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きみの家まで30秒  作者: 柏原みほ
高校2年『級友、それとも』
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委員決定(月曜日)

 幼馴染みである彼とは、帰宅したら勿論話す機会は多分にあるのだけれども、学校で話すのは何だかちょっと新鮮というかドキドキする。

 そんな事を考えて、自分の席で密かに鼓動を速めていたら「当たり」以外の人が徐々に帰っていって、教室内は10人程度が残るのみとなった。

 雄大と共に残っている事を知った梅香に、含み笑いで「頑張って!」と握り拳を作られて。

 何も言えずに苦笑だけを返して静かに深呼吸をした。


 ……ユータも当たり? お互いツイてないね。


 懸命に考えた()り気無い科白(せりふ)を口の中でブツブツと練習しつつ教卓の周りに集まる人達に近付くと、話したい本人と目が合った。

 確かに一瞬合ったのに。

 時間にして0.5秒位でその視線は逸らされて、他の男子と他愛もない話をしてる。


 そこまで徹底的に無視しなくても……!


 僅かに下唇を噛みつつ一歩下がってその光景を眺めていたら、後ろから声を掛けられた。


「高橋さんも当たったんだ?」

「えっ……」


 振り返ると、そこには今朝ぶつかりそうになった彼がにこやかに微笑んでいた。


「あ……守田くんも?」

「そう。お互いツイてないよね」


 雄大に言おうと思っていた事を全て言われてしまって、どうしようもなく苦笑を漏らす。


「この中だったらどれにする?」


 黒板を指しながら問われて、顎に手を当てて「うーん」と暫し悩む。


「……図書委員かな?」

「あっ俺も」

「守田くん本好きなの?」

「うん。すごい好き」


 にっこり笑った彼につられて笑みが溢れる。


「高橋さん、どんなの読むの?」

「えっとね……」


 問われるままに有名ミステリー作家の名を挙げると、守田くんの瞳が煌めいた。


「良いよね! 俺もすごい好き」

「ホント?」

「うん、あの刑事の最新作読んだ?」

「読んだ! ラストすっごい意外じゃ無かった?」

「意外意外。完全にやられたよね」


 思わぬところで話の合う人に出逢って自然に声が弾む。

 暫く盛り上がったその話題は、ガラリと大きな音と共に教室の前の扉が開いて担任が顔を覗かせた事で終わりとなった。


「決まったか?」


 担任の問い掛けに口々に「未だです」と答えると、彼はぐるりと一同を見渡して、手近に居た男子を議長に指名してから教室の隅に置かれたパイプ椅子に腰を下ろした。


「あー……えーと、じゃあ希望を聞きます。希望者多数の場合はジャンケンで」


 一同の無言を意義無しと捉えて、黒板をチラリと見た即席議長が口を開いた。


「じゃあ、まずは学級委員長希望の人」


 委員長の性別は決まっていないので全員にチャンスが在るのだが、そんな役目は嫌だと誰もが思っているのか、みんなチラチラと顔を見合わせて俯き加減で黙ったままだ。

 しかし、その補佐で仕事らしい仕事が無い副委員長には男女合わせて4人もの手が挙がり、続いて生活委員、体育委員の希望を取っている間、隅っこで大ジャンケン大会が繰り広げられていた。

 校内ゴミ拾い等に駆り出される生活委員は予想通り不人気で、議長自らも希望した男子の体育委員もジャンケンの様だ。


「……続いて図書委員」


 言われてハイと挙手すると、私の他は、守田くんと雄大。


「あー……では、女子の図書委員は高橋さんに決定です。男子はジャンケンお願いします」


 無事に希望の委員に決まったのは良いけれど、明らかに不機嫌な雄大のオーラが怖い。

 集団から少し離れた処に移動する二人から一歩離れて後に続く。


「ゆ……ユータ、本好きだっけ……?」


 何だかピリピリした雰囲気を解そうと雄大に話し掛けたらジロリと睨まれた。

 ……だから怖いって。

 それは長年の付き合いで何と無く感じるものでは無く、きっと誰が見ても不機嫌に見えるだろうと思う。


「坂井は本とか特に好きじゃないんだ?」


 守田くんのその科白(せりふ)は、どうも本人では無く私に向けられたものの様で。


「や……えーと……」


 雄大を気にしながらモゴモゴと口篭ったら「いいだろ別に」と遮られた。

 内心ホッとしていたら、守田くんが雄大に向かってにっこりと微笑んだ。


「坂井は何で図書委員希望なの?」

「………楽だから」

「それなら文化委員のが楽でしょ」

「……」

「図書、俺に譲ってよ」


 表情はにこやかで口調も穏やかなのに、張り詰めた空気は緩むどころか、その度合いを増した。


「……譲れない」


 それはまるで、私の事を譲れないと言われた様で、無意識に鼓動が速くなる。

 ドキドキしながら密かに雄大を見つめていたら、守田くんが更に突っ込んだ。


「何で? 高橋さんと一緒に居たいから?」


 あまりにもストレートな質問にドキンと大きく心臓が跳ねる。

 驚いたのは雄大も同じ様で、一瞬瞳を見開いて守田くんを見つめた後、睨む様に彼を見据えている。

 雄大は何て答えるんだろう。

 肯定してくれたら、嬉しくて今夜は眠れないかも知れない。

 思いきり期待して見つめる私には目もくれずに深い溜息を放つ雄大。


「……んな訳ないだろ。アキラなんか、飽きる程一緒に居るっつーの」

「そう」

「いーからジャンケンだろ? 早く」


 ……「なんか」なんだ、私って。

 確かに、物心つく前からの付き合いだから長いけど、飽きたんだ……


 沈んでる私の前で行われたジャンケンで3回のアイコの末、雄大は負けた。


「よろしく、高橋さん」

「……あ、うん……よろしく……」


 にっこり笑った守田くんに何とか返事はしたけど、とても笑顔は返せなかった。

 残りの委員が決められている間、適当な席に座ってその様子を眺める。

 守田くんが隣で話し掛けてくれてたけど……自分でも呆れる程に上の空。


 数分後、全員の役割が決まって、担任が述べる委員の心得などを右から左に流しつつ小さく溜息を吐いた。

 斜め前に座る雄大に視線を移すと、彼の隣に同じ委員に決まったらしい女子が笑顔で話し掛けている。

 緩く巻いた長い栗色の髪が良く似合う、きっと学年で5本の指に入るであろう可愛い子。

 名前は藤咲可憐(ふじさきかれん)という。



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