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色彩の契り  作者: るしょう
第一章 リーラ
8/26

紫7

「あーっもう18年前の10月20日はおろか、18年前に何があったかすら覚えてないよー!」


ユイヒの叫びに、考え込んでいた3人が苦笑する。

生まれてすぐに何が起こったかなんて、覚えている人のほうが少ないだろう。

「けど、何かが起こったはずなんだよな」

ため息をつくリッシェ。クォーレも小さく息をつく。

「昔の新聞か何かを捜したほうが早いですかね」

「それよりも先決なことがあるぞ」

ハーテスが言う。

「もうすぐ日没だ」

時刻は5時30分。秋の日はおちるのが早い。

そういえば、少し肌寒くなってきた。

リッシェも辺りを見回して頷いた。

「寝るとこを探さないとだな」

「そうですね。夜は冷えますし、暖かそうなところがいいですよね」

「暖かそうなところ…」

暖かそうなところといえば、宿屋だった。だか、あの不気味な人々の中で寝る気にはならない。

従って、誰も口には出さなかったが、人がいないところも条件に入っていた。

しばらく悩んだ末、ふいにハーテスが何か思いついた。

「あ、あそこなら」


「え、ここって」

ハーテスの案内に連れてこられた3人は、その選択に虚をつかれて立ち止まった。

「多分こっちが開いてる」

建物の西側にまわり、低い位置にある窓に手をかけ、ぐいぐいと揺する。と、簡単に窓が外れた。

「はーくん、すごい!!」

「野生の勘ですかねー」

「クォーレ、黙れ」

まずクォーレが、レディファーストは基本ですけどこういう足場の悪いとこは先に行かせてもらいますね後で手を貸したいので、とか決め顔で言いながら、窓を超える。

続いてユイヒ。ハーテスを台にしてクォーレにも手を引いてもらい、やっとのことで中に入る。

リッシェ、ハーテスは何事もなく軽々超えた。


「市民体育館か。よく考えたな」

中を歩きながらリッシェが言う。

たしかに市民体育館に夜は人などいないし、風もしのげる。

「ストーブも毛布も倉庫にあるのを知ってたからな。シャワー室もあるし」

答えるハーテス。

「じゃあ、はーさんと僕で体育館の中を一応見回ってきますから、女子組はシャワーでも浴びてきてください」

「ありがとう。気が利くな」

クォーレの提案に対するリッシェの言葉に、彼はふっと笑った。その笑みに続く言葉はなぜかとても得意げだ。

「紳士ですから」

「おお!くーくんかっこいい!」

「んん?ちょっと私には文脈がつかめないが…まぁいい、言葉に甘えさせてもらってシャワーを浴びよう。ユイヒ、行くぞ」

「はいはーい、いってらっしゃーい」

クォーレのおちゃらけた送りの言葉を背に、女子組はシャワー室に向かう。

比較的小さな島ではあるが、街から街へは歩くと約半日かかる。そこを歩いて来たのだから、それなりに疲れてはいた。廃れてしまったせいか砂埃がひどく、早くシャワーを浴びたかった。

『シャワー室』という表示を見つけて、先を歩いていたリッシェがドアを開ける。

「おおお!」

「なに?なにかあったの?」

ユイヒがリッシェの背中から中を覗き込む。

リッシェは嬉々として中を指差した。

「洗濯機があるぞ!」

そして、すごいすごいと本当に喜んで駆け寄る。

「乾燥機能までついているのか!ハイテク!…お、電気は通っているんだな、使えるぞ!」

ユイヒは、えーっと…と首をかしげた。

「りっちゃんは、洗濯が好きなの?」

「あぁ!でも、こんなにすごい洗濯機を使うのは初めてだ!森のは何年も昔の型だったからな…」

――お母さん…というより、最新機器に喜ぶお父さんみたい。

そう思って、ユイヒは笑う。

洗濯機の横に、貸し出し用のジャージを見つけた。多少日焼けしているが、綺麗にたたまれている。

「これ着てれば、今の服洗濯できるね」

「そうだな、早く洗おう!」

男勝りな口調が様になるリッシェだが、早く洗濯機を使ってみたくてわくわくする様子は、無邪気で可愛らしかった。


――いろいろあったけど、みんなといると楽しいな。

シャワーを顔から浴びながら、ユイヒは考えていた。

濡れた、量の多い髪が、ウェーブを緩めながら背中に流れる。

――でも昨日までみたいな「日常」に戻りたい。

自分の愛していた街を、このまま壊したままにはさせない。その気持ちは変わらない。

思い返す日常は、たった1日前のことなのに、何年も前のことのような気がして、少し淋しかった。

ふいにユイヒは鼻を抑えた。

――?!

甘い、それは甘ったるい、絡みつくような不快な匂い。

――これは、昨日の夜の…?!

鼻を手で覆いながら思い返す。昨夜嗅いだことを。

――でもあれは夢だったはずじゃ…?

そこまで考えたところで、ふと他の、とあることが頭に浮かんだ。

突如思いついたそれに、ユイヒ自身驚きながら、震える手でシャワーを止めた。

「りっちゃん!」

「んー?」

リッシェのシャワー音に負けないように、大きな声で言う。

「18年前の私たちの誕生日、思い出した」


「――聖女アンヌの生誕500年の日」




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