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色彩の契り  作者: るしょう
第一章 リーラ
10/26

紫9

「あ!見えて来ましたね!」

クォーレが嬉しそうに前方を指差す。3人も東日に目を細めながら、そちらを見やった。

大きな時計台が、日を照らされて輝いて見える。外壁は汚れ、ところどころ崩れているが、それさえもさまになっている。

4人は昨日の話のとおり、時計台に向かっていた。

「時計台って島の1番中心にあるんだっけ。わたし、来るのは初めて!」

すっかり観光気分のユイヒである。

ユイヒだけでなく、全員の表情は明るい。

明確な目的があるというだけで、足取りは軽かった。


そんなお気楽な気分でいられたのも、短い時間だった。

時計台まであと100mのところ。異変に気づいたのはリッシェだった。

「人の動きがおかしくないか」

歩みは緩めず、あたりを見回す。

確かに、4人につられるようにして、人々がゆっくりと移動している。

「俺たちを追いかけて来てるみたいだな」

ハーテスの言葉にクォーレが切り返す。

「ただのストーカーなら放っておきますけど、嫌な予感がしますね」

その声は苦々しく。

「もしかして、僕らに石板を取られたくないから邪魔するために追って来ているとか」

もしも、昨日立てた仮説があっているとしたら、4人が石板とクリスタルを手に入れれば世界は元に戻る。そうはさせまいと、この島をこのように壊した主は、人々を操って4人の邪魔をしようとしているのではないか。

「そうみたい」

ユイヒは小さな声で言う。

「時計台の門の前、人が大勢集まってる」


時計台まであと50m。

人々が明らかに4人に反応するようになった。

比較的早い動作で、4人を取り囲んで近寄って来る。

「なにが起こるのかわかりませんが、捕まりたくはないですね」

クォーレの判断が1番早かった。

「はーさん、銃弾まだ残ってますか?」

「あぁ」

「脅す要領で援護してください」

そう言って、時計台を見上げる。

「僕が走ります」

「待って!わたしも行く!」

「え」

声を上げたユイヒに、彼は驚き顔で振り返る。

その真剣な表情に頷きかけて、ふいに彼の動作が止まった。

噴水の前であんなにも見事に転んでいたのは誰だ?

「や、あの、ユイヒは待ってて」

「なんで?!」

少し遅れてハーテスとリッシェの脳裏にも、体育館に侵入する際、たいして高くもない窓に苦戦していたユイヒがフラッシュバック。

「「「いいから!」」」

3人に言われて、ユイヒはむぅ、と頬を膨れさせた。

その頭をぽんぽんとなでながら、リッシェはクォーレに言う。

「私は森の育ちだ。運動神経もそこそこいい方だぞ。一緒に行っても文句ないだろ?」

「もちろん」

むしろ頼もしいです、と付け足して笑う。

「じゃあ、ハーテス。ユイヒを任せた」

「気をつけろよ」

ハーテスはそう言って、ズボンの腰から銃を取り出す。

「行くぞ」

そして。

人ごみの少し上を狙って、まっすぐ時計台の方向に発砲する。

その直線上に、人ごみの分け目ができた。

「いってきますね!」

そして、クォーレとリッシェは、その分け目へと走り出す。

走る2人の背中を見送って、ハーテスは手首が出る程度に、袖をまくった。

「脅す要領でっつったって」

小型の銃を構えて、彼はぼやく。

「当てない方が難易度高いんだけど」

「でも、はーくん、当てちゃだめだからね!」

「わかってるっつの」

クォーレとリッシェを追いかけようとする人々の足元すれすれを狙う。

弾は狙い通りとび、石を砕いた。

人々が一歩退く。

が、また一歩、前へと踏み出す。

「キリがないな、これ」

「りっちゃんたち、中に入ったみたい」

時計台の方を見ていたユイヒが報告する。

――じゃあ、あとは自分たちの身の安全確保だけか。

ほっとして、細く息を吐いた。その一瞬が無駄だった。

「はーくん、後ろ!」

ユイヒの声に、何か考える間もなく後ろに反応する。

振り返る刹那、視界の隅に人をとらえた。距離は5mくらいか。

「っ!」

恐怖というよりも、反射神経だった。狙う、など頭に浮かぶより早く、指が引き金を引いていた。

まずい、と思ったときにはもう遅かった。

2人の目の前で、その人は血のにじむ太ももを抑えて倒れる。

――どうしたら。

ハーテスは後ずさって自分に問う。

世界がこんなになってもなお、人殺しはしたくないと思ってしまうのは、平和ボケしているだけなのか。殺してしまうのは正当防衛、しかたがないことなのか。

そうするしかなかった。それはわかっていても、人の命を仕方ないで済ませられるほど、ハーテスも、またユイヒも偽善者にはなれなかった。

動揺する2人の視線の先で、その撃たれた人の動きがゆっくりと止まる。

「はーくん」

ユイヒの小さな手が、ハーテスの服の裾をつかむ。

「あの傷、消えてる」

ハーテスの目も、大きく見開かれる。

動きが止まったその足の、弾が当たったはずの部分に、傷はおろか、血すらない。服までもがすっかり修復されている。

「どこまで壊れれば気が済むんだ、この世界は」

つぶやくハーテスの銃が、固く握られる。

治癒したその人が、再びゆっくりと立ち上がるのを見て、銃をゆっくりと空に向けた。


バンッッッ!


空に向かって打ち上げられた銃声に、立ち上がった人も、一歩後ずさる。

その隙をついたのは、ユイヒだった。

「ごめんなさいいい!」

民家の物干し竿を掴んで、横に持って人をなぎ倒す。一気に5~6人程度の人が尻餅をついた。

これには、ハーテスも驚いた。

「ユイヒ?!」

「死なないって分かってても、やっぱり殺したくないでしょ?!怪我は免れないけど、これの方が効率がいいし…!」

――たしかに。

納得はした。だけど。

――か弱くて鈍感な女の子じゃなかったのか?!たしかにこれなら運動神経は関係ないけど…!

フリルのついた服を着る小柄な可愛い彼女が選んだ戦法はあまりにも豪快で。

「人って見た目じゃないのな」

驚きを隠せないハーテスだった。



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