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きみの家まで30秒  作者: 柏原みほ
高校生編
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ココロの距離 2

「誰がバカだよ」

 ムッとして呟いた雄大の持ってる紙袋から、可愛いラッピングが幾つも見えて胸がズキッと痛む。

「……相変わらずモテモテで良かったね」

 こんな事を言うつもりじゃ無いのに。口にした直後に物凄い後悔で、泣きそうになった。もう、笑って渡せない。

 雄大の顔を見ていられなくて、くるりと背を向けて家に向かって歩き出す。

「別に、全っ然モテないし」

「それだけ有れば充分でしょ?」

「……ヤだ」

「何個貰えば気が済むの?!」

 思わず声を荒くして振り向いた私に哀しそうな表情で呟いた。

「……すきな奴に貰えなかったら意味ねーよ」

 雄大の口から出た、すきって言葉が胸に刺さる。誰? なんて、もし私じゃ無かったらと思うと怖くて訊けなくて。

「そう……」

 辛うじて消えそうな声で相槌を打って視線を逸らした。背中に感じる雄大の気配が痛い。

「……アキラ、は……?」

「え?」

 モゴモゴと呼び掛けられて、思わず立ち止まって振り返る。

「チョコ誰かに渡した?」

 目を合わさない雄大を暫く眺めて小さく頷いた。

「……うん」

「え? マジ?」

「渡したよ」

 実は梅香だけど。味見して貰いがてら、友チョコを渡した。

 そんな事を言って、雄大の反応が見たかったんだ。誰だって訊くかな。妬いてくれたり……するかな。

 バクバクしながら固まっていたら、雄大が躊躇いがちに口を開いた。

「……返事貰ったのか?」

「え? ううん?」

 予想外の質問にキョトンと答えてしまった。そうしたら、暫く訪れた重い沈黙の後、ちょっと淋しげに微笑んで呟かれた。

「いい返事、貰えたらいいな」

 え……?

 全く予想していなかった展開に目の前が真っ暗になってしまって、茫然と立ち尽くす。他の人と上手くいけばいいって……やっぱり、私達付き合ってるとかじゃなかったんだ。雄大の『すきな奴』も私じゃ無いんだ。そんな現実を突き付けられた様で、身体が動かない。走り去ってゆく雄大の背中を茫然と見つめて、冷たい雫だけが頬を濡らした。


 天罰かな。卑怯な事考えないでちゃんと気持ち伝えてたら、こんな事にならなかった? でも、どっちみち玉砕か。もう、雄大の隣の家なんか帰れないよ。

 景色を涙で滲ませながら当てもなくふらふら歩いて、通り掛った小さな公園のベンチに腰を降ろした。

 此処は一体、何処なんだろう。真っ暗で静まりかえった公園は凄く不気味で、この世の中に自分独り取り残された様な気分になる。ぼんやりと夜空を眺めて座っていると、雄大の事ばかりが脳裏に浮かぶ。

 只の幼馴染みだった頃に戻りたい。そうしたら、こんなに苦しい想いをしなくても済んだのに。散々泣いたのに、まだ涙が溢れてくる。

 どうしたら忘れられるのだろう。胸の中が雄大で一杯で苦しい。フラレたのに、益々好きで堪らない。どうして素直に言えないんだろう。変な意地ばっかり張っちゃって。

「バカ……」

 こんな自分は大嫌い。すっかり沈んで泣きじゃくっていたら、不意に腕を強く掴まれた。吃驚びっくりして見上げると、血相を変えて息を切らした雄大が其処に居た。

「ユー……タ」

 どうして? 思わずヒクッと泣き止んで立ち上がりかけた私は次の瞬間、思いきり怒鳴られた。

「ッ馬鹿、何やってんだ!! 心配すんだろ!!」

「……ッ」

「お前が帰って来ない、携帯も出ないって、おばさん半泣きで……」

 言われて時計を見たら、もう10時前だった。

「…………ごめ……」

「何で?」

「え?」

「何で……そんな泣いてんだよ」

「……」

「今日告った奴に何か言われたのか?」

 その言葉に、帰り道での雄大を思い出して、新たな涙が迫り上がる。

「誰だよ」

「……」

「そいつの事ぶん殴ってやるから言えよ!」

 私の両肩を強い力で掴んで、真剣な声で問い詰める雄大が怖くて、泣きながら首を横に振った。

「……そんなに其奴そいつがすき?」

 違うよ。私がすきなのは……! 声にならなくて、ただただ首を振って泣いてたら不意に抱き締められた。

「何でおれじゃ駄目なんだよ!」

 突然の事に頭が真っ白になった私を、更に強く抱き締めた。

「約束通り背だって伸びたし、今日のチョコだって丁重に全部断ったのに」

 その言葉にびっくりして雄大を見上げた。

「嘘……だって、今日持ってたじゃない」

「マネージャーと担任がくれた義理チョコ?」

 そんなのに怒っていたなんて馬鹿みたいだ。唖然と雄大を見つめた後、俯いて大溜息を吐き出した。

「ゴメン」

「何が?」

 切ない声で呟いて腕の力が緩んだ雄大から離れて、力無くベンチに座って鞄を開けた。

「梅ちゃんだよ」

「え?」

「今日、チョコあげたの」

「え? だって」

 状況が全く飲み込めていない雄大に、ラッピングした塊を押し付けた。

「初めて作ったの」

「へ?」

「ユータが私の事を何とも思ってなくても、私はユータが」

 心臓が爆発しちゃうんじゃないかってぐらいバクバクしちゃって、段々声が小さくなってゆく。

「……すきなの……」

 消えそうに呟いた最後の台詞から一拍置いたあと、再びチョコごときゅうっと抱き締められて身体中が燃える様に熱い。

「……あのさぁ、アキラ」

「ハイ……?」

「さっきの科白せりふをどう取ったら、おれがアキラを何とも思ってない事になる訳?」

「ッだ、だって、他の人と上手くいけばいいって……!」

 思い返して再び涙の溢れた私の頬を、壊れ物に触れる様に彼の指先が拭った。

「……他の奴にチョコあげた、なんて言われたらそう言うしかないだろ」

「何で簡単に諦めんのよ」

 理不尽な私の言い分に、怒る訳でもなくハニカんだ。

「もしかして、妬いて欲しかった?」

「べっ別にッ!」

 真っ赤になった私の頬を包み込むように撫でて、真剣な眼差しで見つめる雄大から視線が逸らせない。

「……めちゃめちゃ妬いたよ」

 囁いた次の瞬間、雄大の顔が間近に有ってビクリと身体が震えた。と、同時に唇が触れた。一瞬だったけど、唇に凄く柔らかい感触。

 ………キス……された……?

 暫し頭が真っ白になって、それから勢い良く顔から火を噴いた。

「……やっと出来た」

「ふえ?」

「ずっとしたかったけど、キッカケ全然掴めねーし」

 ボソボソと呟く雄大に顔も胸も熱い。

「……もっかいしていい?」

 呟いた雄大にドキドキしながら瞳を閉じたら、さっきよりゆっくりと唇が重なった。

 ……アキラがすきだ……

 そっと離れて囁かれた言葉に胸がきゅうんと締め付けられて、ドキドキが益々激しくなった。

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