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色彩の契り  作者: るしょう
第一章 リーラ
9/26

紫8

そのころ男子組は体育館を真面目に見回っていた。


「いやー、暗いですねー」

クォーレが、少し前に見つけた懐中電灯を不規則に揺らしながら楽しげに笑う。

「そんなに暗いのが楽しいか?」

信じられないと言いたげな声色のハーテス。

クォーレはニヤリとした。

「あれ、はーさん怖いんですか?そんなに大きいのに…ってタンマ待って待って今のは年齢の話、背じゃないですよー!」

「わかってる。てか、怖がってもねぇよ」

嘘だ。怖がっていたかはともかくとして、絶対今拳握りしめていた。

口に出しはしないが、クォーレは密かにそんなことを思う。

「そんなに身長ってコンプレックスですかねー?」

「コンプレックスじゃないわけないだろ。なにかする前から警戒されるし、バカにされるし」

愚痴をこぼしてから、ふとクォーレを見下ろしてハーテスは尋ねる。

「あんたはコンプレックスじゃないのか?」

「この身長ですかー?コンプレックスじゃないですよ」

クォーレの身長は164cm。

男子にしては小さい。

「身長がすべてじゃないですからね。小さくたって僕はいつも紳士であろうとしているし、そこらへんの背だけあって器の小さい男とは違いますよ。あ、今のは、はーさんのことじゃないですからね」

「達観してんのな」

「そうですかねー。でも自分で自分を肯定してあげなきゃ、他の誰も僕のこと肯定してくれる人なんかいませんから」

そう言い切ったクォーレは、倉庫の扉の上の方に光をあてる。

「あ、非常用物品庫ですよ」

「あ、あぁ」

先ほどの発言に問いたいことはいくつかあったのだが、こうなってしまうと聞きにくい。

ハーテスは諦めて、倉庫を開けることに意識をうつした。


「くーくん!はーくん!」

体育館の1番大きなスペース、要するに運動するスペースに戻ると、ユイヒとリッシェはすでにジャージに着替えて待っていた。

体育館の備品であるマットを数枚だして、その上に座ることで床からの冷えを防いでいる。

リッシェが軽く腰を浮かせて尋ねた。

「なにかあったか?」

「問題はないですよ。食糧を発見しました」

「それにしても寒いな。ストーブ出してくる」

ハーテスが急いで走って行くのを、手を振って送ってから、ユイヒがクォーレに向き直って言う。

「そういえば重大な発見があったんだよ?」

「なに?」

「はーくんも揃ってから言うね」

「そういえば洗濯機があったぞ。話が終わったら男子もシャワー浴びてくれ。洗濯するから」

リッシェの声はこころなしか明るい。

なにがあったんだろう。

考えてもわかるわけがなく、クォーレはおとなしく丁寧に答える。

「それはありがとうございます」


ハーテスが戻ってきて、4人で石油ストーブを囲む。

ストーブの上の缶の非常食のスープが、キャンプのようで楽しい。

ユイヒはそれを目を細めて眺めながら、口を開いた。

「私思い出したの。私たちの誕生日になにがあったか」

ハーテスとクォーレが、驚いて彼女を見る。

「なんで思い出したのかはわかんないんだけど…、聖女アンヌの生誕500年記念の日、じゃない?」

聖女アンヌ。

ユイヒの言葉に、ハーテスとクォーレも大きく目を見開いた。

「それだ!!!」

「だよな!」

リッシェも笑って同意する。聖女アンヌ、という言葉を聞いて、すとんと腑におちたのは自分だけじゃないということが愉快だった。

「聖女アンヌの生誕が関係しているのなら、この状況の打開策も一つに絞られる」

「クリスタル、ですよね」


聖女アンヌ。

それはこの島の伝説ともされる500年前の少女のことである。

島では珍しい銀の瞳を持って生まれたことから「神に最も近い人間」とされ、不浄なものは避けて育てられた聖女。

彼女が17歳のときに、他の島との争いが起きた。

相手の島の高度な文明は魔術をも生み出していた、と伝えられている。

そして、相手の島はその魔術で、この島を廃墟にした。その当時、中心の都リーラはなく、4つの都があったのだが、そのすべてが廃れたという。人々も意思を失って徘徊するのみとなり、島は見るに堪えない様子だったという。

しかし、聖女アンヌは祈り、その祈りの結晶であるクリスタルを集め、一つの石板に納めた。

すると、その4つのクリスタルの光により、島は元に戻り、長く続いた戦いも終わりを遂げたと言われている。

尽力した聖女アンヌは、戦いの終幕と共に、18歳誕生日に、その若い命を終えた。


この話は島民なら、誰もが知っている話である。

「あの石板はそのあと、リーラの時計台に回収、保管されているんじゃなかったっけ?」

ユイヒの言葉に、ハーテスが考え込む。

「そのはずだよな。この状況は伝説に重なる部分が多いし、なにより確かめに行って損はないだろ」

「もし、石板にクリスタルがなかったとしたら、僕らが祈って回らなきゃなんないんですかね?僕、今までそんな真面目に祈ったことないんですけど」

クォーレが、てへ、と苦笑する。

今まで平和だったのだ。祈りに力をいれていなかった若者はクォーレだけではないだろう。

「各地に散らばったと考えたほうがいいんじゃないか?聖女アンヌも、祈りの結晶であるクリスタルを、各地を周って集めたって話だっただろ?」

「さすが、りっちゃん!」

パチパチパチ。

小さな手を打ち合わせて、ユイヒが拍手する。

「とにかく、明日からの打開策は決まったな」

「そうですね。じゃ、ご飯にしましょうか」


でも、みんなと和気あいあいとご飯を食べながらも、ユイヒは密かに考えずにはいられなかった。


あの、甘い匂いと唐突に聖女のことが頭に浮かんだ、その意味を。







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