カモミールの花言葉
図書館でエミリアさんと初めて出会い、
そのあと公園で読書をする僕。
本を読みながらも、頭の中では、さっき出会った彼女のことを考えていた。
結局そのあと、B区画にある公園で1時間ほど読書をし、そのあとC区画の雑貨屋に帰ってきた。入り口の「休憩中」の看板を「OPEN」の方にひっくり返し、中に入る。
「カモミール、って言ってたな…」
店には一人だったんだけど僕は声に出して言った。あの爽やかな林檎のような香り…ハーブって言ってたっけ。カモミールの香りがいいのか、それとも彼女の、エミリアさんだったから良かったのか。それとも、その両方か。
もう一度、あの香りを嗅いでみたいな。僕はそう思ったけど、なんだか変態みたいで恥ずかしくなってしまった。あ、一応連絡しておくか。僕は個人回線でコンタクトを鳴らした。相手はすぐ応答する。
「ニゲルだけど。B区画、25番。異常なしだったよ。明日も少し時間を変えて張っておく。何かそちらは?」
相手の言葉に耳…というか意識を傾ける。
「うん、わかったよ。数日内に決行だね。じゃあ」
コンタクトを切り、店内カウンターの、奥にある椅子に座る。
んー、なんか気が乗らないなぁ…。
そういえば僕のことをあまり話してなかったかな。24歳で闇属性を持っている。あと本が好き。そのくらいは言ったかな。
僕には親はいない。えーと、もちろん誰かからは生まれたんだろうけども、一緒には暮らしていないということだ。捨て子、ということである。
このC区画に、孤児院がある。そこで僕は12歳くらいまで育ててもらった。もちろん孤児も様々で、持っている属性によっては、重宝され、養子として迎えられる子供もいた。でも、闇属性の僕にはもらい手はなかなか現れなかった。
むしろ孤児院の中でも、皆に気味悪がられ、避けられた。これは僕のせいなのか。それとも属性のせいなのか。
ただ、12歳になったある日。孤児院にやってきた2人の大人が、僕を引き取ってくれた。僕は孤児院から解放された。
物心がついてから、誰かに可愛がられたり、好意を寄せられたり、大事にされたり、愛されたりしたことのなかった僕は、その時初めて愛情というものを知った。自分が存在していいのだと知った。
そして、何かの役に立つのだということを、知った。
愛情を示されることで、自分の存在意義を実感でき、更に言うと、誰かを愛することもできるようになる。僕はその引き取り先で、とても大事なことを教わった。それに今は、ちゃんと仕事もさせてもらっている。
本を読むようになったのも、引き取られてからだったな。
そうだ。明日もまた、図書館に行こう。
◇ ◇ ◇
翌日。
昨日借りた本はまだあったのだが、僕は図書館に行った。なんとなく、彼女に会えるような気がしたからだ。
B区画までゆっくりと歩き、少しずつ訪れる春の様子を体で感じた。太陽の陽射しを感じ、そして空気をゆっくり吸い込み、ゆっくりと時間をかけて息をはきだした。
図書館に入り、まずは植物のコーナーに行く。ハーブの載っている本はないかな。
ちょうど目線の位置くらいの棚に、ハーブ入門みたいなのがあったので手に取って、パラパラと開いてみる。
カモミール、カモミール…あった。
カモミール、別名カミツレ。属名マトリカリア、母の薬草とも呼ばれる。花びらがリンゴのような甘い香りがする。あぁ、それでリンゴみたいだったのか。
なになに、不安やストレスを和らげる効果、他にもあらゆる健康効果がある。へぇー、凄いんだな、カモミールって。ハーブティーとして飲むこともでき、香水・香料としても使われる。あ、エミリアさんが付けてたのはこれかな。
花言葉は「逆境に耐える」「あなたを癒す」「仲直り」か。なんか面白い花言葉だな。
えーと、栽培方法は…
「わっ」
急に、控えめの女性の声と共に、背中の真ん中あたりを軽く押された。
「わぁっ!!なになに!?」
「ちょっと〜、びっくりし過ぎじゃない?キミって面白いよね」
そこに居たのはエミリアさんだった。
「こんにちは、ニゲルくん」
図書館でカモミールについて調べていたら、
急にエミリアさんがやってきた。
え、え。夢中になって全然気づいてなかった。
めちゃくちゃ恥ずかしいな…




