To be honest~正直なキモチ~(1)
「川上検事!」
病院に向かった歩道を全速力で走っていると、隣に黄色いタクシーがその車体を近付けてきた。
「乗って!病院まで送りますから」
窓からは田邊の顔が覗いていた。
彼女は足を止め、車の中に転がり込んだ。
「中央病院まで、急いでください」
田邊が運転手に念を押す。
あいよ、という声と共に、二人の体は座席に張り付いた。
「・・・大丈夫ですか?」
上下に大きく揺れる肩に、田邊が手を添える。
「私、昨日、彼に酷い事言ったの・・・」
田邊は彼女の手を両手で握った。
それは氷の様に冷たく、しっとりと湿っていた。
彼女の声は、次第に泣き声へと変わっていく。
「昨日、私が帰るまで待っていてくれていて・・・。
本当は・・・、う、嬉しかったの・・・。
でも、でも、でも・・・。
昔、あの人も、そういう風に、私を・・・。
だから、思い出して、私、迷惑だとか、そういう事を・・・」
田邊が両腕で彼女を抱きしめた。
「もう、良いんですよ、昔の事に縛られなくて。
素直でいることを、自分に許してあげてください」
田邊が優しく、飛鳥の頭を撫でた。
「田邊さん・・・。
私、本当に馬鹿だから・・・。
いつも、そう。失って、初めて・・・」
「まだ、間に合います。今回は手遅れなんかではありません」
病院の看板が、車窓から見え始めていた。
病院の入り口にはとても騒がしく、たくさんの人だかりができていた。
彼女達が玄関前に着くと、一気に大勢の人と目を開けていられない程のフラッシュに囲まれた。
「すみません!通してください!」
目の前に突き出されるマイクやカメラを跳ねて、二人は前進を試みる。
「私達は捜査機関の者です。お願いします。通してください!」
田邊が川上を守るよう、片手で彼女の手を握りながら、人の波を掻き分ける。
「通してください!捜査機関の者ですから!」
しかし、田邊の声はシャッター音とフラッシュ音で消されていた。
二人はもみくちゃにされながら、
何とかしてそこを通り抜けると、全速力で病院の受付へと駆け寄った。
「おはようございます。今日はどういった・・・」
「花岡輝は?どこ?!今すぐ答えなさい!」
突然の飛鳥の大声に、受付の看護士の目は点と化していた。
「か、患者様との御関係は・・・」
「いいから!早く!」
どん、と両手で受付の窓口を叩く。
「す、すみません。検事、落ち着いて。
私達、検察の者で、花岡さんの件について事情聴取するために参りました」
田邊が飛鳥の胸のピンバッジを無理やり引っ張って見せる。
「花岡様は、突き当りの個室でございますが、今は多分・・・ってお待ちください!」
飛鳥は脇見も振らずに走り出した。
途中で、川上さん、待ってください、と聞こえたような気がしたが、待っている暇はなかった。
心は1つの思いで一杯になっていた。
もう、後悔はしたくない。
そんな思いで。
ずっとずっと、車の中で祈り続けていた。
神様、ごめんなさい。
どんなに嫌われたって構わない。
それは自分が素直になれなかった罰だって受け入れるから。
だから、だからお願い。
神様、彼に一言だけ伝えさせて・・・。
彼の部屋が見えてきた。
戸口の隣に、「花岡輝」という名札があった。
「花岡さん!!お願い、死なないで!私まだ・・・」