紫4
ところで、ハーテスもまたクォーレ、ユイヒと同じく中央部の街リーラに着いていた。
「誰も彼もどうしたんだか」
自分以外みんなに何が起こったのだろう。
何度も何度もそんな同じ問いばかりをくり返す。むしろ、それしかすることがない。
――?
ふと、道の先に立ち止まる少女が目についた。
背中で揺れるおさげが知的な雰囲気を出しているが、格好は半ズボンと活動的だ。
彼女はしゃがみ込むと、何やら土をいじり始めた。
「何してんだ、あいつ」
行動の意味がわからない。
しかしあんな不審な行動ができているということは…。
期待する気持ちを抑え、ハーテスは彼女に歩み寄った。
「何してんだ?」
「土を調べてるんだ」
いやそれは見てればわかるけれども。
ツッコミを飲み込んだハーテスに、彼女は言葉を続けた。その瞳は真剣で、口調も丁寧だ。
「土はどこもおかしくないんだ。栄養もある。不浄なものは含まれていない。なのに、植物は枯れている」
「そういうの詳しいんだ」
へぇ、と感心しながらハーテスが言うと、彼女はふっと笑った。
「まぁな。けど、君だって何か異変に気づいたから歩き回っているんだろう?」
固い話し方をするのは、ただの癖らしい。彼女の笑顔は柔らかい。
ハーテスは肩をすくめた。
「異変って表現するのが申し訳ないくらいの豹変っぷりだからな」
「それもそうか」
空気が和む。
自己紹介をするのは、今しかなかった。
「俺はハーテス。そっちは?」
「リッシェだ」
リッシェはにこやかに答えた。
もう一つどうしても知りたいことがある。
ハーテスは質問を重ねた。
「他に俺らみたいな奴、誰かいたか?」
「あー…確認はしてないけれど、広場にいた2人組がなんか変なことをしていたな」
「変なこと?」
ハーテスの表情が明るくなる。
「変人は味方の証だ」
「なんだそれ」
2人で笑い出す。
ずいぶん久しぶりに笑った気がした。
広場に移動して、2人は垣根から様子をうかがう。
なるほど、枯れた噴水の前で同世代の男女2人がなにやらやっている。
リッシェがささやいてくる。
「怪しいだろ?」
「そうだな」
ささやき返して、耳をすませる。
「他に誰か、正常なままの人を知ってる?」
話し声が聞こえる。高くて可愛らしい女の子の声だ。
「僕は1人でここまで来たけど…あぁそうだ、1人それらしき人がいたかも。声はかけなかったけど」
「おおお!どこで?」
「たしかあっちにいたけど…長髪で妙にのっぽの男」
――妙にのっぽの男。
「お、おい?」
リッシェは嫌な予感がして、ハーテスの腕をつかもうとした。
が、強い殺気に一瞬手が止まる。
その一瞬がもう遅かった。
「誰がのっぽだ、失礼な」
リッシェの隣にはもうハーテスはいない。