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色彩の契り  作者: るしょう
第一章 リーラ
12/26

紫11

「リッシェさん、蛙とか、好きですか?」

「蛙か?あー、まぁ、そこそこ、好きだ」

「そう、ですか。あの水かきとか、かわいいですよね」

「あぁ」

「じゃあ、カブトムシは?」

「好きだが…」

リッシェは言葉を切って、隣を走るクォーレを見た。

「話しながら、走るのって、疲れないか?」

「あぁ、それ言っちゃ、ダメですよ!考えないように、してたのにっ!」

クォーレが嘆く。

2人はまだ螺旋階段をのぼっていた。

そろそろ足も重くなり、息もきれてきた。周りの絵画を楽しむ余裕もない。

気を紛らわすための会話だったのだと気がつき、リッシェはすまん、と素直に謝る。

「すまん。気づかなかった」

「いや、このまま、迷惑、かけ続けるよりは、よかったです」

そう言って笑う彼を見て安堵したリッシェは、前方を見て目を細める。

――あれはなんだ?

「クォーレ」

低く名前を呼ぶと、クォーレも流石に空気を読んで、前方に目を凝らす。

前方には人影。どうも階段を上から降りてきているようだ。

「…人、ですかね?」

クォーレはあっさり言ってのけた。

「なんでこんなとこに人が?」

「灯台守みたいに時計台にも管理人がいたんでしょうね」

彼の説明に納得する。いや、納得している場合ではない。

「どうする?!逃げるか?」

――逃げる。

ここは螺旋階段。しかも、長い長いそれの半ばだ。逃げるということはつまり、降りることになる。そして、また昇り直さなければならないのだ。

「逃げません」

クォーレが低い声で言う。

「僕は絶対に逃げない」

その声と表情は、いつものおちゃらけた姿からは想像できないほど真剣だ。

「かっこいい言い方してるが、要はもう一度この距離を昇りたくないんだな?」

「ノーコメントでお願いします」

そういえば、クォーレは最初から螺旋階段という選択肢だけは避けようとしていた。本当に階段を上るのが嫌いらしい。

リッシェは少し考え込んで、あ、と呟く。

「思いついたんだが…」

思いついた作戦を話そうとしてから、時計台守が迫っていることに気づく。話してる暇はない。

「思いついたことがあるんだ。クォーレは囮になってくれ」

「え?あっ、はい!」

そのまま時計台守の方に走っていくリッシェを見て、思わずいい返事をしてから、クォーレは困惑した。

――単に囮って言われてもこまるんだけど…。

でも、彼女はもう走り出してしまった。ここでこのアドリブについていかなかったら、彼女を殺すのと同じだ。

疲労した脚に鞭をあて、全速力で走る。

そして、リッシェと時計台守のあいだに入り、時計台守の腹部を蹴る。ふらふらと時計台守がバランスを立て直そうとしたその隙に、リッシェは手すりを越えて、時計台守の横を抜けて上へと行く。

――なにをする気だ?

素朴な疑問は時計台守の速いパンチによって、かき消される。すれすれでよけるが、かすった頬が少し痛む。

「くっそ」

普段の敬語キャラから発されたとは考え難い苛ついた声。

殴りかかってくる時計台守をなんとかかわして、かわして、反撃のタイミングを探す。

――僕は戦闘員じゃないんですけど!!!

心の叫びを込めて、再び蹴り上げる。


と。


「クォーレ、気をつけろ!」


リッシェの叫び声。

わぁリッシェさん応援してくれるんですか嬉しいですー、とか浮ついたことを考えて前を向くと。

階段をゴトゴトと下ってくる、階段の幅と同じくらいの大きな絵画。

「ええええええええええ?!」


慌てて階段の手すりに上る。バランスとか考えている場合じゃなかった。

クォーレが上ると同時に、絵画が到着し、クォーレに殴りかかろうとしていた時計台守の脚をすくう。

「?!」

倒れた彼はそのまま、絵画に押されるようにして階段をゴトゴトと下って行く。

「リッシェさん…」

「お?」

手すりから降りながらクォーレが呼びかけると、リッシェは上から返事をした。

手すりから身を乗り出すようにして、クォーレを見やる彼女を見上げて、彼は言う。

「豪快なことしますね、あなた」

「けど、うまくいっただろ?」

「いや、僕も死にかけましたけど?!」

「だから声かけたじゃないか」

「よくある声援かと思いました!!!」

「よくある声援?」

なんのことだかわからない、と言いたげな声にクォーレはため息をついた。

「とりあえず早く上に行きましょう。僕の犠牲を無駄にしないように」

「犠牲って、まだなにも犠牲になってないじゃないか」

「僕の純情な期待を返してください!!!」


最上階まであと少し。



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