To be honest~正直なキモチ~(1)
ガラスの靴の持ち主を探すため、ありとあらゆる手段を施しても見つからなかった。
それでも諦め切れなかった王子は、町中の女性にガラスの靴を履かせた。
そして、やっと、ある一人の女性が、その靴を履く事ができた。
しかし、その彼女は、光る宝石も、豪華なドレスも着ていない、
ボロボロのみすぼらしい格好をした、女性だった―。
「・・・おはようございます」
扉が恐る恐る、びっくり箱をあけるかのように、開いた。
「おはようございます」
田邊は、ちらり、と川上の方を見た。
いつもと同じ姿で、仕事机に向かっていた。
「川上さん、あの、昨日・・・」
おそるおそる、田邉がそう言い掛けた時だった。
ドアのノックオンと共に、隣の部屋の事務官が入って来た。
「失礼します。
先ほど、警察から連絡があって、
今朝の明け方、傷害の現行犯で逮捕された被疑者が数名送致されてくるそうなんです。
それで、飛び入りで申し訳ありませんがその内の1人の取調べをお願いできないかと」
「分かりました。それで、いつ頃ですか?」
彼女はいつもと変わらない冷静な態度で答えた。
「そんなに時間はかかりません。
あと20分ぐらいで到着するそうです。
あ、これ、弁録と供述調書なんで」
その事務官が、田邊に手渡した。
田邊がざっと目を通す。
「はい、分かりました。ありがとう」
ばたん、とドアがしまった。
「現行犯なら楽勝ですね。
要は被害者の怪我の具合ね。起訴するかどうかは。
物取りなら強盗致傷でいくけど」
まだ調書を見てはいないが、大体相場はつくものである。
彼女は椅子に腰かけ、仕事の準備に取り掛かった。
「そうですねぇ。
あら、結構傷害重いみたいですよ。
左足骨折、頭部打撲。
弁録とった段階でこれじゃあ、致死になる可能性もありうるか・・・も・・・」
田邊が相槌を打った、その瞬間だった。
ペン回しをしていた指からペンが床に落ち、軽い衝突音を奏でた。
「川上さん!」
同時に、青ざめた表情の彼女の声が、最大のボリューム音で鼓膜を震わせる。
「な、何ですか突然。そんな大声出さなくても聞こえますから・・・」
「ここ!被害者の名前!職業!読んで!」
ばん、と彼女の机の上に調書が叩きつけられた。
彼女が指差す部分を口に出してみる。
「氏名、花岡・・・輝・・・。職業・・・はい、ゆ・・・う・・・」
「これ、花岡さんですよ!」
ぞくっと背筋が凍る。
飛鳥の目の前の景色が、瞬時に霧の様に真っ白になっていく。
ただ、昨日の彼との残像が、頭の中で点滅しているだけだった。
「えーっと、調書によると、
今日の明け方、被疑者とその友人が公園を通りかかったところ、
自販機前に座り込んでいた花岡さんを見つけ、彼の頭や手足を金属バットで強打し、
財布や時計を取ろうとして、腕や頭に全治・・・、あれ、か、川上さん!どこへ!」
ばん!と扉が壁にぶつかる音がした。
彼女は、上着だけを手に、部屋を飛び出していた。
「か、川上さん!被疑者がもう直ぐ来ちゃうのに・・・。あ~~~、もう!!」
田邊が隣の執務室へと向かった。
「すみません!ちょっと、急なんですけど・・・」
先ほどの事務官を掴まえて、調書を押し付ける。
「え?」
「被害者、川上検事の友達なんです。
だから、今病院に行ってきて、ついでに証言も取ってきます」
田邊が体格からは想像出来ない様なスピードで走り出す。
「え?だって今朝ワイドショーで被害者はあの俳優の花岡だって。
現行犯だから、証言は・・・。ってちょ、ちょっと!!」
時既に遅し。
彼女達の姿は米粒程になっていた。