女の手紙 2枚目
婚約破棄をされたのち、わたくしは有無を言わさず、修道院へ送られました。
そこでの生活は規律さえ守れば平穏で心穏やかな生活がおくれておりました。
朝食前と、夕食前のお祈りの習慣はここで始まりました。恥ずかしながら貴族令嬢の頃はさほど神様と言う存在を意識したこともなく、令嬢の嗜みとして、神殿に通う位のものでした。
朝夕のお祈りをしていると、ある日突然女神様よりお力を授かりました。
それは共にいた修道女達の目の前で起こりました。彼女達の話によれば、目を開けていられない程の光の粒子がわたくしに集まり吸収されたとの事でした。
わたくしの体感としては優しい風がわたくしの回りに吹いたと言う感じでした。
今思えばあれは女神様の息吹きだったのかもしれません。
その後、聖女の証の花が瞳に現れ、わたくしは神殿に身をおくことが決まりました。
生活は朝夕のお祈りは変わりませんでしたが、雑用がなくなり、代わりに病気やケガの治癒を行うようになりました。
患者様は貴族の方々が大半を占めていたように思います。
それでも途切れる事なく治癒の力を求め各地の人々がお越しになられました。
毎日忙しくしていても、治療した皆様の喜ぶお顔を見ているととても遣り甲斐を感じ、充実した日々を送っておりました。
ところが段々と体が重くなり、頭痛や倦怠感、吐き気など体調不良が起こるようになりました。そうして気がついたのです。治癒力を使うと体調不良になるということに。その反動が段々と強くなり、体がボロボロになる頃、聖女としての力は命を削って使うことが出来ているのだと身をもって実感いたしました。
そしてわたくしは怖くなったのです。
このまま力を使い続ければわたくしは死んでしまう。
わたくしは死にたくないと思ったのです。
それからわたくしは聖女の力が失くなったと直属の司祭様に嘘の報告を致しました。
それは上のお偉い方々へも伝えられ、何度か面会をされましたが、力をお見せすることはいたしませんでした。
人を騙したのは始めての事で、ひどく後ろめたい気持ちになりましたが、どうしても死ぬ恐怖に抗えませんでした。
力の失くなったわたくしを、神殿がどうするのか心配では有りましたが、まだ瞳に聖女の証が残っていた為、神殿に残ることを許されたようでした。
そんな時に貴方様を見かけたのです。
神官に、切羽詰まった様子でお話しているのを聞いてしまいました。
貴方様の妹様がご病気だと知りました。
今にも儚くなってしまいそうだと言うことも。
それでもわたくしは自分の命を優先いたしました。
自分本意なひどい女だと、わたくし自身思いますし、ずいぶんとわたくしを恨みに思ったことと思います。
そんな風に嘘をつき、人を見捨てたわたくしに神様は罰をお与えになったのでしょう。
神殿の寄付金を横領したという罪である日突然わたくしは罪人になってしまいました。
わたくしには心当たりがございませんでしたので、どなたかの身代わりとなってしまった事はわかりましたが、以前のように今回もわたくしの話を聞いて下さる方はおりませんでした。
でも、これで良かったのです。
罪人の村での強制労働が決まり、勝手ながらわたくしは、ほっとしたのです。
病で苦しむ方々の治療を放棄したわたくしは、その罪深さゆえに罰を与へて欲しかったのかもしれません。
罪人の村での生活は過酷で、そして今まで味わったことのない辛いものでございました。
死んでしまうかも知れないと思ったことも幾度と有りますし、どうして生きているのかと思うときもありました。
それでも、過酷な5年を過ごしてこられたのは貴方様がわたくしを見張っていてくれたからに他なりません。
どういった経緯でわたくしに監視が付いたのかはわかりませんが、その命令下の中でも1度は、わたくしを信じて味方になってくれようとしたこと、本当に嬉しく生きる糧となりました。
貴方様がわたくしのただ1人の味方でございました。
貴方様の妹様を見捨てたわたくしを5年もの間おささえ下さりありがとうございました。
おかげさまで無事5年間の刑期が終わりました。村を出て、この先を考えなければならなくなりましたが、わたくしにはもう、先を生きる気力が残っておりませんでした。
ですので、最後に大恩ある貴方様に5年越しとはなりますが、妹様への治癒のお祈りをさせていただくことにいたしました。
長い間お待たせして申し訳ございません。
ご本人とは距離が有りますが、肉親の貴方様が近くにおりますので、女神様もわかってくださるかと存じます。
つきましては、お手数をお掛け致しますが、わたくしの亡骸をわたくしの掘り起こした穴に埋めていただければ幸いにございます。
ここは春には草花が一面に咲き乱れる場所でございます。
5年前、罪人の村へ運ばれる途中、偶然目に飛び込んできた場所でございます。
視界を埋め尽くす青がとても言葉に言い表せないほどに綺麗で美しく。
ここに眠りたいと最後のわがままでございます。
おわりになりますが、
貴方様と妹様にこの先幸おおからんことをお祈り申し上げます。
アナベル




