表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きみの家まで30秒  作者: 柏原みほ
高校2年『級友、それとも』
14/56

本音(火曜日)

「ゴメン……」


 横になってフウッと息を吐き出しつつ小さな声で謝ったら、雄大が怖ず怖ずと私の頭を撫でた。


「これぐらいならOK?」

「え? うん……」


 キョトンと返事をした私に小さく溜息が降った。


「……アキラに触れたら固まるから、おれに触られんのは嫌なのかと思ってた」

「えっ」


 ……いや、確かに固まるかも。

 でもそれは嫌だからとかじゃなくて、緊張してどうしようもないから。

 暫く口をパクパクして、引っ張り上げた掛け布団に顔を半分埋めながら小さな声で告げた。


「ごめ……恥ずかしくて」

「うん?」

「ユータに触られたら、っその……ドキドキし過ぎて壊れそうで……」


 言いながら、熱い顔をおでこまですっぽりと布団に潜らせた。

 体内で激しく踊る鼓動に圧されて、益々小さな声になりながら、必死で胸の内を吐露する。

 いつもなら、こんな恥ずかしい事なんて絶対に言えない。

 でも、今言わないときっとずっと誤解されたままだから。


 相当思いきって告げたのに、雄大からは何の反応も無くて不安が募る。


 聞こえなかった……? もう一回同じ事を言うなんて、そんなっ……!


 内心半泣きになりつつ恐る恐る布団から顔を出したら、雄大が大きな手で顔を覆ってカクッと項垂れてた。

 よく見たら、手からはみ出している額と耳の辺りが赤い……?

 思わずまじまじと見つめていたら、ふと瞳が合って、その視線をフイと逸らされた。


「見るな」


 言葉は乱暴だけど、照れ隠しがありありと感じられて体温が上がる。

 どうやら、飽きられた訳でも嫌われた訳でも無さそうなその態度が嬉しくて、目頭がジンと熱くなった。


「ユータ……」

「……何だよ」

「もう教室戻る?」

「いや。どうせ半分以上終わってるし、2限はサボる」

「そっか」


 呟いた私に、「邪魔なのか」とでも言いたげな視線を落とす雄大を見上げて、静かに息を吸い込んだ。


「あの……じゃあ、っ手……繋いでても、いい……?」

「え?!」


 頓狂な声を発して驚きの眼差しで固まった雄大に、布団の隙間から怖ず怖ずと手を差し出す。

 私の顔から差し出したその手に視線が移って数秒、ピクリとも動かず凝視してる雄大に居心地が悪くなって「ゴメン」と引っ込めかけたら、指先にチョンと彼の指が触れた。

 たったそれだけで、電流がビリビリと身体中を駆け巡って息が止まる。

 自分から言ったのにもかかわらず、すっかり硬直している私の指を遠慮がちに撫でて、やがて大きな掌できゅっと包んでくれた。


「……ここに居るから暫く寝ろよ」

「……うん」


 ……嬉しい。でもちょっぴり複雑な気分。

 小さい頃に熱を出して、同じ様に手を握って貰った事があった。あの時も確か「僕ここにいるからアキラちゃん寝てなよ」って言った。

 変わらない優しさは嬉しいけれど、あれと同じだって思ってるのかな。

 当時の何十倍も勇気出したんだけどな……


 僅かに込み上げた切なさは、指先から全身に巡るドキドキに溶けて消えた。

 速い鼓動が気になって、とても眠れないかと思ったけれど、包まれてる安心感なのか知らずふっと意識が遠退いた。


***


 次に気付いたのは辺りにチャイムの音が響いた時だった。

 雄大は……居ない。


 夢……じゃないよね?

 温もりの記憶の残る手をゆっくりと開いてきゅっと握り締める。

 そしてムクリと起き上がってぼんやりした頭を数回振った。左腕の時計に視線を落とすと、既に昼休みの時間になっている。自分のあまりの熟睡ぶりに小さく苦笑を漏らした。


 よく眠ったからだろう。すっかり軽くなった身体で、両手を上に挙げてウーンと伸びをした。

 貰ったスポーツ飲料を飲もうと枕元に視線を移すと、ペットボトルの下に見慣れた字で書かれたメモが挟んであった。


『昼休みにまた来る』


 また来てくれるんだ……

 何だかそわそわして手櫛で髪を整えていたら、カラリと扉の開く音。


「起きたんだ?」


 カーテンの隙間から覗いた雄大が、ホッとした顔で中に入ってきた。


「顔色良くなったな。もう平気?」

「うん、ありがと」

「んじゃ飯食お」


 ハイと差し出された自分の鞄を、両手で受け取ってキョトンと訊ねた。


「ここで?」

「嫌?」

「や、ううん、いいのかな」

「いいに決まってんだろ」


 ……それは決まってないと思うけど……

 再び事も無げに即答した雄大に苦笑を返す。その間にも既に弁当を拡げて食べ始めた彼を見て鞄から弁当箱を引っ張り出した。


「いただきます」


 蓋を開けた私のお弁当に雄大の視線が絡む。


「アキラの母ちゃん相変わらず旨そうな弁当作るな」

「そう? ユータのも美味しそうだよ?」

「ウチは量がありゃいいと思ってるからさ」


 (あなが)ち間違ってないけど、と呟いて続きを食べ始めた雄大に自分の弁当箱を差し出した。


「よかったら、どれか食べる?」

「え? 食欲ねーの?」

「そうでもないけど、1つ2つ減っても大丈夫だよ」


 実は、思いがけず訪れたこの機会に浮かれていた。

 一緒にお弁当を食べるなんて、付き合ってから初めてだから。何かデートっぽい、よね? だから、お腹が空いてないとは言わないけど、胸が一杯であまり沢山入りそうにない。

 自然と弛む頬が恥ずかしくて、モゴモゴと「どうぞ」と告げると雄大が頭をポリポリ掻いた。


「……じゃあ、これ……」

「いいよ」


 指差したインゲンの肉巻きを、取らずに見てる雄大に小首を傾げたら、何故か彼の頬が染まった。


「……あの、さ」

「うん?」

「スゲー恥ずかしい事言っていい?」

「へ?」


 キョトンと問い返したら、雄大が再度頭を掻いて口を開いた。


「……食わせて、それ」


 えっ。えええ?!!

 何? それって要するに、「はい、あーん」て事?!

 思わず、手にした弁当箱を取り落としそうになりながら、頭の先まで真っ赤に染めた私から僅かに視線を逸らす。


「やっぱダメ?」

「……ッ」

「だって、二人っきりで弁当なんて初めてだしさ……」


 雄大もそう思ってくれてたんだ……?


「教室じゃ絶対出来ないだろ。だから」

「……」



甘々モード突入。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ