表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CIRCLE  作者: 志に異議アリ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/10

拡散者



イツキは夜明け前の広場に立っていた。

地球の低い脈動は、今や明確に焦りを帯びている。


世界中の軍が臨戦態勢に入り、互いを疑い、引き金をいつ引いてもおかしくない。


(……もう限界だ。俺がこのまま黙っていたら、地球も、人類も持たない)


イツキは呼吸をゆっくり整えた。


胸の奥に響く脈を、自分の鼓動と重ねていく。

共鳴した瞬間、視界が微かに揺れる。


(――地球、教えてくれ。[伝えるべき相手]は誰だ)


地面を通じて、重く、厚く、巨大な波がイツキの身体を貫いた。


映像ではない。

言葉でもない。

けれどイツキには理解できた。


世界の中心で人々の心を動かすひとつの火種。


地球が示した答えは――【発信力】


(……SNSか。

 世界中に一気に届く声。

国境も、言語も超える場所……)


既に人類は、政府よりもSNSで動く時代。


混乱している今ならなおさらだ。


だが、地球が指し示した相手はもっと明確だった。



巨大なオフィスの夜景。

無数のサーバー群。

黒いスーツの男。

世界人口の半数に届く発信力を持つ、たったひとり。


イツキは静かに目を開けた。


(……[彼]と繋がれ、と地球は言ってる)


ただの地質学者が世界でもっとも影響力のある男と繋がるなど、本来不可能だ。


しかしイツキには、自分にしかできない方法がある。


地球の脈に触れるたび、微細な振動が手のひらから漏れ、足元から世界へ広がっていく。


それを、ある一点へ狙って送るのだ。


イツキは地面に片膝をついた。


「……届いてくれ。

今だけは、届かないと困る」


ゆっくりと、深く、地球の鼓動に合わせる。


都市の電線が微かに唸り、ビルのガラスが震え、

遠く離れた海の波が一拍遅れて立つ。


その波は世界中を駆け巡り、

地球上の[その男]の足元まで辿り着いた。



――その頃。

Z本社ビルの最上階。


CEOの男は、突然立ち止まり、床を見下ろした。


「……なんだ、この振動?」


部下たちは誰も気づいていない。


だが彼だけは、地面の微細な揺れに反応した。


次に、スマホが震えた。

着信ではない。

通知でもない。

どこにも繋がらないはずの振動。


彼の目が細くなる。


「……誰か、俺にアクセスしようとしている?」


男は興味深そうに口元を歪めた。

世界が混乱している最中に、このタイミングで異常な揺れ。

しかも自分にだけ届く奇妙な振動。


「面白い。……誰だ?」


イツキは地球の脈動を通じて、世界で最も拡散力を持つ男に[合図]を送った。

それは言葉ではなく、

ただ一つのメッセージ――


『地球が怒っている。話がある』


次の瞬間、男のスマホが一度だけ光った。


アプリ名も通知名も無い。

ただひとつ。

そこに表示されたのは、見たこともない送り主。


【⠀ITSUKI⠀】


男は笑い、囁いた。


「……いいだろう。話を聞いてやるよ」


物語はついに、人間世界の中心へ届き始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ