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俺の名前は三木架流愛{みきかるあ}。
普通の高校生にして、厨二病。
表には出さないが、自作している小説には出まくっている。
それを知っている友人は残念なやつ扱いする。身長はまたそこそこ170センチ。
顔は平均的、頭も平均的、体型も平均的。
特筆するところはない。
特技を一つ上げろと言われれば妄想だろうか。小学生から読み続けてきたライトノベルのお陰さま様なわけだが、それくらいしかない。
運動も剣道はしていたが、得意という程でもない。してい言えば出来るというだけだろうか。
世界各地で起こった謎の爆発事件でそんな俺の短い人生は幕を閉じた。
次に目が覚めたときには、生前の制服のまま浜辺に横たわっていた。
波がざぁざぁと寄せては返している。
磯の匂いもする。
こういった場合、小説ならば異世界に転移したとでもいうのだろう。
だったらと自分のstatusはどんなものか呼び出してみる。
案の定出てきた。
三木架流愛{みきかるあ}
【種族:人間】
【level1】
【HP500/500、MP600/600】
【筋力:30】
【体力:200】
【機敏:5】
【器用:600】
【特殊能力:武器作成】
【特殊能力:防具作成】
【特殊能力:装備品能力抽出】
装備品から、能力を抽出し、自分に上乗せ出来る能力。
こりゃまた、偏った能力。
神様がこんなもんでいいんじゃね?みたいなノリで数字を入れたかのような感じだ。
幸い体力はあるようで疲労感は殆どないのだが、どうも動きが鈍い。
自分でも分かるくらいだからよっぽどなんだろう。
俺は立ち上がり、辺りを見渡す。
どうやら海でその向こう側は見えない。
真後ろには森があるが、原生林といった言葉が似合いそうだ。
小説ならば、こんなときに可愛い女の子の助けが現れて恋に落ちて…みたいなストーリーもいい。
じゃなくて、今はそんな淡い期待はしないほうがいいようだ。
よく図鑑で見る、まあ偏った図鑑だったのだが、ゴブリン子供と同じような体格にも関わらず口が裂けて頭には毛も生えていない。
言葉は通じそうにない。
1匹ならどうにかなりそうだったので、おそるおそる近付くと、こちらに気付いてギャアギャアと叫んだ。
仲間を呼ばれたかもという焦りかま産まれて近くに流れ着いていた流木を手に滅多うちにした。
ピロンという軽い音と共に体が少し軽くなる。これがlevelアップなのだろう。
罪悪感はない。ゴブリンだ。
人間なら流石に抵抗もあるだろうが、モンスターだ。
ここは異世界に違いない。
だからこそぐちゃぐちゃになるまで殴れたやけだが。
どうやらそのゴブリンの後ろには血だらけでピクリとも動かない人間が十数人いた。
それを見ただけでさっきまでの威勢はどうしたよと思うような吐き気がした。
その吐き気が収まるまではその場を動けなかったのは言うまでもない。
ようやくどうにか我慢出来るようになったが、直視するのは、まだきつい。
なぜここに来たのか。
それは、あの特殊能力を使いたかったからだ。
そうすれば、能力があがる。上がれば原生林に入るか海沿いに歩くか。モンスターに襲われても心配ないくらいにはなりたい。
遺体が来ていたり持っていたりする武器はそれなりに、高価に見える。
これも特殊能力のおかげだろうか?まあそれはいいのだが。
特殊能力の使い方をヘルプで助けてくれることがありがたい。
まず転がっている剣を手に取る。
「『能力抽出』」
そう唱えると、持っていた剣が光に包まれる。その光が収まると、柄の部分の灰を握っておりそれ以外は落下した。
剣一本でどうやら能力全体が大体5位ずつ増えた。
このすべての装備品をするのかと思うとまた更に吐き気を催したがなんとかそれを飲み込み、一人一人に手を会わせながら剣を一本残して後の十数人すべての装備品を灰に変えた。
努力は実るもので、能力値は全体的に50近く上がった。
HPとMPに関してだけ言えば、千を越えて、HPは1,100、MPは1,500まで上がった。
これなら、剣を持って人がいる集落まで行けそうな気がしてくる。
海沿いに歩いていると、まだまだ複数の遺体がうち上がっていた。
申し訳ないとは思いつつ灰に変えながら進む。
どれくらい歩いただろうか。
太陽が沈みそう担ってきた頃にやっと村を見つけた。
「あの、すいません」
すぐ近くにいた、洗濯物を取り込んでいるおばちゃんに声をかける。
どうやら言葉は通じるようだ。
「なんだい?」
「ここはなんて言うところなんですか?」
「ここかい?ここはね、ロブレイス王国の東側にある小さな村。アントワだよ。もういいかい?あたしゃ忙しいんだ。」
それだけ言っておばちゃんは、そそくさと家の中へ入って行った。
忙しい時間帯なのだろう。
村の中も家路を急いでいる感じだ。
お金もない、今の状況で考えられる手段は限られている。
窃盗はもってのほかなので何かないか歩いていると所謂革の胸当てをした人物がある建物から出てきた。
恐らく冒険者だろう。
厨二でよかったと胸を張って思えた瞬間だ。
じゃなければ気付かないだろう。たぶん。
俺は、まっすぐその建物に入った。
カウンタに男の人が受け付けでいる。
テーブルが二つ。
椅子は…まあそれなりにある。
冒険者はいない。さっき外に出た人がそうだったのだろう。
「ここは冒険者ギルド?」
カウンタの男の人に聞いた。
「そうですよ。依頼を受けますか?それとも新規で登録しますか?」
二つ返事で新規登録だ。
ギルド登録後ここなら、朝まで宿無しでも滞在は可能らしい。
毛布も何も出ないし脚も伸ばしていいような感じもしなかったから縮こまって寝ることにする。
朝は早かった。昨日一日で大分消耗していたのもあるし、早起きなのは身体が痛かったからだ。
起き上がり延びをする。
受け付けはもう開いていて、手頃なゴブリン討伐という依頼を受けた。
ギルドの本によればゴブリンは単独なら簡単に討伐可能だが、集団になると厄介なのだそうだ。
まあ普通に考えればそうなのだろうが。
俺は、そのまま、現場へと向かう。
丁寧に地図でその場所を教えてくれたギルドの職員さんには感謝だ。
到着すると早速、2匹のごぶさたに遭遇する。
今の能力値、筋力ならもう250を越えて体力は400を超えていたので、2匹とも真っ二つにすることが出来た。
ギルドで借りた緑水晶に死んだゴブリンが光の粒になって吸い込まれた時は驚きと感動を同時に受けた。
その後もゴブリンは最高でも5匹で、夕方までに30匹も討伐することが出来た。
ゴブリンの持っていた武器は討伐対象にならないということで、チクチクと灰にしたりもした。大したアップにもならなかったが、やらないよりはいいはずだ。
報酬は銅貨3枚だった。宿は大鉄貨2枚だったので、あまり儲けが出たとは言えないがコツコツとやればお金は貯まる筈だ。
慌ててやっても命の危険があるのなら、無理をせずに強くなっていけばいいと思う。
昼間は討伐、夜はこの世界の基礎知識を得るために本を読んだりしたが、魔法を使えないとなかなか夜に読書は難しいし燃費も悪いし財布にも優しくない。
次は魔法を覚えたいと思うのだが、この村に魔法を教えられる人がいなかったので今のところ保留だ。
1ヶ月。
この1ヶ月でstatusは大分上がった。
【筋力:520】
【体力:800】
【機敏:200】
【器用:600】
そろそろ次のステップに進んでいい頃だろう。
折角仲良くなったこの村から出ていくのは名残惜しい物だが。
ここにはもう得るものがないだろう。
次の目的地はどこがいいのかギルド職員に聞いてアドバイスを貰う。
次の目的地はロブレイス王国ローレン辺境伯の領都のレイトリスに決まった。
俺はお世話になった宿のおばちゃんや、よろず屋のいぬ耳さんにお礼を言って荷物を抱えて村を出る。
街道を歩いて10日の行程だ。
途中には5つほど村や町もあるそうなので?ゆっくりと進もうと思う。
一歩一歩確実にだ。
狂戦士、バーサーカーの俺にとって冒険者とは本当に都合がいい。
日本ではこうやって誰にも咎められることもなく、喧嘩など出来やしなかった。
しかし、この世界ではモンスターという都合のいい発散場所がある。
絶命させなければいくら殴っても切ってもいい。ただ絶命すると光の粒になった緑水晶に入ってしまう。
まあそれで金儲けが出来る分良しとしている。
転生者には、特殊能力があるらしく、俺には自己治癒者と、能力値×2(現在の能力値に×2した状態)がある。
そう簡単に死ぬこともないし、怪我してもすぐに治癒してしまう。
命のやり取りも嫌いではないが、一方的な虐殺はもっとも好きだ。
ただ、完全に理性がないわけではない。
無差別に殺しを楽しむ快楽主義者でもない。
まあ前述だけを見れば、殺しを楽しむ快楽主義者にしか見えないだろうが、俺にだって目的はある。
狂戦士、バーサーカーでも目的はある。
転移したての俺を守ってくれた救ってくれた、保護してくれたこのベール帝国を亡国にはしない。
島を統一するとかではなくていい。
姫様が望むならそれでもいいかもしれないが、姫様は必死に祈っている。
この国を救ってくれと。
個人的な依頼としてギルドから受けたこの依頼を俺は絶対に放棄したりはしない。
俺は覚悟を決めて、戦争の最前線に立っていた。
細かな戦術戦略は、もう一人の転移者に任せて俺は必死こいて戦うだけな訳だが、負けるつもりも逃げるつもりもない。
開戦の角笛が鳴り響き、俺の乗った軍馬は走り出す。
俺の得物は、全長2メートルの巨剣。
アダマンタイトと呼ばれる鉱石から作られた俺の相棒。
スレ違い様に、振り回して撫で斬っていく。
障害物でもなんでもない。
ただの数。
斬って斬って斬りまくっていく。
仲間には、俺の四方3メートルには近付かないように伝えてある。
でないと味方まで斬ってしまうからだ。
俺の隊に任された500の兵士を切り捨て終わって、前方を見ると巨大な氷が宙に浮いていた。
魔法だ。
それも、あんなデカイ氷の魔法は見たことがない。
10メートルくらいはあるのではなかろうか。
俺は魔法を使えない。
さその変わりに、身体能力がすばぬけている。と自覚がある。
俺めがけて、氷が落ちてくる。
出来るかどうか分からなかったが、やるしかない。今は今出来る最善をやるのだ。
氷めがけてアダマンタイトの巨剣をぶち当てる。
氷全てを叩き割りさえすれば氷の魔法は無力な筈だ。
氷にヒビが入って、数秒後粉々になって割れる。
やりきったと思ったのも束の間。
中から、5メートルはありそうな首回りがライオン、体がドラゴン、顔が猪のようなモンスターが飛び出してきた。
前にいた敵兵は撤退を始めている。
凌いだことに違いはないが、こんな魔法を使えると言うことは間違いなく向こうにも転移者は存在するということだ。
「間に合ったか。」
戦略戦術を組み立てていた仲間。ルーデリヒが俺の横に立った。
「戦況は!!」
「全域で敵兵は撤退した。こいつは、恐らく俺達の消耗もしくは全滅を期待しているようだな」
ルーデリヒは、背中から弓を取りだし矢をつがえる。
「じゃあ遠慮なくやれるか!!」
「そういうことだ!!」
「姫様をあんまり待たせちゃ悪いからな!!さっさと終わらす!!」
俺はルーデリヒに更に身体能力向上の補助魔法を使ってもらいモンスターの懐に飛び込んだ。
「オーラ様。あれなら倒せたも同然でしょうな!!」
下品な笑い声を上げる目の前のブタ………もといシーケンス公爵にはうんざりしている。
敵の能力も戦力も把握できなくて戦争などバカのすることだ。
「無理でしょうな」
俺は短く言って馬に乗る。
これだからこの方面の戦争は戦線が前に進まんのだと思う。
バカはバカらしく屋敷でブヒブヒ言ってればいいのだ。
「あれで死なぬものなどいないでしょう!!」
背中にかけられる言葉など無意味だ。
俺はマブールドラゴンの革から作った青いコートを翻し、街へと向かう。
戦況は好転しない。
陛下に詳細を報告し、シーケンスを配置転換しなければ終わる戦争も終わらないと伝えなければならないだろう。
しかし、配置転換はしないだろう。
シーケンスは王の弟なのだから。
しかし、兄弟でこうも違うとうんざりする。
平民なら即処刑したいタイプの人間だからだ。
日夜屋敷に商売女を何人も囲い、妊娠させては捨てるを繰り返すゲス。
まあどんな暴言を吐いたところで変わりはしないのだが………
俺は任された任務を終えたのでこれ以上いる必要はない。
明日には帝都に戻る。
田舎はいいのだがな…




