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色彩の契り  作者: るしょう
第二章 アスール
17/26

青2

「やっぱ豪華じゃねえか…」

門から玄関へと続く細い小道を抜けて、屋敷の中に入れてもらうとハーテスはつぶやいた。

その呟きは、思わず口走ったと表現するのが似合う、小さなものだった。

が、クォーレは聞き逃さない。

「文句言うなら野宿って手もありますよ、はーさん」

「文句なんか言ってないだろ?!むしろ褒めてたはずだ!!」

「こんな程度で豪華なんて言われたくないです」

「一般家庭なめんなよ?普通もっと質素なんだぞ?」

ハーテスの反論に、女子たちも大きく頷く。

普通はこんな毛の長いカーペットなんか引いてないし、あんな金ぴかのシャンデリアがぶら下がっていたりしない。

外の他の廃墟に比べ、この家はまだ新しいようで傷も少ない。なおのこと、いっそう豪華に見える。

クォーレは3人を食堂へ案内しながら、尋ねた。

「なんか嫌いなものとかあります?」

「ない」

3人は一斉に答えた。

ぎゅるるるるとユイヒのお腹も反応する。

赤面してお腹を抑える彼女の頭を撫でて、リッシェは挙手した。

「もしキッチンを使わせてもらえるのなら、私が何か作ろうか?それなりのものは作れるぞ」

「いいですねー!じゃあお任せしますね」

クォーレは笑顔で答えて、一階奥の灰色の扉を開いた。

「――っ!」

3人が息を呑むのも無理はない。

キッチンすら最新設備。綺麗に整理されて並べてある調味料も種類が豊富だ。

「食糧はそこの冷蔵庫の中です。じゃあリッシェさん、よろしくお願いしますね」

「…あ、あぁ」

あまりの贅沢さに絶句していたリッシェが、やっとのことで返事する。

見兼ねたハーテスが

「俺も手伝うよ」

「あぁ助かる。私には面識のないものが多すぎてな」

「その間に僕とユイヒは、パトロールしてきますね」

「りっちゃん、はーくん!あの…」

ユイヒがうつむいて言う。

「私、結構大食いだから、たくさん作ってね」

「……」

ふわふわの髪が風に泳ぐ。

――こんな小さい子が大食いのわけないな。

2人はそう結論を出して、優しい笑みで頷いた。

「任せろ」

「ほんとのほんとに大食いだからね?いっぱいいっぱい作っといてね?」

「わかったから。さっさとパトロールして来い」

何度も言い募るユイヒの背を押したハーテスは、まだ彼女の繰り返す言葉の真意を知らない。しかし、ユイヒはちゃんと伝わったと信じてクォーレとキッチンを出た。

広い廊下の電気をつけてまわりながら、クォーレは窓の外を見た。

「だいぶ暗くなってきましたね」

「そうだね。くーくんの家に早くついてよかった」

ユイヒが安心したように笑う。

「寝るとこは大きい客間があるんで、そこでみんなで寝ればいいですよね。僕の家とはいえ、なにがあるかわかりませんし」

「誰かこの家にいるの?」

「わかりません。もしかしたら、ほんとにもしかしたら、僕の両親がいるかもしれませんね」

「お父さんとお母さん?危険なの?」

無邪気なユイヒを一瞥して、彼は目をそらした。

「なにが起こるかわかりませんから」

その声はいつもより低く、感情のない声だった。

ユイヒは怪訝そうに目を上げて、あ、と何かを思い出す。

「そういえば、くーくんたちが時計台にいるとき、不思議なことがわかったの」

「不思議なこと?」

「うん」

ユイヒは手短に、ハーテスが撃った人が再生して生き返った話をした。

クォーレは興味深そうに頷いて聞くと、ちらりとまた外を見た。

「やっぱり何かおかしいですよね、この世界」

ユイヒは無言で小さな手を握りしめた。

「明日だよ、くーくん」

「はい?」

「明日、人が集まってるとこ探せば、クリスタルが見つかってすぐこの街も、綺麗に戻るから」

みんなの愛したあの街に。

ユイヒは強く続ける。

「だから」

「ユイヒ」

クォーレの手が頭にのった。

ゆっくりと頭を撫でる手は優しい。

「僕はそんなに弱くないですよ」

――弱くないから不安なの。

ユイヒは直感的にそう思ったが、頭の上の手があまりに優しくて、口をつぐんだ。


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