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色彩の契り  作者: るしょう
第一章 リーラ
11/26

紫10

「やっぱり、2人を残して来ない方がよかったですかね」

時計台への侵入に成功したクォーレとリッシェは、歩みを遅めて話していた。

「けどこうするしかなかっただろ」

「それはそうなんですけどね」

クォーレが後方の扉の方に目を逸らす。

室内でも、外のざわめきはよく聞こえてくる。何かもめているのはたしかだろう。

「とりあえず早く石板を見つけて、早く戻ろう」

リッシェが割り切ったような口調でそう言って、硬い表情で前を見据えた。

名策は良作とは限らない。

クォーレも頷いて、前をみて、そして再び目を逸らす。ため息を漏らしたのは、彼か彼女か。

時計台の中は部屋などに分かれておらず、一つの長く大きい螺旋階段が存在感をしめしていた。壁のアンティークな絵画や古めかしい像は、島の名品の数々だ。

螺旋階段を見上げて、クォーレが肩をすくめた。明らかに嫌そうだ。

「登るんですか?これ」

「もう一つ方法はあるぞ?」

リッシェが、左の方を示す。

そこには古風なエレベーターがあった。だいぶ初期の手動のものだ。

「いいですね!!!」

登らなくてすむのがそんなに嬉しいのか、クォーレが食いつく。

「僕が動かしますから、どうぞリッシェさん乗ってください」

「いや待て、わたしは石板とかそういうの詳しくないんだ。1人じゃ見つけられないぞ?!」

「え」

「わたしも力には自信がある。お前が乗れば問題ないだろ」

「いやいやいやいや、女性にそんなことさせるなんて、僕の紳士道に反します!!!」

紳士を目指してるんです僕!とかなんとか主張するクォーレに、リッシェは何か言い返そうとした。

が、外のざわめきが大きくなったことに気がつき、言葉を変える。

「ハーテスたちもがんばってるんだ、やるしかないだろ」

そして、返事は待たずに螺旋階段を昇り始めた。

「…やっぱりそっちになりますよねー」

心底嫌そうにつぶやいてから、クォーレも螺旋階段を駆け昇り始める。


リーラで1番高い建物である、時計台。

そこを昇りきるのは体力、否、精神との闘いだ。

2人の見つめる先の最上階はまだ遠い。


さて、視点は外の2人に戻る。

ユイヒの活躍により少し前進した彼らであったが、それでも不利な状況には変わりなかった。

疲れが出てきたのか、時計台を見上げる回数も増えてきた。

「人、増えてきたね」

ユイヒの言葉に、ハーテスは黙って頷く。

遠くを見やっても、まだまだこちらに向かってくる人々は増えている。

「これ全部相手していると、俺たちが保たないな」

ハーテスが言う。

ユイヒは、ふと何か思いついたようで、嬉しそうな笑みを彼に向けた。

「私たち、なんでここにいるんだっけ?」

「クォーレたちの援護のためだな」

「くーくんたちは、無事時計台に入ってるよね」

やっとユイヒの意図が読めた。

「要するに、いつまでもここにいる必要性はないってことか」

「そゆこと!」

確かにその通りだった。身の安全確保もそろそろ限界だ。

「…ズラかるにしても、人が集まってきすぎて逃げにくいな」

前方にも後方にも人がいる。ハーテスの銃声にも、あまり驚かなくなってきた。

「ライブのあとに出待ちされるアイドルって、こんな気分なのかな」

「よくわからん例えをするんじゃねぇ」

「うう。とりあえず、どこか建物の中に逃げ込むのが一番だよね」

「そうだろうけど」

けど。

「どうやってここを突破するんだ?」

ユイヒは、目を逸らして口をつぐんだ。

近づいてくる人々を思い出して、物干し竿を握り直して豪快なことを言う。

「物干し竿でがーっとなぎ倒して走る」

「あんた足早いの?」

「……」

無言になったユイヒに、ハーテスはため息をつく。

実際問題、あまり銃で殺したくはないし、今頼りになる武器は、ユイヒの物干し竿だけだ。彼女の案以外に案はない。

何度目かのため息のあと、ハーテスは低く言った。

「やるか」

「うん!」

ユイヒが、大きな物干し竿をおもむろに振る。

物干し竿が宙で半円を描く。その動きに合わせて、竿から逃れようと人々が後ずさる。

後ずさった人々は、その後ろにいた人にぶつかり、しばし混乱する。


――今だ!


「待て」

走り出そうとしたユイヒの肩を、ハーテスが つかむ。

「なん…」

問いかけたユイヒを、彼は無言で抱きかかえた。

――?!

彼はそのまま走り出す。

倒れた人々をよけ、向かってくる人々が避け、人のいないところを探しながら、ハーテスはなかなかの速度で走る。

「はーくん?!」

突如抱きかかえられたユイヒは、驚いた声をあげた。

「黙ってろ。あんたが走るよりこの方が速い」

失礼な言い草だが、言っていることはもっともなので、ユイヒはそのまま大人しく抱えられていることにした。



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