Dear 1
私の名前はセシリア。
名字は名乗るとすれば、育ったあの孤児院の育ての親であるお父さん。
アドラー・デーリッヒの名字を貰い。
セシリア・デーリッヒと名乗ることを許されている。
孤児院を出るときには、みんなこの名字を遣うことを許されるが、やはり感慨深いものがある。
16年間育った家なのだ。
私の荷物はそう多くない。
ギルドから支給された制服は返せばいいし、毎日ギルドに行っていたから普段着も1枚か2枚くらいしかない。
後はボロボロになっているパジャマくらいだろうか。
父から12歳の頃誕生日プレゼントといってもらってからずっと着ているから当然と言えば当然だ。
身長はそれからあまり伸びなかったのだが、胸の成長率だけは良かったので、胸の部分だけはパツパツになってはいたが、お気に入りはお気に入りだ。
魔法の袋はいらないかなと思うほどだ。
冒険者をしていた頃と言うほどでもないが、最低限の胸当てや弓など装備はある程度はある。
それを入れておけばいいかと思う。
魔法の袋は、タツキさんから「僕と男爵様からのプレゼントだよ」といって渡された。
お二人には感謝している。
昨日のような事は、実は何回か経験している。ただ連れ去られるのは初めてだったが。
孤児院の運営はいつも苦しい。外に出ていった兄弟から援助はあったが、それほど多くはない。
でも、今回から以前よりも多目に補助を出してもらいさらに、ギルドからの援助も増額して貰えることになった。
年齢制限はしかたないと思う。
それに、将来的に弟たちの働き口は考えてあると言って貰えたのも大きい。
安心して出ていける。
それに、これから一緒に旅が出来る相手もいい。
タツキさんと男爵様、マスターの作為を感じないわけではないが、それは願ったりかなったりだ。
私は、ルカさんに一目惚れしてしまっていたのだから。
思い出しただけで胸がドキドキしてしまう。初恋というわけではないのに、離れたくないずっと一緒にいたいと帰ってきてから思ってしまっている。
最初まさか、迷宮都市と言われるこの街で普通の討伐依頼を受けに来る人がいるとは思わなかった。
銀色の髪がサラサラであまり身長は高くないけど綺麗な顔立ちだと思った。
案内ということで、一緒に行くことになったのだが、ドキドキで話しかけることが出来ない。
洞窟で野営することになり、私は先に横になった。
二人っきりでなんて胸が張り裂けそうで、私の手は………
ルカさんの背中を見ながら、いつの間にか眠ってしまって気が付いたら、ルカさんはいなかった!!
置いていかれたんじゃないかと焦って外に出た。
悲鳴のような咆哮がして、地面が僅かに揺れた。
何が起こったのか、一瞬分からなかった。
でも、ルカさんの身のこなしを見ていたらもしかして、と胸騒ぎがする。
洞窟の前で、心配でドキドキしていたら、さも当たり前のように風属性の魔法で大量の金銀財宝、武器防具を宙に浮かせてやってきた。
私は我を忘れて怒り狂った。
どれだけ危ないモンスターだったのか、単独行動でどれだけ冒険者が死んだかとか捲し立てた。
心配だった。
一人で行って死んでしまったかと思った。
嫌われてもいい、無茶をして死んで欲しくなかった。
だから、私は………
どうにか帰ってきて、ギルドへの報告書を済ませた私は、いつもの借金取りに絡まれた。
あしらっておけば、どうにかなるだろうとたかをくくっていたのが間違いだった。
腹部に鈍痛を感じ…私は意識を手離した。
その時頭に浮かんだのはルカさんだった。
バリッとした静電気のようなものを感じた。
バタバタと音がしている。
薄目をあけると、制服の胸の部分が裂けていた。
声を出しそうになり、どうにか飲み込む。
私を連れ去った男と見たことはあるが覚えのない人が何人かが倒れていた。
ガチャっと音がして、タツキさんとルカさんが入ってくる。
慣れたようや手つきで私の回りの男達を縛って外に放り出していく。
私の胸を何回かルカさんにチラチラ見られているような気がする。
タツキさんもだ。
ルカさんがタツキさんに見るな!!と怒鳴ってくれた。叩いてくれた。
嬉しくなる。でも、恥ずかしいものは恥ずかしい。
でも、どうしても身体が上手く動かない。
静電気のようなものの後遺症だろうか。
周りの人間がいなくなって、やっとルカさんが私のところへ来てくれた。
「もう大丈夫だからな。」
飛び上がりそうなくらい嬉しかったのだが、もちろん動けない。
更に嬉しいことがおこる。
ルカさんが着ていたあのコートを私にかけてお姫様だっこをしてくれたのだ。
もう天にも登るほどだ。
夜のこの暗さがありがたい。
絶対に顔は紅くなっていただろう。
ルカさんは、私を私の家まで連れていってくれた。
私が孤児院に住んでいることを何か思うだろうか。
考えないとは言わないだろう。でも、受け入れてくれる気がする。
期待的展望だけど大丈夫だと思う。
そんなことより私の一目惚れは間違ってなかったと胸を張って言える。
父と話をしている。
父はルカさんをあまりいい風に取っていないのが分かる。
でも、ルカさんは私を椅子まで連れていってくれた。
もうそれだけで十分だ。
私は決めた。
私はずっとルカさんと旅をするのだ。
ずっとどこまでも着いていくのだ。
私は覚悟した。
どんなことがあっても、私は…私はルカさんが……………
「魔の森開発についてなんだが………おい、タツキ」
「ん?あっああ悪いなんだったか?」
俺はタツキ。
名字なんで大した意味はない。特に冒険者としての俺にとっては。
「お前が上の空ってのは珍しいと通り越して気持ち悪いな。」
俺の目の前にいるのはダンケル男爵。父を早くに亡くし今の当主になった男転生者。
俺は今の俺のままこの世界に来たから転移者とでも言うのか。
「気持ち悪いは酷いな。」
「どうせ、良からぬ事でも考えていたんだろう?」
「いや、ルカの事だな。」
「ほぉ女好きも酷いと噂のお前が男の事を考えるとは。趣味が変わったか?俺はダメだぞ?」
「おい俺は絶賛女好きだ。」
「分かってるよ。まあ、あのルカと言えばお前のお気に入りだったセシリアは良かったのか?」
「手は出しちゃいないからな。それよりもだ。あのルカ。どうも昔会ったことがある気がするんだよな。」
「ほぅ?日本でか?」
「ああ。最近の日本での記憶が薄くなってきてるからハッキリとは言えないんだがな。間違いないのは、俺が住んでた街にあいつはいたと思う。」
「その根拠は?」
「勘だ。」
「じゃあ間違いないか。」
ダンケル男爵は、自分の座っていた執務椅子から立ち上がって、窓ガラスから空を見る。そういえば、もうそろそろドボザルの分岐点のところ辺りだろうか。
「まあ100歩譲ってそれはいい。」
「いいのか?」
「日本人ってだけでも、十分だからな。」
「そうか。」
「あいつのstatus数値は聞いてはいないが、間違いなく俺の5倍から10倍はあると見ている。」
「10倍だと!!?」
「ワイバーンに銅の剣を投げつけて殺すバカが冒険者ギルドのSrank以外に誰がいる?」
「確かに………」
「敵にだけはしちゃいけない。そういうことだよ。」
「厄介だな。今なら勝てるか?」
「今なら相討ち位にはな。だが、恐らく1年後は一方的になるだろうな。」
「そこまでか。」
「ああ。今はまだ戦闘そのものに慣れていないからな。」
「利用するか?」
「止めとけ。冒険者ギルドを通じて依頼を流す方がよっぽど利になる。藪をつっついてドラゴンより恐ろしいやつを出したくなきゃな。」
「その方がいいな。」
俺は自分の座っていた椅子から立ち上がりダンケル男爵の隣にきた。
「まだまだこの街は発展できる。」
「伯爵くらいにはなりたいな。」
ダンケル男爵は自嘲気味に笑いながらこちらを見た。
「そうなるようにするんだろ?男爵様よ」
「ああ。やってやるさ。」
俺は自分で頭を振り、ルカのことを吐き出す。
そして、またこれからの事を考えていくのだ。
この街の発展を更に進めるために。




