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色彩の契り  作者: るしょう
第二章 アスール
16/26

青1

日はまだ真上まで上がっておらず、時計は10時半を指していた。

視界に入る街並み全てが美しく、あぁ本来はこんなにも輝いていたのだと、誇らしくすら思える。

人々が同じ会話、同じ行動を繰り返していることを除いては。

美しい街とはあまりにも対象的すぎて、切なくなる思いを抑えて、ハーテスは隣を歩くクォーレに尋ねた。

「アスールってどんなところだ?」

「はーさん、来たことないんですか?」

「私もないー!」

意地悪く笑ったクォーレだったが、女子たちの反応に、その馬鹿にした笑みを一瞬でひっこめる。

そしてにこやかに説明し出す様には、ハーテスはひどく遺憾だったが黙っておく。

「アスールが水の都ってのは、有名だから聞いたことはありますよね?街中に水路があって、細身のボートで行き来してるんです」

「便利そうだな」

「そうですね。その便利な交通網のおかげで商業的発展ができたんでしょうし。いろんなお店があって楽しいですよ」

「おいしいものあるといいなぁ」

無邪気なユイヒ。

クォーレは彼女に笑みを送ってから

「ただ問題は、クリスタルの在り処に全く心当たりがないんです」

「全く、か?」

「はい。…そうですね…宝石店とかそういうところなら幾つか知ってますけど、そういう類いじゃないんですよね?」

「わからないな」

リッシェの足取りが重くなる。

「我々のうち誰一人として見たことがないんだもんな…。1からあたるしかないよな」

「けど、ヒントならあるよ?」

ユイヒが人差し指を立てて言う。

「人がいっぱい集まってるところ!でしょ?」

たしかにそうだ。

石板のあった時計台には、大勢の人が集まっていた。

「アスールについたらとりあえず街を一周しましょう。人が集まっていればすぐわかるでしょうし」

「着かないことには始まらないもんなぁ」

そう言ったハーテスは、周囲の景観に目を細める。

整えられた道のタイルは美しく、道端の花にさえ生命力が見られる。

全ての街がこうなるまで、まだもう少しがんばろう。


日も陰り始めたころ、ようやく道の向こうの景色が青くなってきた。

青の水の都、アスール。

クォーレは、他愛ない話に笑顔を続けながらも、みんなにはバレないようにその青から目を背けた。

大好きだったあの輝く青が、こんなにも黒ずんで見えるのを、彼の目は認めたくなかった。

本当はまだ、この状況が現実だとは認められていない。

リーラの紫が眩しいから、余計にあれは幻覚だったのだと信じたくなる。

――僕はやっぱり弱いなぁ。

この街を救うと決めたのだから、そろそろ強くならなくちゃ。


「アスールもひどく廃してるな」

リーラを抜け、アスールに入るとやはり廃墟しかなくなった。

道もひび割れていて、ここまで歩いてきて疲労がたまった足には正直きつい。

「けど、本当に水路がたくさんあるんだね」

ユイヒの感嘆の通り、見渡す辺りいたるところに水路がある。

一般的な街でいう、道路の車道が水路、歩道がタイルの道、といった具合だ。

「水路使えると便利なんですけどね」

クォーレは水路に放置されていた細長い舟に近づき、腕を伸ばして岸に引き寄せようとした。

が、掴んだ舟のへりの木は腐っており、ボロリと崩れる。

その木くずを水路の汚水に捨てて、クォーレは3人を振り返る。

「水路はちょっと無理っぽいですね。歩いていきましょう。あの丘をあがったらすぐです」


「丘をあがったらすぐ…って…お前…」

丘を上がった3人は絶句して立ち止まった。

クォーレだけが不思議そうにそんな彼らを見やる。

「すぐですよ?ほら、あれです」

「だってあれって…」

「え?」

「あれは城じゃねえか!!!」

ハーテスの表現にクォーレはケラケラ笑う。

「やだなぁ、はーさん、大げさですよ」

「いや、大げさじゃないだろ」

リッシェがつっこむほど、目の前の建物は大きかった。

丘を上がってすぐのところに建っているそれは、白の壁と金の装飾が光り、いくつもの塔がある、広い屋敷だ。少し古びてはいるが、周りの廃墟等々よりは断然きれいだ。屋敷の前の大きな門すら、おしゃれな創りで目を引く。

「くーくんは王子様だったんだね…」

「ユイヒ、この島に王の制度はないよ?」

クォーレはため息をついて、

「父が大商人なだけですし、こんな程度の屋敷、たくさんありますから落ち着いてください」

「たくさんはねぇよ!!!!」

そんなに大富豪ばっかりいてたまるか、とハーテスが言う。

そうですか?とクォーレは笑った。

「とにかく中に入りましょう。食糧くらいなら腐ってなければありますよ?」

「中も豪華そうで気兼ねするんですけども」

小さな声でユイヒがつぶやく。

口には出さないものの、ハーテスとリッシェも同意のようだ。

クォーレはふぅ、と息をついた。

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう?野宿したいんですか?ほら行きますよ?」

そう言って彼は、勢いよく門を開いた。



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