紫6
「この状況じゃ、犯罪とか関係ないだろ」
銃を下ろした背後の人物はそう言って、少し笑った。
予想外の展開に殺気を削がれたようだ。
空気の和らぎに気づいたユイヒは、のそのそと立ち上がる。
そしてクォーレに尋ねた。
「この人が、くーくんがあっちで見たって人?」
ああ、そんな話をしてたんだっけ。
ゆっくりと振り返る。
長い髪。高い背。無愛想な顔。
「そう。この人」
「悪かった、とは思ってる」
ぶっきらぼうに少年は謝る。
「けどそっちが礼儀知らずだったのもまた事実だろ?」
礼儀知らず。ほぼ初対面なのに何かしただろうか。
すでにのっぽ呼ばわりしたことを忘れているクォーレである。
「なにか君の気に障ることしましたっけ?」
「のっぽって言っただろ?!妙にのっぽって!!」
「君は背が高いのがコンプレックスなの?」
ユイヒが上目遣いに少年に聞く。
「コンプレックスじゃないわけないだろ?!どこに行ってもなにをしても『でかい』なんだぞ?!」
「そんなものなのかな…大きいのいいと思うけどな…」
つぶやくユイヒを少年は見下ろす。
ユイヒ146cm。
少年187cm。
身長差41cm。
ここまでの差がある彼女に言われると怒りの対象にもしにくいらしい。
というかむしろ可愛らしく思えてしまうのも摩訶不思議。
「そうですよー大きいのかっこいいー」
クォーレが棒読み口調に言う。
少年はギロリとにらんだ。
と。
「そのぐらいにして自己紹介でもしたらどうだい?」
後ろから女子の声がした。
振り返った3人に三つあみの少女はひらりと手を振る。
「私はリッシェ。ヴェルデから来た。消えなかった仲間同士仲よくしような、ていうかハーテス、お前私のこと忘れてただろ。」
ぎくり。
少年は肩をすくめてそれを流すと自己紹介へと移る。
「ハーテス。ジャッロからだ」
ジャッロ。工業の街か。
あの銃の改造も工業の街なら納得だ。あそこにはその技術がある。
クォーレは納得してカチューシャを軽く押し上げるとにこりとした。
「僕はクォーレです。アスール出身です」
「私はユイヒ!ロッソからきました!」
おじぎまでつけくわえるユイヒ。
なんだこの女子力。
「みんなばらばらか」
「ここまでばらばらだと作為を感じるな」
ハーテスの言葉にクォーレが、え、と驚いたように見上げる。
「あなたもこの状況を意図的なものだと?」
「なんだ、その意外そうな顔は」
「いや大きいだけで脳みそ入ってないのかと」
「大きいやつ全員を敵に回したぞ、あんた」
のっぽではあんなに怒るのに脳みそ入ってないだと怒らないのか。
基準が理解しがたいと思うクォーレだった。
「にしても」
リッシェの言葉に3人は真剣に聞きいる。
「こうなってしまった心当たりとかある人いるか?」
「もしくは僕らだけがああならなかった心当たりとかですよね」
クォーレの付け足した問いにさえ答えられる人はいない。
「共通点、なんかないですかねぇ」
出身地…違う。
性別…全然違う。
あとは…年齢?
「年齢も近そうだけどぴったり同じではなさそうだよね」
ユイヒの言葉に一同頷く。
「私は17歳だけど…みんな何歳?」
「17」
「17」
「17」
「って、はーくん17歳なの?!」
驚くユイヒ。
たしかにこの身長差では信じ難いものもある。
リッシェがなだめるようにユイヒの頭をなでた。
「まぁ俺はもうすぐ18だけどな」
ハーテスもとりなすように言う。
「奇遇ですね、はーさん。僕ももうすぐ18ですよ」
今のクォーレの発言。気になるものがあった。
「はーさん?」
「ハーテスさん。あれ。だめですか?」
「だめとかそれ以前にどっから思いつくんだ、そんな呼び方」
「ユイヒが呼んでましたから」
問題を全てユイヒに丸投げするクォーレ。
ユイヒはにっこりして、一人一人をみながら、
「はーくん。くーくん。りっちゃん」
「初めて呼ばれる呼び方だな」
リッシェは優しく笑う。
クォーレも
「はーさん。リッシェさん。ユイヒ」
「あんた俺のことなめてんだろ」
「そんなことないですよー」
1番いい笑顔をするクォーレ。怪しい。
そろそろ引き際だと気づいたリッシェが話を戻しにかかる。
「それでさっき、クォーレたちがもうすぐ18と言ったが、私ももうすぐ18だ」
「わたしもっ!」
てことは。
「共通点、これか?」
「待ってください。年齢が共通点だとしたらあと何百人もいるはずです。4人なわけない」
それは正論だった。年齢にプラスして、まだ共通点があるはずだ。
手がかりにならない共通点に雰囲気は一気に暗くなる。
それを察したユイヒは、なんとか明るい話題に戻そうと、必死で頭を働かせた。
「…あ!私あと6日後が誕生日です!」
それは予想外の反応を呼んだ。
驚きと期待に満ちた表情で3人がユイヒをみた。
「10月20日?!」
「う、うん」
「私も同じ日だ」
「僕もですよ」
「俺も」
「共通点きたー!」
ユイヒとクォーレはハイタッチ。
「あとは18年前の10月20日に何があったか考えるだけですね」
それだけ。
それだけだからこそ難しいということを彼らはまだ知らない。