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きみの家まで30秒  作者: 柏原みほ
高校2年『級友、それとも』
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始業式(月曜日)

高校2年になりました。

「……あっ」


 高校生活2年目が始まって、クラス替えが発表された掲示板の前で思わず出た声。

 自分の名前より先に見つけた『坂井雄大』の文字と、その斜め下ぐらいにあった『高橋晶』……


「よお!」


 私が微かな声を出した直後、パァンと背中を叩かれた。

 誰かは振り向かなくても判る。


「もー、痛いなっ」


 文句を言った私にはお構い無く満面の笑みの雄大。


「同じクラスって久し振りだな」

「そーね」


 その笑顔に一瞬見惚れてしまって、照れ隠しもあって素っ気ない返事。


「何だよ冷たいな、嬉しいのはおれだけ?」

「……ッ」


 僅かに逸らした顔を覗き込まれて顔が熱くなる。

 その頬を慌てて両手で隠して、周りを気にして声のトーンを落とした。


「ねえ、内緒にしてよ?」

「何を?」

「だから、その……私達のこと……」

「付き合ってること?」


 ズバリ言われて、慌てて口に人差し指を縦に構える。


「なんで?」

「はっ恥ずかしいから!」

「何が。おれが?」

「違っ……ユータが、とかそういう意味じゃなくて……」


 モゴモゴと口籠もって困って俯くと雄大が溜息。


「……分かったよ、言わなきゃいいんだろ」

「あ、うん……ありがと……」

「じゃあな」


 私を見ずに一言告げて、教室の方へ歩いて行った。

 自分で内緒にしてって言ったのに、胸の奧がツキっと痛くなって、去って行く背中を見つめて。

 数秒後、大きな溜息を地面に落とした時、トントンと背中を叩かれた。


「あーきらっ」

「梅ちゃん! おはよ」

「また同じクラスだね、ヨロシク」

「こちらこそ」

「ユータくんも一緒で……」

「あッ」


 慌ててシーッと指を口に当てる私に、梅香は数回瞬きをして声を潜めた。


「……内緒なの?カレシ」


 無言で頷く私に小さく溜息を吐いた。


「別に、校則で規制されてるわけじゃないし」

「や、恥ずかしいし……」

「………わかった。誰にも言わないよ」

「ありがと、梅ちゃん」

「どういたしまして。教室行こ?」


 その後、取り留めもない話をしながら新しい教室のドアを開けると、目の前に男子の制服。

 危うくぶつかりそうになって、慌ててよろめいた。


「ごっゴメン!」

「いや、僕もごめん、高橋さん」


 名前を呼ばれて驚いて視線を上げた。


「……守田くん……」

「久し振り。大丈夫?」

「あ、うん……ごめんね、よそ見してて……」

「いいよ、気にしないで」


 にっこり微笑んで廊下に出て行った彼の背中を数秒見つめて梅香に視線を移す。


「……びっくりした~……」

「晶、知らなかったの? 同じクラスだって」

「見てなかった……」


 自分の名前と、雄大と梅香は確認したんだけど……


 守田くんは、中学の時に私に告白してくれた、雄大曰く『物好きな人』で。

 すきな人が居るって断ったんだけど、その時の淋しそうな笑顔が未だ胸に残っている。

 すごくいい人なのに、申し訳ないなぁ…


 何処かへと遠ざかっていく守田くんの背中を眺めて感傷に浸っていたら、制服の袖をツンツンと引っ張られた。


「ちょっと、晶」

「え?」


 声を潜めた梅ちゃんを振り返ると、眉間に軽く皺を寄せて教室内を小さく指差した。


「カレシ見てるけど。他の男を凝視してていいの?」

「えっ」


 言われて雄大に視線を移したら露骨にフイと顔を逸らされた。


 そんな思いきり逸らさなくても…

 やましい事は何も無いんだけど、何だか少し後ろめたい。

 「ごめん」って言うのも何かちょっと違う気はするけど、後でフォロー入れようかな…


 それっきりこちらを見ない彼の背中を眺めて小さく溜息を溢した。


***


「はい、席に着いて」


 始業式が済んで暫く経った後、新担任が名簿を手に教室に入ってきて告げると、騒がしかった集団が徐々に静かに落ち着いた。

 とりあえず名前の順に並べられた仮の席から右斜め前に視線を送ると、雄大の後頭部が見える。

 時々、彼が首を動かすと僅かに横顔も見える。

 その顔から今の心情は窺えないけれど、朝のアレっきり目を合わせようともしない彼はきっと怒っているのだろう。


 関係を内緒にしてって言った事?

 守田くんを暫く見てた事?

 (いず)れにしても、そんなに怒らなくても……


 密かに溜息を吐きつつ、回ってきた箱の中から何気無く一枚の紙を引いたら、その紙に「当たり」と書いてあった。


「………は?」


 当たり?何が??

 全然担任の話を聞いていなかったせいで、その紙の意味が全く解らない。

 瞬きを何度か繰り返して回りを見渡している間に、どうやら全員がそのクジを引き終わったらしい。

 掌サイズの紙を両手で拡げるように持って担任の顔をキョトンと眺めると、父親ぐらいであろう歳の彼が(おもむろ)に口を開いた。


「当たりを引いた人は残って役割を決めるように」


 役割??

 更なる疑問符が大量に頭に浮かんだけど、黒板に並ぶ文字と照らし合わせて何となく状況が呑み込めた。

 そこには、学級委員を始め、幾つもの委員の名称が羅列してある。

 進んでそれらに立候補する人がそう居るとは思えない。

 だからきっと、この紙はその何とか委員に大当りの貧乏クジ。

 新学期早々、ツイてない…

 そう思って深々と机に向かって溜息を吐いた時、右斜め前から聞こえてきた会話にピクッと顔を上げた。


「なあ坂井、何か食って帰らねえ?」

「あー、でもおれ当たりだからさ」

「わー、カワイソー」

「なら代われよ」

「無理」

「即答すんな」


 雄大も当たり?

 じゃあもしかして、同じ委員になれたりする?


 昨年度と同じなら男女一人ずつで構成される筈だ。

 同じ委員なら、委員会とか召集されても一緒に行動出来るし、例え仕事絡みだとしても教室で話す機会も増えるかも?

 ……そりゃ、交際していると宣言してしまえば話し放題かも知れないけれど、好奇の視線に晒される事は目に見えている。



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