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成功は失敗の積み重ね、・・・のはず。



「川上さん」



仕事帰り、二人は駅まで一緒に帰る事が多かった。



「何ですか?」



「川上さんって、彼氏いる?」



「・・・何ですか、突然」



明らかに狼狽した様子の彼女に、田邊が笑った。



「やだ、そんなに慌てなくても」



「あ、慌ててなんか」



「川上さんって、27歳だっけ?」



秋も中盤。



太陽は既に西の空に沈みかけている。



行き交う人は、足早に家路を急ぐ。



「そうですけど」



彼女は常に冷静沈着だった。



「ううん。ただね、今日の花岡さんも27歳で同い年だし、



結構ああいう感じの人とか、お似合いだなって思って」



田邊が、悪戯っ子のような笑いを浮かべる。



「何をおっしゃりたいのですか」



いつにも増して鋭い声で、返答が帰ってくる。



しかし、長い付き合いの彼女には分かっていた。



「いいえ、別に」



それが、彼女が動揺している証拠だという事に。



田邊は少し飛鳥の前を歩き始めた。



そのステップは、体格から想像できないほどに軽いものだった。



突然、軽快な電子音が鳴り響いた。



「あら、娘からだわ」



田邊が急いで持っていたハンドバッグを荒らし始める。



「もしもし?うん・・・」



彼女は、そんな田邊の後ろ姿をぼんやりと眺めながら歩いていた。



「・・・芸能人に恋するような年でもないって言うのに」



彼女は着ているジャケット襟を立て、吹き付けてくる風の冷たさに思わず首を竦めた。



頬の上のガーゼに手を置き、擦る。



昨日の殴られた痛みが、少しだけぶり返してきた。



「・・・そもそも、彼氏なんて今の私には邪魔な存在にしかならないわ」






















「・・・で?」



酔いで赤らんだ顔で、鈴木が顔を近づけてくる。



「え?」



出鱈目な鼻歌を歌いながら、幸せな笑いではちきれそうな花岡の顔が、そこにはあった。



「『え?』じぇねえよ。



名前も聞けて、会話も盛り上がって、3人で一緒に出口まで行ったんだろ?



それで、帰り際、メアドを交換したり会う約束をしたりしたのかって聞いてんの」



そこは花岡のマンションの部屋だった。



鈴木と花岡の二人は缶ビールとおつまみ数種類を手に、2日連続の飲み会を開催していた。



しかし、今日は昨日とは違った趣旨のものであったが。



花岡は鼻歌を止め、裂きイカを手にして、口に咥えながら呟いた。



「・・・してない」



鈴木が口に含んでいたビールを噴出しそうになり、



急いで傍に置かれていたティッシュで口を拭いた。



「お前ぇ!この脳みそには恋愛の「れ」の字も無いのか?何で肝心な時にいつもそうなんだよっ!!」



彼が怒ってビール缶を持った手をテーブルにたたき付けた。



突然の彼の怒りに、花岡は戸惑った。



「そ、そんな。だって無理だよ。あんな状況でなんて・・・」



あまりのイラつきに、彼が自分の頭をぐしゃぐしゃ、と掻き毟る。



「あぁ~。何でお前って何時まで経っても奥手なんだよ。



大学の時からもそうなんだもんなぁ・・・。



ほら、サークルで一緒だった・・・名前忘れたけどさぁ。



何とかちゃん。一つ下の。



あれだってさぁ、俺が頑張って



お前の為に色々ダブルデートをセッティングしてやったりしたのに、



お前が煮え切らない態度取るから、部長に結局取られたんじゃん。



それに、この前はアイドルの・・・何とかちゃん。



名前忘れたけど。



あれだって、俺がさぁ、せっかく携帯の番号とメアドを・・・」



「あーーー!!昔の傷を掘り返すなよーーー!!」



花岡は両手で耳を抑え、顔を勢いよく横に振る。



鈴木は項垂れたように下を向き、手を裂きイカの袋に伸ばす。



「わ、分かったよ、今度は・・・」



「いつも同じ事言ってるよなぁ」



彼が新しい缶ビールの栓を開けた。



「う・・・。でも、次は絶対に誘う!



これは運命だ!



彼女と僕は、出会うべくして出会ったんだ。



だから、もし今度会った時は、絶対にご飯に・・・!!」



「もう会わずに済むって言われたんだろう?」



2枚目かつワイルドと呼ばれている男が裂きイカを口にいっぱい咥えている姿は、



あまりにも滑稽で見ものではあるが、



今の彼にとってはそれ所ではなかった。



「・・・あ、あぁーー!!」



花岡は、まるでかの名画、ムンクの叫びのごとく、両手で頬を抑えながら叫んだ。



「ったく。もう駄目じゃん。



今日はせっかくのチャンスだったのに。



だからいつも女を逃すんだよ。



今日は何の為の飲み会なんだよ。



昨日は自棄酒、今日は祝杯じゃねぇのか?



これじゃ、ただの反省会且つ自棄酒だっつうの」



ぐい、と先ほどふたを開けたばかりの缶ビールを飲み干して、鈴木は立ち上がった。



「悪い。今日はもう帰る。



明日午前中にロケあるんだ。お前は・・・明日は休みか」



テーブルの上で上半身を野垂れている花岡を尻目に、



彼はしっかりした足取りで玄関へと向かった。



「おい。ちゃんと戸締りしとけよ」



「・・・ふぁい」



花岡の生返事に首を傾げながらも、彼は花岡の家を後にした。






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