紫5
クォーレは突然の殺気に身を固くした。
――これ危険なやつじゃ…?!
根拠はないが、直感でそう思う。
考えるよりも先に口が動く。
「ユイヒしゃがんで!」
「?!」
わけもわからないまま、ユイヒは両手で頭を覆って、しゃがみ込み、目をぎゅっと瞑る。
――バンッッ!
重い銃弾の音。
クォーレの頬を何かがかすめた。
「手を挙げろ。次は当てるぞ」
同世代の男子の声。だが、声色は本気だ。
クォーレは素直に両手を頭の高さまで挙げる。その様子を見て、殺気の根源の足音が近づいてきた。
クォーレの背後で足音が止まる。後頭部に金属の冷たさを感じた。銃口だろう。
「あなたは誰ですか?」
クォーレはなんとか冷静に尋ねる。
相手は冷たく答えた。
「普通に考えてあんたに恨みがある奴だろ」
「くーくん、心当たりは?」
ユイヒが両手で頭を隠したまま、ちらりとクォーレの方を覗いて、小さい声で聞いてくる。
と、その前に。
「くーくんって?」
「クォーレくんだからくーくん」
…まぁいい。気にしないことにしよう。
クォーレは少し考え込む仕草を見せた。
「恨みか…。ちょっと心当たりがありすぎて…」
「くーくん?!」
驚くユイヒ。
いやぁ人をいじるのが趣味だからさー、なんてこの状況じゃ言ってはいられない。
ああ、でもこの位置ならあれができるか。
クォーレは意を決して、右肘を背後に引いた。
「ぐっっっ!」
いつもなら背後の相手の溝内に決まるこの技。
しかし、相手が悪すぎた。相手の背が高すぎてうまく決まらない。
それでも少しは痛かったようで、腕が少し揺れた。
カチャリ。
――ん?
「何すんだてめぇ…!」
苛立つ声を耳から排除して、クォーレは脳を最高速で働かせる。
頭の後ろの銃口。さっきの発砲音。そして今の金属音。
――勝てる。
そう確信したクォーレは落ち着いて口を開いた。
「その銃、君が改造したんですか?」
「え」
相手は明らかに怯んだ。
「その銃、銃口からしてユニローグですよね?でもそれにしては発砲音は重すぎる。しかも今揺らしたときの金属音も低すぎる。なにか安っぽい金属を入れましたね?」
「なんで」
クォーレはにっこりと笑った。
「僕はアスールの大商人の息子ですよ?そのくらい長年の知識です」
小さい頃からいろんな商品を見てきた。その知識がこんなことにで役立つとは。
考え深く思いながら、最後に一言。
「銃の改造は犯罪ですよ?」