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色彩の契り  作者: るしょう
第一章 リーラ
14/26

紫13

リッシェが石板を投下したちょうどそのころ、ユイヒとハーテスは時計台に辿り着いていた。

「はーくんがんばって!逃げ込んじゃえば多分なんとかなるよ!」

「…おう」

ハーテスの声は疲れている。

まだ抱えてもらっていたユイヒは、その疲れた様子に気がつき申し訳なさそうに

「はーくん、重くてごめんね」

「気にすんな。転ばれるよりはめんどくさくない」

「ううう」

言い方はひどいが、ハーテスの気遣いに感謝する。

掴みかかってくる人々の手をすり抜けて、なんとか扉の前まで行くと、ハーテスは疲れた足を止めて急いで扉に手をかけた。

そして、小声でつぶやく。

「鍵閉めてんじゃねぇぞ…!」

クォーレたちも鍵にまで気は回さなかったようで、するりと扉が開いた。

中に飛び込んで、とりあえずユイヒを床に下ろす。

薄暗いそこを見回す暇もなく、ハーテスはかんぬきに飛びついた。

外から人々が押しているらしく、うまくかんぬきができない。苛立ちながら、ハーテスも身体で押し返す。

――ここには入れるわけにはいかない。

クォーレたちの邪魔をすることだけはしたくなかった。

「はーくん、私も手伝うね!」

床に降ろされたユイヒも、慌ててハーテスの横に行こうとした。が、螺旋階段に目を惹かれた。

――大きな階段。

無意識に上を見上げてしまう。

と。


「…なに?」


上からなにか落ちてくる。

ユイヒは思わず階段の真ん中へと走った。

螺旋階段の真ん中の空洞部分に立ったころには、その落ちてくる何かはすぐそこまで落ちてきていた。

痛そうとか考えることもなく、それを受け止めようと無意識に手を差し出す。


落下物が手に触れるか触れるかの刹那、光が溢れた。


あまりに眩しい光で視界が白く染まる。

真っ白の世界の中、ユイヒは影を見た気がした。

髪の長い古びた服の少女が、十字架を手に祈っている。

――あれは…一昨日の夢の…。

似ている。

たしかに一昨日の夢の少女に似ている。

が、どうして今そんなものを見るのか。

ふわり。甘い香りが鼻をさす。何度目かのこの香り。

その香りに、我に返った。

一気に視界の白が消え、世界が戻ってくる。

「なんだよ…今の…」

ハーテスの言葉に、はっとしてそちらを振り返る。

彼は扉に寄りかかって、呆然とこちらを見ていた。

「はーくんも見た?」

「見たっていうか…なにも見えなかったというか…。とにかくすごい光で真っ白だっただけだけど」

「女の子、見なかった?!」

ユイヒの真剣な声にハーテスは少し瞠目してから首を横に振る。

「悪い。光が強すぎて目を瞑ってた」

「そっか」

結局あの子は誰なのだろう。

不思議に思いながら、今度は手を見る。

前に差し出した手は、ちゃんと落下物を捕まえていた。

「これは…石板?」

手にした石板は、そこまで重くなくひんやりと冷たかった。

ユイヒが4つのくぼみを撫でていると、上から声が降ってきた。リッシェの声だ。

「ユイヒ、ナイスだ!」

「りっちゃん!」

「すぐ下に行くから待ってろ」

頼もしい力強い声。ユイヒは顔を綻ばせる。

「はーさんいます?」

奥の方からクォーレの声もした。

「階段めんどいんで、エレベーター動かしてほしいんですけどー」

ハーテスが無言で手動エレベーターに目をやる。そして、一言。

「ふざけんな!」

こっちも疲れてんだぞ、とぼやきつつ、エレベーターへと向かう彼は優しい。

仲いいなぁ、とユイヒはこっそり笑った。


「やー、地上に帰還!」

一階に戻ってきたクォーレたちは、嬉しそうに伸びをした。そのあと、ユイヒが手にしている石板を見て、表情をさらに明るくした。

「ユイヒ、とってくれてほんとにありがとな」

「ううん。たまたまだよ!」

「てか、何で下に石板落としたんだよ」

ハーテスの素朴な疑問。クォーレが、後頭部に手をあてながら

「なんか時計台守的な人に殴られましてね。奪われないためにリッシェさんが咄嗟に投げ捨ててくれたんです」

「え、大丈夫だった?!」

「ええ。あの人は突然静かに戻りましたからね…」

クォーレの言葉にリッシェも小さく頷いた。

「なんだか強い光のあとからだよな」


時は少し遡る。リッシェが石板を捨てたあたりまで戻るが、あの直後、ユイヒが登場して石板を受け止めた。

それを確認する前に、時計台の中に強い光が満ちた。

なんだかわからないままに、あまりの光にリッシェも目を瞑る。

しばらくして光が消えてみると、背後の時計台守の足音がゆっくりと遠ざかっていくのが聞こえた。

――え?

振り返る。

彼はただ夢うつつな表情で、窓際へと歩いていく。

そして静かに椅子に腰掛け、そのまま動かなくなった。

リッシェはおそるおそる階段を離れ、倒れていたクォーレを揺さぶる。

「おい、大丈夫か?」

「はい。情けなくてすみません」

殴られた頭を抑えながら、クォーレは立ち上がる。目も泳いでいないし大丈夫そうだ。

「それより、あの人ですよね」

クォーレが時計台守を見やる。

ただただ静かに座るその人は、襲ってきたあの人とは別人のようだ。

待っていてください、とリッシェを制してクォーレが彼に近づいた。

「あの…」

「ここにはなにもない。出ていけ」

短い返事に身をすくませて、クォーレはもう少しがんばる。

「あなた、僕を殴りましたよね?」

「ここにはなにもない。出ていけ」

同じ返事。これはまさか。

覚えのある状況に慌てて質問を重ねる。

「あなたの歳は?」

「ここにはなにもない。出ていけ」

クォーレは、ゆっくりと振り返った。

「リッシェさん」

「あぁ」

時計台守は、彼らが時計台にくる前の街の人と同じ、意思のない人に戻っていた。


「そういえば、俺も光のあとから人々が扉を押さなくなったな」

リッシェの言葉を受けて、ハーテスがはっとして言う。

かんぬきのされた扉も、向こうから押されてガタガタいうことはない。

ユイヒは石板を胸に抱いて言う。

「私が石板に触ったとき、光ったんだよね…」

「ってことはやっぱり石板が関係しているのか」

聖女アンヌがクリスタルを収めたという石板。今ここにはクリスタルはないが、なにかしらの役割を果たしたのだろう。

クォーレが肩をすくめた。

「ずっとこうしていても仕方ありませんし、外、見てみますか」



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