょう。これ」


ネイル枢機卿がそう言って手を叩くと部屋に会議室を埋め尽くすような人数の女達が入ってきた。


「これは何の真似ですか?」


「手土産というやつですよ」


ガハハハと笑う度に顎の肉が揺れる。見ていて気持ちのいいものではない。

それに、女はもう充分だ。


「単刀直入に願いますよ」


俺は声色を低いものに変えて言った。後ろに控えているアルバベルトという男が、一歩前に出ようとして、異変に気付いたようだ。


「これは…」


アルバベルトの目はよく見ると真っ黒だ。恐怖感を煽るような色。

たが、今の俺なら気にする程でもない。


「単刀直入………が良いのでしたな。………この国での布教活動をお許し頂きたいのですよ」


俺は目を細める。


「それをなぜ男爵に言うのです?」


「この国で力を持っている貴族、それに従う人間に許可を取るのは当たり前でしょう?」


このネイル枢機卿という男相当に食えない男のようだ。


「我々にそのようや事に関与する事はありません。」


「では、布教は構わないと?」


「男爵としては関わらないとだけ言いましたが?」


「と言うと?」


ネイル枢機卿は、分かっている癖に分からない振りをしていた。


「知らない振りをする代わりに…」


「勿論、あなたの後ろ楯としてお手伝い出来ることはさせて頂きます。その代わりとと言ってはなんですが、暗にでも構わないのですがオーラ教の使徒を名乗って頂けると、私達も後ろ楯として活動しやすいのですが。」


「それは構わない。ただ、俺からそれを名乗ることはないがいいのだな?」


「構いません。」


「じゃあ今日から俺はオーラ教となるとしよう」


「ありがとうございます」


「特別にすることはない?」


「はい、ございません。あなた様は使徒なのですから」


俺は宿屋の会議室を出た。

不愉快だが、身になる話が出来たとも思える。

この選択が事態を徐々に加速させていくのだった。



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