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始まりは、満員電車にて

シンデレラは、一人お城の舞踏会に行った時、


完璧なメイクに、完璧な髪型、そして完璧なドレスを纏っていた。


でも、


靴だけは、脆くて脱げ易いガラスの靴だった。


なぜそれだけ、完璧じゃなかったのか。


その答えが、この二人の出会いに隠れていたりするかもしれません。


―ガラスの靴を履いて王子様と出会った理由、知りたくありませんか?―













継母と義理の姉達にこき使われていたシンデレラ。


ある日、お城の舞踏大会に招かれるものの、


彼女はドレスも靴も宝石も無く、彼女達と一緒に行く事は出来なかった。


それでも舞踏大会に行きたかったシンデレラの前に現れたのは、魔法使い。


魔法使いは、シンデレラに魔法を掛け、彼女を美しい姫に、変身させたのだった―。











「これ、駄目ですね。動かないですよ」


「うそ・・・。ヤバイよ。後30分以内に到着しなきゃいけないのに」


車、車、車の列。


都心の道路は、朝の通勤時間帯、空から見れば、まるでそれは蟻の行列のようだった。


そして彼らは、その行列の中にいた。


後部座席の男がしきりに腕時計を見る。


何度見たって、時間の進むペースは同じなのにもかかわらず。


「何でこういう時に寝坊しちゃったんだろう」


男が頭を抱え込む。


それで渋滞が解消すれば、簡単な話だが。


「・・・仕方ないですね。こうなったら電車で向かってください」


運転席に座る男が溜息と共に言うと、助手席に置いてある鞄から何かを取り出した。


「サングラスです。これでまぁ、何とか現場まで行けると思います。


中央線の神田駅で降りてくださいね。こっちから現場に連絡しておきますから」


黒い眼鏡ケースが手渡された。


彼は急いで中身を取り出すと、それを自分の鞄の中にしまった。


「ありがとう。それじゃ現場で」


彼はドアを開けた途端、降り立ったアスファルトを蹴り、近くの地下鉄へと走り出した。













平日の朝8時、殺人的な混雑を誇る中央線に、新宿駅から乗り込むのは、至難の業である。


特に背が低ければ低いほど、その中での生き残りは困難を極める。


しかし、そんな中、人の海に果敢に飛び込む勇者たちの中に、小さな彼女はいた。


「・・・ふぅ」


人の波に飲み込まれたかのように電車に押し込まれた後、


彼女は自分の周りを囲む人の中、背伸びをして上空の空気を吸う。


自由に身動きができない中、新鮮な空気を吸うには、


これ以外の方法は、座席前での立ち位置を惜しくも逃し、


座席の端にある手摺り近くにしか行けなかった以上、あり得ない。


身長152cmの彼女は、うっかり外し忘れていたスーツの襟に付けたピンバッジの無事を確かめながら、


目的地への早期到着を祈っていた。


しかし、こういう時に限って電車の進みは遅いものである。


特に通勤・通学時間は、電車が遅れるのが常識、ともいえる。


彼女は背伸びをする足に疲労を既に感じていた。


鼻の上にずり落ちて来ていた眼鏡を直そうとするが、


手が周囲の人の体とに挟まって挙がらない。


一度体勢を立て直そうと下を向いた時、彼女の視線は、自分の斜め前に立つ女性を捉えた。


その女性は座席の前に立ち、つり革に掴まっていた。


特に気にも留めず、彼女はもう一度背伸びをしようと上を向いたが、一瞬妙な違和感を覚えた。


何が変だったのか、確認する為にもう一度その女性の方に目を遣る。


どうやら、様子がおかしい。


その女性は真っ赤な顔をして、体を震わせているようだった。


時々目をつぶり、体を動かそうとしているが、混雑故に、思うように動けないようである。


体調が悪いのだろうか、声をかけようと、接近を試みる。


体をわずかな隙間の中で捻じ曲げて近づけると、彼女のおかしい様子の原因が分かった。


(・・・この男?!)


女性の臀部に、彼女の背後に立つ男の手があった。


明らかにそれは、故意に彼女の臀部に置かれ、触れているのである。


(・・・許せない)


怒りのボルテージが一気に上昇する。


正義感が人一倍強い彼女は、無理やり手を挙げ、


ついでに眼鏡もあげ直し、体を思い切り捻じ曲げて、


周囲の睨む視線も気にせず、その男の隣に入り込んだ。


男は、特に気に留める様子も無く、その手を女性のスカート下に入れようとしていた時だった。


「ちょっと、今、彼女のスカートに手を入れようとしていましたね」


彼女はその男の手首を掴み、捻り上げた。


男は突然の事に、目を見開いていた。


「貴方の行為は犯罪ですよ。一緒に次の駅で降りなさい。


ほら、あなたも被害者だから、一緒に降りてください」


丁度電車は信濃町の駅を通り過ぎ、「次は、四ツ谷」というアナウンスが聞こえてきた。


周囲がざわつき始める。


彼女は小さいながらも精一杯の力でその男の手を引き、ドア付近へ向かおうとした。


電車が四ツ谷駅に到着した。


プシューという音と共に、ドアが一斉に開く。


たくさんの人が、ドアへと流れていった。


彼女は男の手を離さないよう、しっかり掴んだまま、駅のホームに降り立った。


混雑からの解放故か、一瞬だけふぅと気が抜ける。


その時。


「・・・はなせ!」


そう聞こえた瞬間、何かの衝突音と共に顔に大きな衝撃を感じた。


一瞬何が起こったのか分からないまま、彼女はそのまま後ろに倒れこんだ。


「・・・!?」


男は、彼女の顔を空いていた方の手で殴り、逃走を図ったのだ。


周りが騒然とする。


彼女は混乱したが、よろけながら立ち上がり、大声で叫ぶ。


「待ちなさい!誰か!その男を捕まえて!」


彼女の叫び声と同時に、誰かの声が聞こえた。


「おい!待て!」


背の高い誰かが、男の後を追いかけていた。


その人は、人ごみを掻き分け、その男に覆い被さるように後ろからぶつかって行った。


男はよろけてその場に倒れる。


彼女はようやく落ち着きを取り戻し、被害者の女性と二人の下へと走った。


「大丈夫ですか?」


誰かが呼んだのだろう、何人かの駅員が駆け寄り、


その男を制止しつつ、その一人が彼女の右頬にある痣を見て、尋ねた。


「えぇ、私は平気です。とにかく警察を呼んでください」


彼らはとりあえず駅務室へと向かう事になった。



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